2015年08月29日

うまいラーメンの作り方を教えろ!の巻

 今回は、いつもとは趣向を変えて、思い出した話をしてみます。ちょっと脚色を加えすぎてしまいましたが・・。



 山本の経営するラーメン店『ホームラン軒』は、玄人好みの塩ラーメンが人気です。透きとおった一見何でもなさそうなスープは、口に含むとすっきりと香り、麺に絡むと芳醇な味わいに変化します。『ホームラン軒』は、今では全国からラーメンマニアが巡礼に訪れる『聖地』とまで言われています。昼飯と夕飯時ともなれば、店の前は、毎日長蛇の列でにぎわいます。
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 それは、初秋のある日、昼食の大混雑がひけた午後のことでした。店には、数人の常連らしい客のラーメンをすする音だけが響いていました。

 「はぁ、今日もひと山こえたな。夕方に向けて充電するか。」そう言うと、山本は、弟子の太朗ちゃんに厨房を任せて、一番奥の客席に座って、遅い昼食を食べ始めました。

 ガラガラガラッ・・。

 引き戸の渇いた音がすると同時に、両手にスーパーのレジ袋をさげた初老の男が、『ホームラン軒』に入ってきました。男は、厨房の太朗ちゃんを見つけると、「おいっ、そこの若いの。店の主人はいるか!」と、いきなり怒鳴りつけました。

 山本は、箸を止めると、「私がここの店主ですが、何かご用でしょうか?」と言って、奥から立ち上がりました。

 「おお。あんたが主人か。実は、インターネットでいろいろ調べて、ここのラーメンが旨いと評判だったので、わざわざ隣町から2時間かけて歩いて来たんだ。」

 山本は、「そうですか、お客様。それは、遠いところを大変ありがとうございます。席に掛けてお待ちください。メニューは、テーブルにございます。お水と麦茶はセルフサービスです。」と、穏やかな人柄のにじみでるような調子で言うと、自分の昼食を切り上げて、厨房に戻ろうとしました。

 すると、男は興奮したように両の手をガサガサさせて、「違う、そうじゃない、違うんだ。わしは、あんたにラーメンの作り方を教わりに来たんだ。わしも、近いうちにラーメン屋を出そうと思っとる。是非、あんたの玄人好みの味とやらを教えてくれ。」と、山本に、ググッと自分の顔を近づけました。

 山本は、口をへの字にして、数秒間、もしかしたら数十秒間、じっと店の天井に目をやりました。男は、山本の鼻の穴を探るかのような目つきで、山本の返事を待ちました。

 そのわずかな時間に、山本の脳裏を様々な記憶が巡りました。

 もともとサラリーマンだった自分が、妻の反対を押し切って、ラーメンの世界に飛び込んだこと。右も左も分からない頃、修業が辛くて、店のトイレでよく泣いたこと。友人から借金までして出した最初の店は、いつも閑古鳥が鳴いていたこと。その店は、一年もたずに潰れてしまったこと。金を貸してくれた友人に、泣きながら頭を下げたこと。その横で、妻も泣きながら一緒に頭を下げてくれたこと。再起を誓ったこと。そして、今の店があること。
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 ついに、山本は、男に向かって口を開きました。「申し訳ございません。ラーメンの作り方をお教えすることは出来ません。」

 それは、山本らしい、いつも通りの柔らかな口調でした。

 「別に、あんたに迷惑はかけない。材料だって、ほれっ、このとおり。近所のスーパーで、全部調達してある。今ならヒマだろ。厨房だけ貸してくれりゃいい。あんたは、わしがラーメンを作るのを横から眺めて、口だけ出してくれりゃいい。」男は、山本の目の前に、近所のスーパー『玉出屋』の膨らんだレジ袋2つをぐいと突き出しました。

 山本は、顔の前のレジ袋を、手で振り払いました。山本の手は、わずかにこわばっていました。

 「申し訳ございません。ラーメンを作りたいのであれば、ご自宅でお作りください。私も、商売でラーメン屋をやっているものですから、私にとっては、ラーメンは命と同じです。ラーメンを食べないのなら、どうかお引き取り下さい。」山本の唇も、かすかに引きつっていました。

 「なんだ、客に向かってその態度は!ラーメンが命だと?ふざけたことをぬかすな。ラーメンぐらい誰だって作れるだろ。作り方を独り占めするとは、なんとケツの穴の小さい男だ。お前みたいな偉そうな奴の作るラーメンなんか、頼まれたって食うか!」男は、安物風船のように膨らんで、まくし立てました。そして、ひとしきり暴言を吐くと、戸を乱暴に蹴り開けて、出ていきました。

 男の去った店内には、またラーメンのすする音だけが響いていました。山本も、奥の席に戻って、また、何事もなかったかのように昼食を食べ始めました。

 太朗ちゃんは、チャーシューを切りながら、山本の背中にちらりと目をやりました。『俺も、いつか大将みたいになるんだ・・。』
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posted by 司法書士 前田 at 16:01| Comment(0) | 日記
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