2018年04月21日

会社の設立を考え直すべき理由

現行の会社法のもとでは、資本金1円でも株式会社を設立することができます。また、合同会社という有限責任の会社形態も選択することができます。株式会社を設立するのに最低資本金が1000万円も必要であった時代に比べると、会社設立に対するハードルはぐっと下がっているといえます。

当事務所でも「会社を設立したい。」という相談をよく受けますが、そんな相談者の話を聞いていると、会社設立には向いていないのではないかと思うこともしばしばです。そこで、今回は、会社設立を考え直した方がよい理由について考えてみましょう。

* 本稿で述べることは、会社以外の法人形態(社団法人、財団法人等)においても当てはまります。
kigyou_business_man.png



1 起業≠会社
起業しようとする人に最もありがちな勘違いは、起業することと会社を作ることとが同じというものです。

起業というのは、文字通り事業を起こすことです。つまり、物を作ったり、製品を仕入れて売ったり、サービスを提供したりすることを事業として(継続的な形態で)行うことが起業するということなのです。したがって、会社を作らず、個人で事業を起こすことも、立派な起業です。

一方、会社を設立するということは、会社法所定の一定の手続を履践することでしかありません。例えば、株式会社を設立する場合なら、定款作成、出資、役員選任、設立登記といった一連の手続を行います(会社法第2編第1章)。また、会社の設立自体は、事業実態がなくても行うことができます。つまり、会社とその事業とは別ということです。

そもそも、会社という制度は、大雑把に言えば、スケールメリットを利用するための仕組みです。ところが、起こしたばかりの事業で、いきなりスケールメリットを利用することは稀にしかありません。例外的なのは、すでに個人として事業拡大を成し遂げた人が会社設立する(個人事業の法人化)とか、会社の一部門を分社化(子会社の設立等)するとかいう場合くらいでしょう。


2 会社の設立・管理の費用
会社を設立するにも運営するにも結構費用がかかります。個人事業と比較して会社に特有の費用というのは、次のようなものでしょう。

ア 設立や変更等登記の費用
イ 税務・会計処理の費用
ウ 法人住民税
エ 年金・社会保険等の費用

まず、会社の登記をするためには登録免許税という税金を納めなければなりません。例えば、株式会社設立の登録免許税は15万円〜、変更登記は項目別に各3万円です。また、株式会社設立の前提として、定款を公証してもらう必要がありますが、この公証人手数料は5万円超、さらに定款に貼付する印紙は4万円分かかります。以上の他に、もしこれら一連の手続を司法書士に依頼すれば、その報酬を支払う必要があります。

そして、会社の税務・会計処理は、同規模の個人事業のそれよりも複雑です。もしこれを税理士や会計士等の専門家に依頼するのであれば、その報酬を支払う必要があります。

さらに、会社の場合、個人と違って、たとえ赤字であっても、毎年必ず法人住民税の均等割7万円〜を納める必要があります。

最後に、会社設立のメリットとしてあげられることの多い厚生年金や社会保険についても注意が必要です。これらは、従業員にとってメリットでしょうが、会社にとっては経費です。特に実質が個人事業と変わらないような会社の場合には、節税メリットを上回る経費が増えるだけという結果に終わることも多いのではないでしょうか。
money_tokeru_yen.png


3 会社の5年生存率
私が以前勤務していた司法書士事務所で、その事務所が設立に関わってきた多くの会社に対して季節の挨拶状を一斉に送ったことがありました。すると、驚いたことに、半数くらいの挨拶状が、宛所不明として返送されてきてしまいました。

しかしこのことは、統計的には驚くことではないのです。というのも、ちょっと古いデータ(経済産業省2005年度「工業統計表」)によれば、設立された会社が翌年に存続している割合は79.6%、さらに翌年まで存続している割合はその87.6%、さらにまた翌年まで存続している割合はその90.0%、さらにまたまた翌年まで存続している割合はその91.0%、さらにまたまたまた翌年まで存続している割合はその92.2%、・・でしかないからです。つまり、新設会社の5年生存率は52.65%(=100×0.796×0.876×0.900×0.910×0.922)にすぎないわけです。この数字は、私自身の経験にも合致しています。会社を設立したまではいいが、比較的早いうちに事業を放棄してしまったという事例は枚挙にいとまがありません。

ところで、自然人の場合、その権利義務は、死によって相続承継されるなり消滅するなりが決定します。これに対し、会社について事業を終結してその権利義務を整理する(会社の「死」)ためには、正しく(法律の予定する方法で)は解散・清算又は破産という手続を経なければなりません。

そして、このようにして会社が「死」ぬのにも多額の費用がかかります。解散・清算ならば一連の登記、債権者保護手続、清算税務等のため、破産ならば申立代理人や管財人への報酬等のための費用は馬鹿になりません。

正しい方法で会社の事業を終結させた場合の多額の費用を嫌って、うやむやのままに事業を放棄する事例は後を絶ちません。正式でない会社の「死」の結果、登記記録には存在するけれども、実際にはすでに事業実体のない「休眠会社」が増加してしまったことは、商業登記制度における大きな問題の一つです。


5 まとめ
会社設立について、司法書士、税理士、社労士、コンサルタント等をはじめとする「専門家」は、そのメリットばかりを強調して設立を勧めるのが常でしょう。しかし、そのようにするのは、実は、彼ら「専門家」自身が会社の恩恵を最も受けるからに他なりません。つまり、利益相反関係のある「専門家」からのアドバイスというのは、じっくりと疑ってかかるべきということです。そもそも、彼らは、それぞれの分野(司法書士→登記、税理士→税務、社労士→労務、コンサルタント→他人の経営のダメ出し)の専門家ではあっても、責任を負って自ら経営することの専門家ではないのです。

もしあなたが本稿で述べたようなことを十分検討したうえでそれでも会社を設立すると決めたのであれば、それはきっと賢明な判断なのでしょう。事業の成功を祈るばかりです。


posted by 司法書士 前田 at 13:07| Comment(0) | 企業法務
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: