2018年07月11日

自筆証書遺言に関する法改正(遺言書保管等制度の創設について)


私は、これまで、遺言を検討している依頼者に対して、自筆証書遺言を勧めることはあまりありませんでした。というのも、自筆証書遺言は、作成・保管段階での問題の他に、執行段階での困難を伴うことが多いと考えていたからです。執行段階(=遺言者死亡後)まで見据えれば、公正証書の方が関係者(遺言者、相続人、受遺者、執行人)にとって多くの場合に有益であったということです。

ところが、今般、相続法の改正(以下、「改正民法」という。)に併せて、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「遺言書保管法」という。)が成立しました(現時点で施行日未定)。この法改正は、従来の自筆証書遺言の短所の多くを改善する内容のものです。これで私も、自筆証書遺言に対する考えを改めなければいけません。
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1 遺言書保管法の概略
(1) 立法の理由
社会の高齢化が進展するにつれ、相続紛争の防止という課題が重要度を増しています。

遺言書保管法は、自筆証書遺言の紛争防止手段としての利便性を高めるため、遺言書の保管及び情報管理の制度を創設するとともに、当該遺言について家庭裁判所の検認(民法第1004条第1項)を要しないこととする特例を定めています。


(2) 自筆証書遺言の保管制度
遺言の保管に関する事務は、「遺言書保管所」(=法務大臣指定の法務局)において、「遺言書保管官」(=法務局長指定の法務事務官)が行います。

遺言者は、管轄地の遺言書保管所の遺言書保管官に対し、遺言書の保管を申請することができます。管轄は、遺言者の住所若しくは本籍又は所有不動産の所在地を基準とする中から選択することができます。

ここで保管申請する遺言書は、無封のものでなくてはなりません。これは、遺言書の画像データを保存するためであって、その内容を確認するためではありません。遺言書保管官には、遺言書の内容を審査するような実質的権限はありません。ただし、形式的要件(民法第968条)の不備については、申請時点で遺言書保管官から指摘されることも多いでしょう。したがって、些細な理由で遺言が無効になるという事態は、これから減少するかも知れません。

また、この申請は、必ず遺言者本人が保管所に出頭して行う必要があり、代理人によることはできません。これは、遺言書保管官が、遺言者の本人確認を行うためです。さらに、遺言の保管申請を撤回(注:遺言の撤回ではない。)する場合にも、本人が出頭して行わなければなりません。

遺言書は、その原本が遺言書保管所に保管されるのに加えて、次の情報がデジタルデータとして登録されることになります。

・遺言書の画像情報
・遺言作成年月日
・遺言者の氏名、生年月日、住所及び本籍(国籍)
・受遺者及び遺言執行者の氏名(名称)及び住所

遺言者が死亡すると、その相続人、受遺者、遺言執行者等一定範囲の者(「関係相続人等」)は、遺言書保管官に対し、上記事項を証する書面(「遺言書情報証明書」)の交付を請求することができます。この請求については、どこの遺言書保管所(管轄に関係なく)の遺言書保管官に対しても行うことができます。

保管制度を利用した遺言書について、家庭裁判所の検認は行われません。これは、保管申請の際、遺言者の本人確認が行われるとともに、遺言が申請時の状態まま保存されており、証拠保全として検認よりも優れているからです。

遺言の執行は、遺言書の原本ではなくて、遺言書情報証明書によって行うことができるようになります。例えば、遺産たる預金債権の払戻のためには、金融機関に対し、戸籍等とともに遺言書情報証明書を提出すればよいということです。

また、遺言書保管官は、遺言書情報証明書の交付等を行ったときは、速やかに遺言書が存在する旨を相続人、受遺者、遺言執行者に通知します。これにより、遺言執行の停滞を防ぐ効果も期待されます。



2 自筆証書遺言に関する改正民法の規定
自筆証書遺言は、全文を自書する必要があります。このとき、遺言に定める財産処分の内容は、具体的かつ網羅的に記載することが好ましいのですが、遺言者の手が震えたり、誤記したり、必要十分な記載方法に馴染みがなかったりといった一見些細な理由により、自書するのが困難なことがあります。

そこで、今回の改正では、自書の要件を一部緩和し、ワープロ打ちの財産目録が認められることとなりました(改正民法第968条第2項)。



3 公正証書遺言の役割縮小
自筆証書遺言の保管制度の運用が開始すれば、公正証書遺言の役割は相対的に縮小するでしょう。

もともと、実体法上、自筆証書で作成されようと、公正証書で作成されようと、遺言の効力に差はありません。これまで、自筆証書遺言に比べて公正証書遺言が優れていた点は、形式要件の不備による無効を来し難いこと、保管が確実であること、探索が容易であること、内容に疑義が少ないこと、執行が容易であること等でした。しかし、これらについても、今回の法改正により自筆証書の使い勝手は格段に良くなるはずです。自筆証書遺言と公正証書遺言の実務上の差は、小さくなると言えるでしょう。

もっとも、保管制度創設の目的である相続紛争の防止という効果は、自筆証書遺言が使いやすくなるということから単純に導かれるものでないことには注意すべきです。紛争防止のために公証人の知恵と工夫を必要とすべき場面は今後も無くなりはしないでしょう。





posted by 司法書士 前田 at 17:42| Comment(0) | 相続・遺言
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