2018年06月20日

清算における会社名義不動産の問題(株式会社編)


「事業を廃止しようと思うが、会社名義の不動産をどうすればよいだろうか?」

このような相談や依頼は、珍しいものではありません。

清算における会社名義不動産の問題は、司法書士の中心的業務である不動産登記分野と会社登記分野とが交錯する興味深いものです。それに、起業に関するよりも、事業の廃止に関する悩みの方が、当事者にとっては切羽詰まっているということも多いのです。
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1 清算とは
(1) 清算の意味
「清算」とは、一般に、権利義務関係を処理することを指します。例えば、お金の貸し借りにおける清算とは、弁済が完了して債権債務の関係が解消することです。

これに近い意味ですが、会社法上の清算とは、解散した会社が「一切」の権利義務関係を処理して残余財産を株主に分配するまでの手続のことを指します。

これは、会社という法主体の性質から当然に導かれることです。

そもそも会社とは、権利義務の集合に対して人格を与えたものであると理解することができます。換言すれば、会社は、特定の事業に関連して生じる(出資、貸し借り、取引等の)権利義務を、その事業を運営している自然人にではなくて、事業自体に帰属させるための法技術だということです。

生命のある自然人が死んでしまえば、その権利義務は、相続法に従って承継されるなり消滅するなりします。これに対して、もともと生命のない会社が事業活動を止めたからといって、その権利義務が、誰かに承継されるとか、消えてなくなってしまうというわけではありません。会社は、清算という過程を経てはじめて消滅することができるのです。


(2) 清算の手続概略
会社の事業を廃止したいというとき、まず、典型的には株主総会により「解散」を決議します(会社法第471条第3号)。解散によって、事業廃止することを手続的に明らかにするのです。

これに続く会社の清算は、利害関係人の権利保護・調整のため、法定の手続に従って行わなければなりません(会社法第2編第9章)。

清算の目的は、権利義務を処理し、残余財産を株主に分配することにあります。残余財産の分配というのも権利義務処理の一部ですが、清算事務の最後に行われるため、便宜上分けて説明されるのが普通です。清算中の会社の行為能力は、この清算の目的範囲に限定されることになります(会社法第476条)。

清算事務は、時間順に、「現務の結了」、「債権取立・債務弁済」、及び「残余財産分配」と進行します(会社法第481条)。これらを主催する「清算人」には、多くの場合、取締役が横滑りして就任します(会社法第478条第1項第1号)。

清算事務のうち、現務の結了と債権の取立てというのは、文字通りの意味です。

次に、債務を弁済するためには、弁済に先立って、債権申出のための官報公告及び知れたる債権者に対する個別の催告をしなければなりません(会社法第499条第1項)。これには、早い者勝ちを防ぐことにより債権者間の平等を図るという意味に加えて、一定期間(2カ月以上)内に申出をしなかった債権者を清算から除斥することにより迅速・一律の処理を可能にするという意味があります(会社法第503条)。

最後に、債権者への弁済後に残った財産は、株主に対し、持株数に按分して分配されます(会社法第504条)。全ての残余財産の分配が終われば、清算事務が終了します。その後、清算人は、遅滞なく決算報告を作成し、株主総会の承認を受けなければなりません(会社法第507条)。

会社登記のうえでは、以上の一連の手続について、順に、解散、清算人就任及び清算結了という原因に応じた登記を行います。最後の清算結了登記を行うことによって、登記簿上も会社が消滅したことが公示されるのです。

ただし、会社の消滅(=法人格の消滅)という実体法的な効果は清算事務の終了によって生じるのであって、清算結了の登記は単なる報告的な意味しかないということには注意すべきでしょう。このことは、具体的には、清算結了登記を行った後に見つかった残余財産の処分に関わる問題です(後記3(1))。

会計処理のうえでは、解散から清算結了までの間に、解散時点及び清算結了時点(その間に事業年度をまたぐ場合にはその時点)を基準とした決算を行わなくてはなりません。正常に清算事務が終了すれば、清算結了時の決算は、債権、債務及び残余財産が一切ないという内容のものになるはずです。

清算事務が正常な過程を辿らない場合(特別清算及び破産)について、本稿では省略します。



2 会社名義の不動産の処理方法
(1) 換価する方法
事業を廃止するに際して会社名義不動産をどのように処理するかという問題は、上記の清算手続の過程に組み込まれています。

一つの方法は、当該不動産を換価して債権者への弁済に充て、残金を株主へ分配することです。これが、原則的な処理でしょう。

換価のための売却は、清算中だからと言って、通常の売却と特に異なるところはありません。


(2) 関係者に帰属させる方法
株式会社制度は、所有と経営の分離を理論上の柱として成立しています。ところが、日本では、会社、経営者及び株主が三位一体であることがむしろ常態です。このような場合、不動産が会社名義になっているからと言って、それが本当に会社のものであるのか一見しただけでは分かりません。つまり、会社財産と関係者財産との境が曖昧だということです。

例えば、事業と何の関係もない経営者(又はその親族)の自宅不動産が、名目上だけ会社名義になっていたりすることもよくあります。

したがって、事業を廃止したからといって、会社関係者にとって当該不動産が不要になるとは必ずしもいえないわけです。その場合、当該不動産を関係者に帰属させる方法を検討する必要があります。

その方法としては、錯誤(真正なる名義回復)、代物弁済、売買、残余財産分配等の所有権移転原因が考えられます。ただし、これら方法の選択のためには個別事案ごとの具体的な検討が必要であるため、本稿で一般論を述べることは控えたいと思います。



3 注意事項
(1) 清算結了登記後の残余財産発見について
上記では、清算事務の過程における会社名義不動産の処理について考えました。普通、清算を開始する時点で、不動産の存在は知れています。

ところが、清算結了登記が行われてから何年も経過した後に、残余財産が見つかるという事態は、実務上も頻繁に発生します。「見つかる」というより、「ことの重大性に気づく」と表現するほうが的確な場合が多いでしょう。ここで問題となる残余財産は、不動産です。他の財産(会社名義の銀行預金等)が問題となることは、まずありません。

しかし、このような事態に対する対処も、上で述べたことと異なるものではありません。というのも、たとえ会社登記簿上は消滅した外観があるとしても、残余財産がある限り会社は消滅しないからです。つまり、残余財産がある限り、会社は清算の途中なのです。

よって、見つかった残余財産については、清算事務の一環として原則どおり処理すればよいということになります。ただし、誤って行われた会社の清算結了登記については、これを一旦抹消し、清算人の権限を登記記録上も明らかにしておかなければなりません。


(2) 株式会社以外の法人について
本稿で述べたことは、株式会社以外の法人形態についても概ね当てはまります。ただし、当該法人の責任範囲(有限/無限)や性質(公益性/営利性)等の違いに注意を払う必要があります。


(3) 税務や不正について
不動産の移転という行為は、税務当局にとってまたとない課税機会です。したがって、処分方法の選択には、税務上の考慮が不可欠です。ただし、税逃れのために不適切な処分方法を選択するということは言語道断です。

また、事業廃止に伴う会社名義不動産の移転という場面は、ともすれば計画倒産の準備行為と紙一重であることもあります。

要するに、ここには落とし穴が沢山あるということです。したがって、この問題は、法定された清算手続に則って適正に処理することが重要だといえるのです。






posted by 司法書士 前田 at 15:50| Comment(0) | 企業法務
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