2018年05月07日

オートローンで買った自動車と破産及び個人再生 (最判平成22年6月4日と最判平成29年12月7日)

信販会社の「オートローン」を利用して買った自動車は、ローンの支払を一定期間遅滞すると、信販会社に取り上げられてしまいます。信販会社がこのようにするのは、中古自動車の残存価値から残債権を回収しようとするためです。

今回は、破産や個人再生(以下「破産等」という。)におけるオートローン返済途中の自動車の扱いについて考えてみましょう。借金で首が回らなくなった人が高価な自動車に乗っているというのは皮肉ですが、ごくありふれたものです。
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1 所有権留保とは
(1) 自動車売買における所有権留保とは
「所有権留保」とは、典型的には、割賦販売における代金債権を担保するために、買主への目的物引渡後もその所有権を売主に留保しておくというものです。このように担保目的で留保された所有権を「留保所有権」と呼びます。所有権留保は担保を目的としているに過ぎないので、買主は、目的物を自由に使用することができます。

所有権留保が利用される典型は、自動車の売買においてです。これは、登録制度により権利関係が分かりやすいうえに、中古市場が発達しており評価・換価が容易であるためです。

オートローンを利用した自動車の売買においては、信販会社(例:○○ファイナンス株式会社)を所有者として登録したり、販売会社(例:△△自動車販売株式会社)を所有者として登録したりすることによって代金等の債権を担保します。信販会社と販売会社のどちらが所有者として登録されるのかという点は、一貫した理由にもとづいて決まっているわけではありません。

例えば、売買と同時に信販会社が販売会社に対して一括で代金を立替払いするというような内容の契約であれば、信販会社が所有者として登録されるのが自然でしょう。なぜなら、立替金の求償債権を保全する必要があるのは、信販会社であるからです。しかし、この場合でも、販売会社に所有権が留保される例が多く見られます。

これに対して、信販会社が買主の(販売会社に対する)売買代金債務を保証するというような内容の契約であれば、販売会社が所有者として登録されることになるのが自然でしょう。なぜなら、売買代金債権を保全する必要があるのは、販売会社であるからです。しかし、必ずしもそのように決まっているわけではありません。

ここで登録上の所有者を誰にするかという問題は、販売側(販売会社及び信販会社)の都合であって、買主となる一般の消費者にとっては意識されることすらありません。しかし、破産等の倒産処理において、このことが問題になることがあります。


(2) 債権者平等原則と別除権
破産等の手続においては、多数の債権者について債務者の財産についての法律関係を集団的・包括的に処理するため、「債権者平等」を原則とします。一部の債権者の抜け駆けを許さないということです。したがって、例外として他よりも優先又は劣後すべき種類の債権についても、その順位は法律によって定まっています(破産法第98条等)。

一方で、債権者の中には、予めその債権の優先的回収を確保するために抵当権等の担保権を設定している用意周到な者もいます。これらの担保権者は、破産等が開始しても、その権利行使を制限されるいわれはありません。もともと、債務者が破産等するような事態に備えて担保権を設定していたわけですから。

そこで、一定の担保権は、破産等の手続外で行使することができるとされています(破産法65条第1項)。このような担保権のことを「別除権」と呼びます。別除権とされるのは、典型担保である特別の先取特権、質権及び抵当権(破産法第2条)に加えて、非典型担保である譲渡担保及び所有権留保も含まれると解されています。

したがって、自動車の所有権を留保している信販会社は、別除権を行使することができます。つまり、信販会社は、買主の破産等の手続にかかわりなく、自動車を引き揚げて、その換価金から自らの債権を回収することができるというわけです。

ところが、販売会社に自動車の所有権が留保されている場合、信販会社が別除権を行使できるかどうかについて問題があります。つまり、信販会社が別除権を行使する際の対抗要件として登録名義が販売会社のままでも十分といえるかという問題です。別除権は、債権者平等原則との関係上、他の債権者にも対抗できるものでなくてはなりません。

この問題について、結論を異にする二つの判例が存在します。


2 二つの判例の意味
(1) 最判平成22年6月4日
この判例は、所有権が販売会社に留保されていた自動車の買主について個人再生手続が開始したときに、信販会社が別除権を行使できるかが問題となった事例についてのものです。結論として、別除権の行使が否定されました。

裁判所が認定した本事案におけるオートローン契約の内容は、概略、次のようなものです。

買主、販売会社及び信販会社は、三者間において、買主が、販売会社から自動車を買い受けるとともに、売買代金を自己に代わって販売会社に立替払することを信販会社に委託すること、自動車の所有権が買主に対する債権の担保を目的として留保されることなどを主たる内容とする契約を締結した。また、買主は、販売会社に留保されている自動車の所有権が、信販会社が売買代金を立替払することにより信販会社に移転し、買主が立替金等(立替手数料を含む)債務を完済するまで信販会社に留保されることを承諾した。

上の契約内容のもとで、最判平成22年6月4日は信販会社の別除権行使を否定しましたが、その理由は、概略、次のようなものです。

本件三者契約は、販売会社において留保していた所有権が代位により信販会社に移転することを確認したものではなく、信販会社が、立替金等債権を担保するために、販売会社から自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当である。そして、再生手続が開始した場合において再生債務者(=買主)の財産について別除権の行使が認められるためには、債権者平等原則の趣旨から、再生手続開始の時点で別除権たる担保権につき対抗要件としての登録を具備している必要があるのであって(民事再生法第45条参照)、本件自動車につき,再生手続開始の時点で信販会社を所有者とする登録がされていない限り、信販会社が別除権を行使することは許されない。

ここで「代位」というのは、債務者に代わって第三者が弁済した場合に、第三者の債務者に対する求償権を確保するために、債権者の持っていた本来弁済によって消滅するはずの原債権及び担保権を存続させ、それらを第三者に移転するという制度(民法第499条、第500条)のことです。本判例は、留保所有権の移転は、代位によって生じたのではなく、当事者の合意によって生じたものと解しています。


(2) 最判平成29年12月7日
この判例は、所有権が販売店に留保されていた自動車の買主について破産手続きが開始したときに、信販会社が別除権を行使できるかが問題となった事例についてのものです。結論として、別除権の行使が認容されました。

裁判所が認定した本事案におけるオートローン契約の内容は、概略、次のようなものです。

買主、販売会社及び信販会社は、三者間において、販売会社が買主に対し自動車を割賦払の約定で売却すること、売買代金債権を担保するため販売会社に自動車の所有権が留保されること、信販会社が買主の委託を受けて買主の販売会社に対する売買代金債務を連帯保証することなどを内容とする契約を書面により締結した。

上の契約内容のもとで、最判平成29年12月7日は信販会社の別除権行使を認容しましたが、その理由は、概略、次のようなものです。

保証人たる信販会社は、主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており、弁済によって買主に対して取得する求償権を確保するために、留保所有権を法律上当然に代位取得する(民法第500条)。そして、買主の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については、所有権留保されていることは予測し得るというべきであるから、信販会社は、自動車につき信販会社を所有者とする登録なくして、所有権留保を別除権として行使することができるものというべきである。
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(3) 判断を分けたのは何か?
上記二つの判例の結論を分けたのは、販売会社から信販会社への留保所有権の移転が、合意によって生じたのか(最判平成22年6月4日)、代位によって生じたのか(最判平成29年12月7日)という点です。前者においては信販会社について対抗要件(=登録)の具備が必要であるのに対して、後者であれば販売会社についての対抗要件があれば充分であると判断されました。この区別は分かりやすいと言えます。

破産等の手続に関わる実務家にとって、両判例は、オートローン返済途中の自動車の扱いについて明確な基準を示したものとして重要な意味を持ちます。また、両判例を受けて、オートローンの契約条項の改定や担保実務の改善等も進むことでしょう。もっとも、両判例の結論が正反対になったことについて、信販会社の多くが販売会社と一体の関係にあるという現実に照らして、私自身としては非常に違和感を覚えますが。





posted by 司法書士 前田 at 17:44| Comment(0) | 金銭トラブル
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