2015年05月09日

折畳み小径車の整備(コースターブレーキ編)

 ウノ(tern製の折畳み小径車)の整備についての続きです。今回は、コースターブレーキの分解整備です。
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(tern link uno 2012)

 コースターブレーキは、あまり一般的な制動システムではないので、ここでの整備の手順がそのまま誰かの役に立つとは思いません。しかし、コースターブレーキに限らず、整備しにくいものを扱う際に、どのようなことに注意するのか、大まかなイメージをつかんでもらえたらと思います。


1. コースターブレーキとは
 コースターブレーキになじみのない方のために、コースターブレーキについてちょっと説明したいと思います。
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(一時流行ったビーチクルーザーには、コースターブレーキ搭載のものも多い。)

 コースターブレーキとは、「コースター」機構とフットブレーキとが一体化したハブのことです。コースター機構とは、逆回転させた車輪からの動力をクランクに伝えない仕組みのことです。

 試しに、普通の自転車(「フリーギア」と呼ばれる機構を採用しています。)を後ろ向きに押してみてください。車輪の動きにつられて、クランクも逆回転を始めるはずです。ところが、コースター機構を備えた自転車を後ろ向きに押しても、クランクは動きません。コースターとは、後ろ向きに「惰性で走る( coast )ことが出来る」という意味なのです。

 このコースター機構を内蔵したハブに、クランクを逆回転させたときにブレーキがかかる仕組み(フットブレーキ)を付け加えたものがコースターブレーキです。ペダルを正回転させれば前に進み、ペダルを止めれば惰性で前にも後ろにも進むことができ、ペダルを逆にこげばブレーキがかかる、という機能を持った変わり種ハブです。

 コースターブレーキは足で操作するモノなので、ケーブルが要りません。折畳み自転車にとって、ケーブルの取り回しは頭の痛い問題です。コースターブレーキなら、そんな問題が解決します。特に、ウノのようにシングルスピードの場合には、変速のためのケーブルもありません。さらに、アメリカ仕様のウノは、前ブレーキすらついていませんので、ケーブルが一切ない自転車ということになります。


2. コースターブレーキ整備
(1)予習
 未知に近い機械をいじるときには、可能であれば、前もってダイアグラム(分解図)を確認すべきです。このコースターブレーキのようにシマノの部品であれば、型番からネットで簡単に検索することが出来ます。
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(型番から分解図を探して、構造を把握する。)

 仮に、全く手掛かりをつかめないような機械を分解する場合でも、類似の機械についてダイアグラムを準備し、工程ごとに途中経過の写真をたくさん撮っておくべきです。部品の取り付け方向や組立順序等を一つ間違っただけで、機械としての機能が全く失われてしまうことはよくあることだからです。

 ダイアグラムを観察してみると、Jドライバーの先にネジ溝が切ってあることが分かります。ペダルを正回転させれば、JドライバーがHクラッチをしっかりととらえて、ホイールを回します。これに対して、ペダルを逆回転させれば、JドライバーがHクラッチを突き放して、クラッチに押されたGブレーキシューが、ハブドラムの内壁に押し当てられてブレーキがかかるのです。


(2)分解
 先ず、フレームからホイールを外します。ブレーキのCリアクションアームもフレームに固定してあるので、これも外します。
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(フレームからホイールを外す。)

 初めにドライブ側から始めます。コグ(スプロケット)は、バネのようなC型ロックリングによってハブに固定されていますので、マイナスドライバー等を使って外します。ロックリングを外せば、コグは簡単に抜けます。
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(バネ状のロックリングを、マイナスドライバー等を使って外す。)
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(コグは、溝にあわせてはめてあるだけ。裏表があるので、記録しておく)

 次にホイールをひっくり返して、反ドライブ側を上に向けます。Cリアクションアームを手でおさえて、スパナ等でAロックナットを外します。ロックナットが外れれば、あとは工具を使わずにB〜Fまでの部品を反ドライブ側から取り外すことが出来ます。
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(反ドライブ側の玉押しのロックナットを緩める。)
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(工具なしで、外せる。真っ黒くて、何がなんだか・・。))
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(グリスを拭いたら、部品の形が分かるようになった。)

 ドライブ側からは、I〜Mまでの部品を抜きます。
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(ドライブ側から、軸ごと部品が落ちる。)
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(落ちた部品。)

 最後に、反ドライブ側から、ハブドラムの中に残ったGHを抜きます。
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(クラッチ。)
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(ブレーキシュー。)

 取り外した部品は、ダイアグラムのコピーの上に並べて、部品の位置や方向等を間違えないようにしておきます。
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(分解図の上に並べれば、組み立ての手順が分かりやすい。)


(3)組立
 それぞれの部品について、真っ黒に汚れたグリスをふき取り、キズや摩耗の有無を確認します。部品を洗う際には、ペイント薄め液(油性)又は灯油を使用します。
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(部品を清掃しながら、グリスの汚れ具合、傷や磨耗をチェック。)
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(薬剤を使っても良いが、室内での作業では換気に注意。)

 組み付けに使用するのは、耐熱性に優れたウレアグリスです。コースターブレーキは、金属同士の摩擦を利用して制動するため、熱が発生しやすく、通常のグリスでは溶け出してしまいます。
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 ブレーキにグリスを使用するなんて、初めて聞く人も多いでしょう。しかし、身近なところでは、ママチャリに採用されているローラーブレーキも同じような仕組みであり、常に内部をグリスで満たしておくべきものです。ママチャリをこぐときに、キーキーと音が鳴って、ペダルが重いのは、ローラーブレーキのグリス切れが原因であることが多いのです。コースターブレーキも、グリスが切れれば同じことが起こります。
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(ローラーブレーキも、熱がこもりやすい。定期的なグリス補充は基本。)
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(耐熱性の専用グリス。)

 分解した部品にたっぷりとグリスを塗って、分解した時と逆順序で組み付けていきます。手順は、ドライブ側からIハブシャフトに通したFJ〜Cをはめ込み、反ドライブ側からH〜Aを順次はめ込んでいく、というものです。
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(部品ごとにグリスを詰め込みながら・・)
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(ハブシャフトに部品を重ねて、ドライブ側から組付ける。)
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(ハブドラム内側にもたっぷりとグリスを塗る。)
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(反ドライブ側から、ブレーキシュー、クラッチ、ベアリング、玉押し、の順に組付ける。)
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(反ドライブ側。玉押しまで組付け終わった状態。)
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(ドライブ側に、コグをはめる。C型ロックリングははめにくい。)
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(握れば先端が開くロックリングプライヤー。なくてもかまわないが、あれば便利。)

 最後にベアリングの玉あたりを調整して、ロックナットで固定します。
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(玉あたりを調整して、ロックナットを固定。)
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(コグをひねってみて、クラッチとブレーキの動作を確認。)


3. ドライブトレインの調整
 ウノはシングルスピードであり、ペダルを逆回転させることによってブレーキを掛けるので、普通の自転車以上にチェーンの張りには注意しなければなりません。走行中チェーントラブルが起きれば、ブレーキまで効かなくなってしまうからです。

 まず、後ホイールをフレームにのせて、クランクを取り付けます。フィキシングボルトを締め込むと、クランクがボトムブラケット軸に圧入されます。
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(ホイールをフレームに仮に載せる。)
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(クランク取付け。)

 チェーンは、中央部を指で押した時に、上下に1.5〜2.0cm程度遊びがある程度に調整して、ホイールを固定します。ところが、これは口で言うほど簡単ではありません。
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(コースターブレーキのチェーン調整は慎重に。)

 ウノには、シングルスピードバイクに通常ついているチェーン引き金具がついていませんので、アクスルナットを強く締め込んでホイールをフレームエンドに固定し、そのことによってチェーンの張りを保ちます。チェーン引きがついていないということは、チェーンの遊びの調整も、ホイールがフレームの中心に通るようにするための調整も、手で押したり引いたりして行うということです。アルミ合金という柔らかい素材でできたフレームへの負担も大きくなりますし、なぜチェーン引きをつけなかったのか理解に苦しみます。後付けで、チェーン引きを設置するためのスペースの余裕もありません。
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(ホイールとフレームを押したり引いたりして、チェーンの張りを調整。)
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(フレームの中心にホイールが納まっているかを確認。)
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(リアクションアームも固定。)
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(完成。)

 最後に、チェーンに機械油をさして、作業は終了です。
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(チェーン油の種類にこだわるより、こまめに手入れすることの方が重要。)


 近所を走り回ってみましたが、クランクもホイールもとても軽く回ります。コースターブレーキもしっかりと効きます。今回の整備によって、ウノの動きが良くなったのは当然ですが、あらたな課題もいくつか発見することができました。実りの多い作業であったと言えましょう。


 普段街中で整備不良の折畳み小径車を見かける度に、私はちょっと複雑な心境になります。折畳む機能がついているために、ただでさえ壊れやすい種類の自転車なのに・・。折畳み小径車に限ったことではありませんが、自転車を大切に扱わない人が増えたように感じます(私の少年時代と比較して)。そんな人達は、多分、運転の仕方も心得ていないのでしょうね。

 では、また・・。
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posted by 司法書士 前田 at 18:06| Comment(2) | 自転車
この記事へのコメント
僕はコースターブレーキにはローラーブレーキ用のグリスを使用します。
基本的にモリブテングリスです。
それ以外のウレアグリス、シリコングリスでも、しばらくは持ちますが、内部の摩耗、焼き付きを起こします。

あと、ローラーブレーキのグリス切れの場合、ブレーキを掛けた時にだけキーキー鳴るのですが、多くの場合、チェーンの錆付き、ハンガーのグリス切れですよ
Posted by コースターフリーク at 2017年01月22日 15:14
コースターフリークさん、コメント有難うございます。

たしかに、ローラーブレーキを使用する典型例はママチャリですから、あちこち整備不良があるのが普通でしょう。ブレーキの不良よりも、チェーンが錆びるのが先でしょうね。

私のウノのコースターブレーキは、この整備をしてから1年半以上経ちましたが、まだいい調子です。ミニベロなので、ブレーキが超高温になるほどのハードな載り方をしないおかげかも知れません。
Posted by 前田実 at 2017年01月28日 22:29
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