2014年11月17日

仮登記の利用について

 今回は、仮登記の仕組みとその利用上の問題点について解説します。というのも、仮登記を行う動機は、目の前にある何かしらの問題を解決するためであることが多いのですが、そもそも仮登記がその目的達成のための適切な手段といえるか否か、整理しておく必要があると考えるからです。
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1. 仮登記とは
(1) 仮登記の意味
 仮登記とは、本登記をするための条件が整わない状況で、とりあえず権利の順位を保全するために用いられる登記のことです。本登記と異なって、仮登記のままでは対抗力(利害関係をもった第三者に対して、自分の権利を主張することが出来る効力)はありません。しかし、後日仮登記を本登記にすることによって、仮登記を行った時点での順位で本登記の順位が確定する、というものです。

 例えば、AからBへ不動産が売却され、B名義の所有権移転の仮登記がなされたとします。ところが、Aは同じ不動産をCに対しても二重に譲渡して、C名義で所有権移転の本登記がなされてしまったとします。このような場合でも、Bの仮登記を本登記にすれば、BがCに優先します。

 このことを、仮登記の「順位保全効」といいます。この順位保全効について、仮登記を本登記に改めた場合には仮登記時点に遡って対抗力が生ずる、と解することも可能ですが、細かいことを言えば、対抗力が遡及するのではなく、順位が仮登記の時を基準として判断されると考えるべきでしょう。なぜなら、仮登記後かつ本登記前に上記Cによってなされた処分・利用も合法であって、Cが対象不動産を使用収益していたとしても、それが遡及的に不当利得になるわけではないからです。


(2) 仮登記の種類
 仮登記には、手続き上の要件が整わない場合に行うことのできる仮登記(不動産登記法第105条1号)のほか、登記の前提となる請求権を保全しようとする場合やその請求権が始期や停止条件にかかる場合に行うことのできる仮登記(同法同条2号)があります。前者を1号仮登記、後者を2号仮登記と呼ぶこともあります。

 1号仮登記を行う場合とは、登記申請に際して、登記識別情報又は第三者の許可・承諾書を提出することが出来ない場合です(不動産登記法第105条1号、不動産登記規則第178条)。第三者の承諾書の提出が出来ない場合とは、例えば、株式会社が重要財産である不動産を売却したが、未だ取締役会の承認を得られていない場合(会社法第362条4項1号)等のことです。

 2号仮登記を行う場合とは、売買予約契約(買主が予約完結権を行使したときに所有権が移転するという契約)を締結した場合や、農業委員会の許可を条件として農地の売買契約を結んだ場合等のことです。つまり、契約等を結んではいるが、対象不動産の所有権移転の効果自体はまだ発生していない場合です。


(3) 登記申請手続きについて
 仮登記も、登記権利者(買主等)と登記義務者(売主等)との共同申請によって行うのが原則です。但し例外的に、仮登記申請手続きには若干の簡略化が認められており、登記義務者の承諾書(又は仮登記を命ずる裁判所の決定書)を付して登記権利者から単独申請することも認められています(不動産登記法第107条1項)。

 これに対して、仮登記に基づいて本登記をする場合には、手続きの簡略化は一切認められません。すなわち、原則通り、登記権利者と登記義務者による共同申請を行うことになります。また、添付書類についても省略(不動産登記法第107条2項等)は認められず、さらに仮登記後に生じた登記記録上の利害関係人の承諾書等を提出する必要があります(不動産登記令別表69項)。要するに、仮登記を本登記に改める手続というのは、始めから本登記を行うのと同等かそれ以上の手続的負担のかかるものなのです。



2. 仮登記の利用方法検討
(1) 担保目的での所有権移転仮登記の利用
 かつて、債権担保の目的で、所有権移転仮登記を利用するという本来の目的とは外れた仮登記の利用方法が一般化していました。これは、「借金の返済が出来なくなった場合には、債務者所有不動産の所有権を債権者に移転する」旨の契約を結び、これに基づく2号仮登記を行うというものです。

 しかし、少額の債務のために価値の高い不動産が奪い取られてしまうというような暴利行為を許してしまう仕組みであったために、このような担保目的での所有権移転仮登記の利用は仮登記担保法で規制されることとなり、現在ではほとんど見られなくなりました。

 仮登記担保法の規制下の現在でも、所有権移転仮登記を債権担保目的で利用することは、もちろん理論上は可能ですが、抵当権設定登記という手段があるのに敢えて所有権移転仮登記を行うことには全く合理性がないばかりか、債権担保としての意味すら疑わしいと考えます。

 仮登記した所有権を本登記に改める必要が生じる場合とは、債務に絡む紛争が顕在化した時でもあります。そんな時に、本登記手続きに対する、登記義務者や利害関係人の協力が容易に得られるとは考えられません。そのような手続的な不安定要素をもった仮登記を、担保目的で使うことはお勧めできません。


(2) つなぎ融資の際に抵当権設定仮登記を利用する方法
 これは、現在最も多く行われている仮登記の利用形態です。

 例えば、DがE銀行から住宅ローン融資を受けて、土地を購入し、その後に建物を建築するといった状況を考えてみましょう。ところが、E銀行住宅ローンの融資条件の一つとして、完成建物が存在していることが規定されていたとします。

 この場合、E銀行の融資は、建物が完成してから実行されることになりますが、それでは、土地を購入する時点で、Dが融資をあてにすることは出来ないという結論になってしまいます。

 このような不便を回避するために利用されるのが「つなぎ融資」と呼ばれる融資形態です。土地購入資金や建物建築費用を賄うために、建物完成までの間、つなぎ融資専門の金融機関Fが融資を行うのです。この時、F金融機関は、つなぎ融資債権を担保するために、Dが購入した土地に対して抵当権設定仮登記をつけます。

 E銀行の本融資が実行された時には、F金融機関の抵当権設定仮登記が抹消され、代わりに、土地と完成した建物に対してE銀行の抵当権設定登記(本登記)が行われます。つまり、F金融機関の抵当権設定仮登記は、始めから短期間で抹消されることを想定して、行われるのです。

 何故つなぎ融資債権を担保するために仮登記が用いられるのでしょうか?それは、抵当権設定のための本登記手続きと仮登記手続きにかかるそれぞれの登録免許税(登記申請のための国税)に違いがあるからです。抵当権設定の本登記のためには、債権額の1000分の4の登録免許税が必要になります。例えば、2000万円の融資についての抵当権設定のためには、8万円の登録免許税が必要になります。これに対し、同じ条件で仮登記をするのであれば、登録免許税は、物件数×1000円に過ぎません。土地1筆に対して、2000万円の債権の抵当権設定仮登記をつける場合なら、登録免許税はたったの1000円です。

 どうせ近い将来に抹消されることが予定されているのであるから、高額の登録免許税を払って本登記で抵当権を設定するよりは、仮登記で十分に債権担保という目的を達成できるのです。E銀行の住宅ローン本融資が実行されれば、F金融機関はつなぎ融資分の弁済を確実に受けることが出来るのですから。

 本来の仮登記の利用目的からは外れた活用方法ですが、つなぎ融資を担保するための仮登記は、弊害も少なく、広く利用されています。


(3) 所有権移転の順位確保のための所有権移転仮登記
 所有権移転の本登記をするための条件が整っていながら、何らかの理由で、敢えて所有権移転仮登記を利用することについて、その弊害を検討してみましょう。ここで、私が利点の方を検討しない理由は、このような仮登記の利用方法には百害はあっても一つの利益もないと考えるからです。

 所有権移転登記のための条件が整っていながら、敢えて所有権移転仮登記を利用する場合とは、以下のような事例です。
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(事例)
 5年前、Gは、H銀行の住宅ローン3000万円の融資を受けて、JR六甲道駅から徒歩5分のマンションを購入しました。しかし、マンション購入から程なくして、突如としてGの東京転勤が決まり、Gは、妻Iと子供達を残して、単身で東京に引っ越すことになりました。
 離れて暮らしていた5年の間に、GとIとの互いに対する愛情は冷めていきました。ついに、GとIとは、離婚することを前提に協議を始めました。しかし、そこで障害となったのが、マンションをどうするかという問題でした。
 所有者であるGとしては、もはや住むことのなくなったマンションにはなんの未練もありません。そればかりか、住宅ローンを払い続けるのも馬鹿らしいので、高値で売却処分できるうちに処分して、その処分代金で住宅ローン債務を一括返済したいと考えました。
 しかし、マンションに居住しているIにとっては、子供達の学校のこと、住居地を中心として作り上げてきた交友関係のこと、新たに賃貸住宅を借りて住み替える費用のこと、等を考えると、住み慣れたマンションから出て行きたくはありません。マンションを処分し出ていかなければならなくなるくらいなら、むしろ残りのローンを自分が肩代わりしてでも、住み続けたいと思いました。
 いろいろ話し合った結果、マンションについては処分せずに、GからIに対して財産分与し、その代わり、離婚成立以降は、IがGに代わって住宅ローンを支払うことにしようということになりました。
 しかし、財産分与によるGからIに対するマンションの所有権移転の登記をするということになると、Gには一つ引っかかることがありました。それは、H銀行で抵当権設定契約を結んだ時に、銀行の担当者から、「担保不動産の所有名義を勝手に変えてはいけません。勝手に変えた場合には、ローンの残高を一括で支払ってもらうこともありえます。そのことは、契約書の第○○条にもちゃんと記載されています。」と釘を刺されていたことでした。Gは、離婚に伴う財産分与のことをH銀行に知られたくはありません。


 上記のような事例で、H銀行との契約条項を潜脱する手段として、所有権移転仮登記を利用すれば良いという考え方があります。しかし、このような場合に仮登記を利用すべきではありません。私がそのように考える理由は、以下のとおりです。

 @. 本登記であれ、仮登記であれ、銀行との契約違反であることには変わりはない。
 A. 遠い将来、仮登記を本登記に改める際、Gの協力が得られるか予測できない。
 B. 登記記録上利害関係を有する第三者が生じた場合、本登記手続きへの支障となる。

 上記の事例において、登記手続きに関する弊害だけでもこのとおりです。その他の弊害も多数ありますが、ここでは省略します。逆に、メリットは何もありません。


3. 結びにかえて
 現在では、仮登記の活用方法として有用と考えられるのは、つなぎ融資の債権を保全するという利用法(上記2-(2))くらいのものです。それ以外の目的で付けられた仮登記というのは、当該不動産に何らかの事故があることを推測させます。

 最近、様々な問題(特に離婚に伴う財産分与や税金の問題)に対して、あたかも仮登記によって解決を図ることが出来るかのごとく喧伝する不徳な者がいるようなので、注意を喚起するために今回のテーマを取り上げた次第です。


 今回も長い文章を読んでいただき、ありがとうございます。皆様の忌憚のないご感想をお寄せください。

(補稿)
建物譲渡特約付き借地権(借地借家法第24条1項)と仮登記について
1. 建物譲渡特約付き借地権とは
 これは、借地権設定から30年以上経過した時点で、借地権設定者(=地主)が借地権者から建物を買い取ることを定めた借地権のことを言います。建物譲渡特約付き借地権の利用としては、例えば、マンション等建物のディベロッパーが、建物の建設・運営という投資を回収するために必要な一定期間だけ土地を借り上げて、その後は借地権設定者が建物の運営を引き継ぐという事業の形態を想定したものです。

2. 仮登記による譲渡特約履行の確保
 建物譲渡特約付き借地権は、@一定期間経過後に売買という法律効果が発生する(期限付き売買)又はA一定期間経過後に借地権設定者が売買予約権を行使することができる(売買予約)特約を定めるものです。借地権設定者は、この特約の権利を確保する目的で、所有権移転仮登記(2号)を利用することができます。

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posted by 司法書士 前田 at 23:00| Comment(0) | 登記業務
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