2014年09月23日

任意売却について

1. 任意売却とは
 「任意売却」とは、不動産の所有者が、自らの意思によって当該不動産を売却する手続きのことを広く指す用語です。「任意売却」は、法律用語ではありませんし、これを特別に規律する法律もありません。これに対して、不動産が強制的に売却されてしまう手続きは、「競売」(強制競売及び担保権実行競売)と呼ばれ、民事執行法によって規律されています。

 もちろん、通常取引における不動産売却も売主の「任意」で行われるという点では、本稿の任意売却と共通しています。しかし、任意売却は、債務不履行・履行遅滞が生じている状況において、債権回収の一環として行われるものであるという点に特徴があります。

 売却対象となる不動産の所有者=売主は、債務者(主債務者又は保証債務者)本人であることが多いでしょうが、第三者(物上保証人)であることもあります(以下、紛らわしいので、これらをまとめて「債務者側」と呼ぶことにします。)。債務者側から見れば、任意売却は、債務整理の一環として行われるものであると言えるでしょう。


2. 競売と比較した場合のメリット
 債権回収・債務整理の一環として任意売却を考えると、競売と比較した場合の任意売却のメリットは、次の2点にあると考えられます。ここでメリットとは、もちろん主として債権者にとって、従として債務者側にとってのそれを指しています。

 @売却額が競売落札額よりも一般に高額になる。
 A競売にかかる手続的負担・費用を回避できる。

 上記@Aについては、わかりやすいので詳細は省略します。この他に、債務者側にとって次のような大きなメリットかあるかの如く喧伝されることがありますが、このような謳い文句を当てにすべきではないでしょう。

 @.残債務までなくなる。
 A.引越代までもらえる。
 B.売却物件を賃借して住み続けることが出来る。

 債務者側にとっては、不動産を任意売却した後に、債務が残るのか否か、残るとしてどのくらいの額になるのかということは最も気になる点でしょう。しかし、冷たい言い方をすれば、任意売却したくらいで、全ての債務がなくなるなどということは滅多にありません。むしろ、大きな残債が残ってしまうのが普通です。引越代や、売却物件への居住継続等についても、何も保障はありません。


3. 任意売却の注意点
 任意売却は、担保権者の同意のもと、不動産の所有者が任意で行うものです。しかし、「任意」と言っても、決して債務者側が主導権を握っているという意味に誤解してはいけません。そもそも任意売却は、債権者にとっての債権回収の手段なのです。債務者側の都合などは、あっても、二の次でしかないのです。

 また、民事執行法に則って行われる競売手続きならば、少なくとも債権者間の平等・優劣は適正に保たれるはずですが、任意売却においてはこのような保障もありません。従って、任意売却後に破産等の申立が必要となった場合に、このことが、債務者=破産者の免責許否の判断にとって不利に働くことがあるかも知れません(破産法第252条第1項等)。

 さらに、任意売却の実質が債務整理であるにもかかわらず、これがあたかも普通の不動産売買に毛が生えたくらいにしか認識されていない点も問題とすべきでしょう。不動産取引に関わることの多い司法書士の一人として、私自身への戒めの意味も込めて。
posted by 司法書士 前田 at 18:47| Comment(0) | 任意売却