2016年10月05日

債権の消滅時効について

 権利があるからといって、いつまでもそれを行使できるというわけではありません。権利の行使には、時間的な制限があるのです。このような時間的制限には、消滅時効と除斥期間という趣旨を異にする二つの制度があります。

 今回は、債権の消滅時効について、主に貸金債権のそれを念頭に置いて、誰でも知っておくべき基本的事項を整理してみることにしましょう。
genjitsu_touhi.png



1. 債権の消滅時効
(1) 債権の消滅時効についての規律
 債権は、原則として10年間行使しないときは、消滅します(民法第167条第1項)。

 これは、たとえば、AがBに対してお金を貸したまま、約定の弁済期から10年を超えて返済も受けず、請求もしないでいたような場合に、Bの返済義務が無くなるということを意味します。

 これに対して、債権が商行為によって生じた場合(=商事債権)には、原則として5年間行使しないときは消滅すると定められています(商法第522条)。

 たとえば、会社である消費者金融業者Cが消費者Dにお金を貸したが、約定の弁済期から5年を超えて返済も受けず、請求もしないでいたような場合には、Dの返済義務が無くなってしまうということです(会社法第5条等)。

 お金を貸すプロである消費者金融業者が、保有する債権を消滅時効にかけてしまうなどということがあるのか、と不思議に思う人も多いことでしょう。しかし、債務者が返済未了のまま行方不明になってしまったような場合、消費者金融業者が、事実上何らの対抗手段(後記2(2)の「請求」)もとらぬまま、時効期間を経過してしまうということは珍しくありません。

 商事債権の消滅時効期間が短いのは、商行為の対象とする取引が大量・反復的で、その処理を迅速に行わなければならないという必要性があるためです。また、商人(=商行為を業として行う人)であれば当然に債権管理能力を備えているはずであるから、その債権が短期間で消滅するとしても、そのようなリスクを甘受すべきだからです。

 また、上記の原則的規定のほかに、民・商法その他の法律に、様々な短期の消滅時効が定められています。例えば、医師の診療報酬債権の消滅時効は3年(民法第170条第1項)、卸売業者の売掛債権のそれは2年(民法第173条第1号)、ホテルの宿泊費債権のそれは1年(民法第174条4号)、といった具合です。しかし、このように債権の発生原因ごとに短期の消滅時効を定める意味は、現在ではほとんど失われています。そこで、数年内に行われるはずの民法改正においては、これらの短期消滅時効の整理・統合も行われる予定となっています。

 さらに、債権の存在が確定判決によって認められた場合には、もともとの債権の消滅時効の期間が何年と定められていようと、確定の時から一律に10年間の消滅時効期間の進行が開始することになります(民法第174条の2)。確定判決だけではなくて、これと同様の効力を有する裁判上の和解や調停等によって確定された債権についても、同じように消滅時効期間が10年となります。たとえば、ホテルを経営する事業者が、宿泊客を相手として、宿泊費用債権(もともとの時効期間1年)を請求する訴訟を起こし、この勝訴判決が確定した場合、同債権の消滅時効期間はさらに10年延長されるわけです。


(2) 消滅時効の趣旨
 債権に消滅時効があるということは、債権者にばかり不利益を強いているように見えます。お金を貸した者が、借りた者に対して、親切心から返済を宥恕してあげていたら、いつの間にか全く返済を受けることができなくなってしまうということだからです。では、このように債権者にとっては不公平な消滅時効という制度は、なぜ存在するのでしょうか?

 時効制度(消滅時効のみでなく、取得時効も)の趣旨としては、次の3つがあるとされます。

@ 長期に存在する事実状態をもとに形成された権利関係を保護する。
A 過去の事実の立証困難を救済する。
B 権利の上に眠るものは保護しない。

 これら@〜Bの制度趣旨は、どれか一つが正しいというわけではなくて、複合して時効という制度を正当化するものと考えられます。

 たとえば、債務者Yが、債権者Xに対する債務を返済し終わったと思い込んで、長年月が経過したある日、突然、Xから返済を求められたという場面を考えてみましょう。このとき、Yにとっても、Yの取引先等の関係者にとっても、Xに対する債務がないとの前提で事実や法律関係が長い年月をかけて積み重なっていることがあります。ここで、もしXの請求を許してしまうと、これらの事実・法律関係を覆してしまうことになるかも知れません(上記@)。また、本当にYがXに対して返済していたとしても、レシートや弁済証書等が紛失してしまって、今さらYに返済の事実を証明させるのは酷であるということもあるかも知れません(上記A)。さらに、長い間、自分の債権を放ったらかしにしておいたXにも、懈怠の責任を負わせても然るべき場面もあるでしょう(上記B)。

 時効の制度趣旨@〜Bとは、要するに、権利が行使されないという事実状態が長期間継続することから生ずる様々な問題(事実・法律関係の安定化の必要、証拠の散逸、権利者の懈怠)に対応したものだと理解することができるでしょう。



2. 中断と援用
(1) 時効の援用とは
 債権の消滅時効期間が経過したからといって、当然に債務者の履行義務が消滅するわけではありません。債務者は、履行義務を免れたいのであれば、時効期間経過後に、時効を「援用」(民法第145条)しなければなりません。

 援用とは、時効の効果を受けるという旨の相手方に対する一方的な意思表示のことです。援用は、訴訟内外を問わずに行うことが出来ます(大判昭和14年3月29日)。訴訟外で時効を援用する場合には、内容証明郵便を利用するのが一般的です。

 援用するか否かは、援用権者(債権の消滅時効の場合には、援用権者=債務者ということ。)の意思にかかっています。もし、債務者が、消滅時効期間の経過した古い債権に対して、返済しようと思うのであれば、援用せずに、返済しても構わないのです。

 ところで、租税等、国の債権にも消滅時効が定められていますが、これに対する履行義務の消滅のためには援用を要しません(会計法第30条、31条等)。つまり、租税債権は、中断(下記(2))事由なく5年を経過すれば、当然に消滅するのです。


(2) 時効の中断とは
 時効は、権利の不行使という事実状態が継続することから生ずる問題を解決するための制度です。逆に言えば、権利が正常に行使されているのならば、時効期間の完成を阻止すべきというだということになります。

 このため、民法は、時効の完成を阻止する「中断」という制度を定めています(民法第147条)。中断は、単に時効期間の進行が止まるだけではなくて、中断の事由が生じた時点に時効期間を初期化する(ゼロから再スタートする)という効果をもつ制度です。中断事由としては、次の三つがあります。

@ 請求
A 差押、仮差押又は仮処分
B 承認

 まず@「請求」とは、単に相手方に履行を要求するという普通の意味(これを「催告」といいます。)ではありません。時効を中断するための「請求」とは、裁判所を利用する手続きである必要があります。たとえば、訴訟、支払督促、裁判上の和解手続、及び破産手続きへの参加等が、ここでいう「請求」に該当します。

 次にB「承認」とは、債権の消滅時効が問題となる場面では、債務者が自ら債務を負っていると認める旨の意思表示をすることです。たとえば、債務者が、債権者に対して、「私は○○さんに、金100万円を借りました。」と一筆差し入れることは、ここでいう「承認」に当たります。さらに、債務者が、債権者に対して、債務の一部を返済することも、返済という行為によって黙示の「承認」をしたことになります。

 A「差押、仮差押又は仮処分」については、分かり易いので、説明は省略しますが、@〜Bの中断事由は、いずれも権利不行使の状態を破るという点で共通しています。

にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 神戸情報へ
にほんブログ村
posted by 司法書士 前田 at 11:10| Comment(0) | 金銭トラブル

2016年09月03日

「ひとの保証人にだけはなるな。」の意味

 「ひとの保証人にだけはなるな。」という言葉を聞いたことのある人は多いでしょうが、その意味についてじっくりと考えたことのある人はそれほど多くはないのかも知れません。しかし、保証契約が危険なものであるという漠然とした認識は、多くの人が共有しているでしょう。

 そこで、今回は、保証という制度について基本的な仕組みを理解するとともに、日常生活の中で保証に遭遇する場面と問題点を考えてみましょう。



1. 保証とは
(1) 保証の意味
 保証とは、主たる債務者が債務を履行しないときには、保証人が代わりに履行することを約する契約です(民法第446条1項)。つまり、保証とは、抵当権や質権等の物的担保を設定する契約と同様に、債務の履行を担保するという経済的目的をもった契約の一つです。このため、保証人のことを「人的担保」と呼ぶこともあります。

 保証の場面には、債権者、主たる債務者及び保証人という3者が登場しますが、保証契約の当事者となるのは債権者と保証人です。主たる債務者と保証人との間には保証委託関係があるのが通常でしょうが、このことは保証人が債務を履行した後の求償等にかかわること(民法第459条等)であって、保証契約の成否には影響しません。つまり、主たる債務者から頼まれなくても、保証人になることは出来るのです。

 また、保証債務には、主たる債務者が履行しないときに、履行しなければならないという二次的性質があります。このため、保証人には、原則として、「催告の抗弁権」(民法第452条)と「検索の抗弁権」(民法第453条)という一種の防御権が認められています。

 すなわち、保証人は、債権者から履行の請求を受けても、「まず主たる債務者に請求してから出直してくれ」と言って、とりあえず履行しないでおくことができ(=催告の抗弁権)ます。さらに、債権者が主たる債務者に請求した後であっても、主たる債務者に弁済するだけの資力がありかつ執行が容易であることを保証人が証明したときは、債権者は、まずは主たる債務者の財産に執行しなければなりません(=検索の抗弁権)。

 もっとも、このような抗弁権があることは債権者にとっては負担でしかありません。そこで、これら抗弁権は、契約によって排除されるのが普通です。両抗弁権を排除する形態の保証を「連帯保証」と呼びます(民法第454条)。

 連帯保証は、民法上、抗弁権のある原則的形態の保証(「普通保証」とでも呼ぶべきもの。)の例外として規定されていますが、現実の利用状況を見れば、保証と言えばすべて連帯保証のことを指すと言っても過言ではないでしょう。さらに、商法上の保証は連帯保証を原則としています(商法第511条)。

 連帯保証には、催告・検索の抗弁権が無いことの他にも、主たる債務者・保証人の一方に生じた事由について連帯債務の規定が準用される(民法第458条)など、債権者の債権管理・回収のための便宜が図られています。
money_rentai_hosyounin.png

 かつて保証契約は口頭や黙示でも成立してしまう諾成契約とされていましたが、平成16年の民法改正(翌年4月1日施行)によって、書面によらなければ効力を生じない要式契約とされました(民法第446条2項)。


(2) 特殊な保証
 主たる債務は、保証契約を締結する時点で存在しているのが普通ですが、将来発生する債務を保証の対象とする場合もあります。

 例えば、継続的取引を行っている事業者の一方が他方に対して次々に発生・消滅する債務の履行を担保する必要がある場合に、かつては信用保証=根保証という形態の継続的保証契約が用いられていました。しかし、このような保証においては、保証人の負担すべき債務の限度額や期間が過大・過酷なものとなり、このことが社会問題化したことから、平成16年の民法改正によって一定の規制が加えられるようになりました(民法第465条の2以下参照)。その詳細については、本稿では述べません。

 また、日本では古くから、従業員の不手際によって生じた事業の損害を、その親等に賠償させるという慣習や契約手法(=「身元保証」)が存在しています。雇用主が、従業員を雇用する際に、将来発生するかどうかも分からないような損害賠償請求権を担保する契約をその親等との間で結ぶのです。このような契約にも弊害が多いことから、身元保証法という法律によって一定の規制が加えられました。その詳細については、本稿では述べません。



2. 日常生活で出会う保証
 「ひとの保証人にだけはなるな。」と言っても、日々の生活の中で、私たちが自ら保証人になったり、第三者に保証人となることを頼んだりする必要が生じます。そのような場面について、具体的に考えてみましょう。

(1) 住宅ローンに伴う保証
 住宅ローンを組む際には、購入した不動産に対し、融資した銀行(又はその保証会社)のための抵当権が設定されるのが通常です。それに加えて、銀行が、債務者の親等と保証(及び物上保証)契約を結ぶこともあります。

 もし、住宅ローンを申し込んだ銀行から、融資の条件として保証人を立てること等を要求されたのであれば、銀行はローン申込者の信用力を相当低く見積もっていると言えるでしょう。借りてしまう前に、借りようとしている金額が身の丈に合っているのかよく検討すべきでしょう。

 また、住宅ローン融資には、後記(3)の「機関保証」が利用されることも頻繁です。


(2) 不動産賃貸借に伴う保証
 住宅等の不動産を借りるときに、貸主から、地代・家賃等の支払を担保するために、保証人を立てるように求められることがあります。

 不動産賃貸借に伴う保証契約の場合、保証人の責任の範囲については予想がつきやすいことから、保証債務が過大となる危険は比較的少ないといえます。

 また、不動産の貸主側にとっても、借主の信用力を見極めるのは容易ではないことから、このような保証の利用によって地代・家賃の回収を容易にすることができれば、不動産の活用を促進する効果もあると考えられます。不動産賃貸借に伴う保証契約は、保証人にとって比較的危険が少なく、貸主と借主双方にとっても、メリットがあるのです。


(3) 保証会社(機関保証)の利用
 債務の保証を、専門の会社(=保証会社)に委託することがあります。このような形態の保証は「機関保証」と呼ばれ、現在では、住宅ローンやカードローン等契約の多くに、機関保証の仕組みが付随しています。

 債務者自ら保証料を支払うのが通常であることから、機関保証は、履行不能という危険に対する債務者のための「保険」であるかのように誤解されます。しかし、保証会社が、債務者の代わりに債務を履行(=「代弁済」)しても、債務者が履行責任を逃れることは出来ません。つまり、機関保証は、債務者のための保険ではありません。むしろ、機関保証は、債権者(主に銀行等の金融機関)が不良債権を抱え込まないようにする等、債権者の便宜のために利用されているのです。

 機関保証は、主たる債務の契約に組み込まれてしまっていることが通常であるため、避けることができません。例えば、住宅ローン融資の条件として機関保証の利用が義務付けられているような場合、お金を借りるためには機関保証を利用しないわけにはいきません。

 そのためか、多くの債務者は、機関保証を利用していることを意識すらしないようです。しかし、意識もしていない、理解もしていない契約を義務付けられているとは、何とも奇妙なことではないでしょうか?


(4) 株式会社の有限責任と保証
 株式会社の株主は、会社債権者に対して履行責任を負いません。会社が債務超過に陥って倒産すれば、債務の引き当て(=「責任財産」)となるのは会社財産のみであって、株主の財産が差押えられることはありません。このことを、『株主は会社債権者に対しては「有限責任」を負担している』と表現します。ここで「無責任」でなくて、「有限責任」という理由は、株主が会社に対して持つ出資持分(=株式)に限っては、債務の引き当てとなるからです。

 しかし、周囲を見渡せばすぐにわかるように、日本のほとんどの会社においては、会社、経営者及び株主は三位一体の関係にあることが常態です。さらに、会社財産と経営者・株主の個人財産との境目も不明瞭です。

 このような状況では、会社と取引する相手方は、会社財産だけを当てにしていたらとても不安な立場に立たされることになるでしょう。そのため、株主たる経営者(及びその親族)である個人が、会社の債務を保証することも珍しくはありません。例えば、会社が銀行から事業資金を借りるときに、オーナー経営者が当該債務の履行を保証し、さらに自宅に銀行のための(根)抵当権を設定するというようなことは、よくあることです。

 出資者の有限責任が認められているのは、株式会社のみだけではなく、合同会社、社団法人、権利能力なき社団等、いろいろな法人・組織があります。


(5) 主たる債務者の破産と保証人の責任
 保証債務には、主たる債務に附従するという性質があります。すなわち、主たる債務が無ければ保証債務も成立しないし、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅します。では、主たる債務者が破産して、免責を受ける(自然人の場合)なり、法人格が消滅する(法人の場合)なりしたような場合には、保証債務も附従して消えてしまうのでしょうか?

 残念ながら、主たる債務者が破産しても、保証債務には影響しません。つまり、保証人は、債務を履行できない破産者=主債務者に代わって、債務を履行しなければなりません。そもそも、保証人の役割は、主たる債務者に信用不安が生じるような事態において発揮されるべきものなのですから、保証債務が消滅しないことは当然のことです(破産法第253条2項参照。正確には、もうちょっと複雑な説明が必要ですが、本稿ではこれ以上述べません。)。

 よって、主たる債務者が破産したことによって、一見健全な保証人まで連鎖的に破産等の手続きを余儀なくされるということもあるのです。
kaisya_tousan.png



 友人の借金の保証人になるような、あからさまに危険な場合を除いても、自ら保証人になったり、他人に保証人になることを頼んだりする場面は、意外と多いものです。そのような場面では、具体的状況に照らして、当該保証契約が本当に必要・妥当なものか、何のために保証するのか、保証の結果としてどんなことが起こりうるのか、きちんと理解しておくべきでしょう。保証人になってしまった後で取りうる防御手段なんて、たかが知れているのですから。
にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 神戸情報へ
にほんブログ村
posted by 司法書士 前田 at 17:22| Comment(0) | 金銭トラブル

2016年07月12日

司法書士の債務整理業務について

 司法書士の代理権を画する基準(司法書士法第3条1項6号)をめぐっては解釈上の争いがありましたが、平成28年6月27日、最高裁の判決によってこの争いに一応の決着がつきました。

 この判決は、依頼を受けて債務整理を行った和歌山県の司法書士が、非弁行為(=弁護士法違反の代理行為)を理由として依頼者から損害賠償請求を受けた訴訟事件(以下、「本件」という。)に関するものでした。しかし、本件は、あたかも司法書士と弁護士の業務範囲を巡る「縄張り争い」の様相を呈してしまったことで、両士業界から注目されました。

 今回は、本件をネタにして、司法書士の債務整理業務への関わり方について考えてみましょう。ただし、本稿では「債務整理」という用語を、裁判外の和解である任意整理、裁判所を利用する破産・再生手続等の法的整理、並びに過払金請求までを含んだ広い意味で用いることにします。また、「ネタにして」とは言っても、本件の訴訟経過や事案自体を詳しく解説するつもりはありません。
sensou_senjou.png



1. 司法書士の代理権とは
 平成14年の司法書士法改正により、一定の研修を修了し法務大臣の認定を受けた司法書士(以下、「認定司法書士」という。)は、簡易裁判所の事物管轄に属する民事事件において、訴訟・調停手続きや裁判外和解の代理を務めることが出来るようになりました(司法書士法第3条1項6号〜8号)。

 従来、訴訟等において当事者を代理するのは弁護士の専属的業務であって、弁護士でないものがこれを行うことは原則として出来ませんでした(弁護士法第3条、72条)。つまり、司法書士法は、認定司法書士に対して、弁護士法の例外を認めたことになります。

 認定司法書士が代理権を行使するためには、訴訟事件であれば「訴訟の目的の価額」(司法書士法第3条1項6号イ)、即決和解及び支払督促事件であれば「請求の目的の価額」(同号ロ)、調停事件であれば「調停を求める事項の価額」(同号二)がそれぞれ140万円(裁判所法第33条1項1号)を超えてはならないという制限があります。

 また、認定司法書士は、裁判所を利用するこれらの手続きだけではなくて、同じ範囲内であれば、裁判外の和解を代理することも出来ます(司法書士法第3条1項7号)。

 認定司法書士に裁判外の代理権も認められているのは、通常、裁判外で和解を模索することが、裁判手続に先行又は並行するので、裁判外の和解権限までを含めなければ代理権としての意味がないからです。



2. 認定司法書士の代理権の範囲についての争点
 一見すると、認定司法書士の代理権の範囲は、法文上明白に規定されているようです。これは、例えば、認定司法書士が代理人になって訴額140万円の請求訴訟を追行することはできるけれども、141万円ならダメ、という単純なことだからです。

 しかし、債務整理、特に任意整理の事案において、この代理権の範囲をどのように画すべきなのかという解釈上の争いが生じていました。解釈は複数存在し、さらに、それぞれが細かく枝分かれしていますが、考察に値する対立点は次の2つに集約されるでしょう。

@債務総額を合算する(「総額説」)か、個別の債務毎に考える(「個別説」)か?
A債権者側から見た債務額を基準とする(「債権者主張説」)か、債務者が得る利益を基準とする(「債務者受益説」)か?

 例えば、甲という債務者が、金融業者A社に対して100万円、さらにB社に対して200万円の債務を負い、C社に対しては300万円の過払金債権を持っているという場合を考えます。

 この場合、@の対立を考えると、総額説によれば全ての債務について認定司法書士が代理して債務整理することは出来ない(100万円+200万円+300万円=600万円: 140万円超)という結論になるのに対し、個別説によれば少なくともA社(100万円: 140万円以下)に対する債務整理は出来るという結論になります。

 総額説は、複数の被告に対する訴訟を併合した場合の訴額の計算方法を根拠としています。これに対して、個別説は、債権者ごとに別訴を提起する場合の計算を根拠としています。

 次に、Aの対立を考えると、債権者主張説によれば、債権者側から見た債務額とはそれぞれ100万円、200万円及び300万円であるから、認定司法書士が代理して債務整理を行う可能性があるのは、A社に対する債務のみであるということになるでしょう。これに対して、債務者受益説によれば、A社に対する債務に加えて、B社に対する債務についても認定司法書士が代理して債務整理を行う可能性が出てきます。

 債権者主張説については説明を要しないでしょう。これに対して、債務者受益説というのは、非常に分かりにくい解釈です。というのも、同説は、民事調停手続の申立費用の基礎である「調停によって得られる経済的利益」という実務上の基準をもとにして代理権の範囲を決定すべきだとしているからです。

 例えば、甲がB社を相手方として申し立てた調停の結果、仮に200万円の債務を120万円に減額する和解が成立したとすれば、「調停によって得られる経済的利益」は80万円(=200万円〔原債務額〕−120万円〔減額後債務額〕)ということになります。また、仮に200万円の債務について減額なしに3年後の一括払いという期限の利益を付与するという和解が成立したとすれば、「調停によって得られる経済的利益」は、30万円(=200万円〔債務額〕×0.05〔民事法定利率〕×3年〔支払猶予期限〕)ということになります。どちらの場合も、認定司法書士の代理権の範囲内です。債務者受益説とは、裁判外の和解においても、これと同じ計算を用いて代理権の範囲内か否かを判断するという解釈です。



3.  平成28年6月27日最高裁判決について
(1)縄張り争い?
 冒頭で、本件が、司法書士と弁護士の業務範囲を巡る縄張り争いの様相を呈していたと書きました。これは、どういうことでしょうか?

 司法書士法の改正により、限定つきながら司法書士が代理人として債務整理を行うことが出来るようになるのと時期を同じくして、過払事件に関して消費者(=債務者)側に傾斜した重要な判例が相次いで出されました。一部の弁護士と司法書士は、争点が消えた(=容易に勝訴できる)過払事件に群がりました。さらに、司法制度改革による弁護士人口の増加という現象も重なりました。この「過払バブル」の中で、弁護士と司法書士が同じパイを奪い合うという状況が生じたのです。

 本件の争点であった司法書士の代理権についても、純粋な法律論争というよりは、日弁連と日司連(=日本司法書士連合会)の間での代理戦争のようでした。前者(日弁連)は、債務整理の依頼者側(第一審原告)を支援して、一貫して司法書士の代理権を極小化する解釈(上記2の総額説及び債権者主張説)を取りました。これに対して、後者(日司連)は、訴えられた司法書士(第一審被告)を支援して、司法書士の代理権を極大化するような解釈(上記2の個別説及び債務者受益説)を主張していました。


(2)平成28年6月27日最高裁判決
 上記2の争点について、最高裁は、「債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が〔司法書士〕法3条1項7号に規定する額を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することが出来ない」という判断を示しました。これを上記2の用語に即して言えば、最高裁は、個別説及び債権者主張説を採用したということになります。反対に、総額説(日弁連の解釈)と債務者受益説(日司連の解釈)は、どちらも退けられました。

 最高裁の判断は、認定司法書士の代理権を画する基準を最も明確に示しており、法文上も無理なく妥当なものと言えるでしょう。逆に、退けられた各説については、それぞれ支持する団体の思惑を反映した無理のある解釈であるばかりか、有害な解釈であるとすら考えます。



4. 判決の後
 縄張り争いとまで揶揄された本件訴訟に対して最高裁の判決が出たことにより、債務整理事件の取扱いについて今後どのような影響があるのでしょうか?

 実は、本判決の影響は、一部で騒がれているほど大きくないでしょう。というのも、債務整理の方法として任意整理を選択すべきような事案が、今後、非常に少なくなると考えられるからです。これは、任意整理と表裏の関係にある過払金請求事案が減少していることに関係しています。

 闇金を除く金融業者は、平成18年頃を境に、新たに過払金の生じるような金利での貸し付けを行わないようになりました。従って、過払金請求権が生じたとしても、そのほとんどは既に又は間もなく消滅時効にかかって、請求不能な状態になってしまいます。過払金がないのであれば、個々の債権者との間で別々に和解する意味などほとんどありません。

 よって、今後、債務整理は、破産や個人再生などの法的整理が中心になるでしょう。これらは、原則として全債務を裁判所の監督下で一括整理する手続きです。もともと、債務整理の一番の目的が多重債務者の経済的更生ということであれば、法的整理を原則とすべきなのです。任意整理という手法は、たまたま過払バブルという異常な状況があったために都合良く用いられていたに過ぎません。

 ところで、司法書士は、本来的業務である裁判所提出書類の作成(司法書士法第3条1項4号)という権限によって法的整理を行うことが出来ます。このためには、もともと代理権など必要ではないのです。

 もちろん、法的整理といっても、その具体的処理は事案により様々です。書類作成だけで間に合う事案もある一方で、受任者が債務者を代理しなければならないような複雑な事案もあるでしょう。後者のような事案は、司法書士ではなくて、最初から弁護士が処理すべきものです。

 縄張り争いなんて下品な話は、これで最後にして欲しいものです。
pet_dog_oshikko.png
にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 神戸情報へ
にほんブログ村
posted by 司法書士 前田 at 15:47| Comment(0) | 金銭トラブル

2016年04月20日

何者?:サービサーとは

 「サービサー servicer 」という会社(又は業種)を現すカタカナ言葉を聞いたことのある人は多いかも知れません。しかし、サービサーが何をする会社なのかを知っている人は、それ程多くはないでしょう。そこで、今回は、サービサーについて整理してみました。



1. サービサーとは
(1)サービサー制度創設の趣旨
 サービサーとは、不良債権を金融機関等(金融機関の他にリース会社やクレジット会社等)から買い取ったり、金融機関等からの委託を受けたりして、債権回収・管理を専門として行う法務大臣の許可を受けた民間の株式会社のことを指します。

 もともと債権回収業務は弁護士に専属(弁護士法第3条等)し、弁護士以外の者がこれを行うことは出来ませんでした。しかし、1990年代のバブル経済崩壊後、金融機関等の不良債権処理が停滞したことから、1998年、不良債権処理の分野に民間会社の参入を認める制度創設を内容とする「債権管理回収業に関する特別措置法」(以下、「債権回収業法」という。)が成立しました(1999年施行)。債権回収業法は、債権回収・管理に関する弁護士法の特例ということになります。

 2016年4月現在、全国でサービサーは86社存在します。一時期は100社を超えていたことを考えると、バブル時代の不良債権の処理が終了し、サービサーの仕事が減ったということなのかも知れません。


(2)規制と監督
 債権回収という言葉に、あまり良いイメージを持たない人も多いはずです。それは、かつて暴力団等が無茶な債権の取り立てをして社会問題化したことを、多くの人が記憶しているためです。
money_syakkin_toritate.png

 そこで、債権回収業法は、サービサーに対する、規制や監督についての規定を中心として構成されています。

 まず、株式会社が債権管理回収業を営むためには、法務大臣の許可を受けなければなりません(債権回収業法3条)。許可の要件として、一定の資本金額(5億円以上)、役員や人的構成(暴力団関係者を排除していることや、常務取締役として必ず弁護士を入れなければならないこと等)が満たされていなければなりません(債権回収業法第5条等)。

 また、業務遂行の適正が図られるように、威迫的取立てが禁止されていたり、法定利率超過約定の債権について引き直し計算が強制されたりといったきまりがある(債権回収業法第17条、第18条等)のはもちろんのこと、法務大臣や警察庁長官による立ち入り検査等を受けることもあります(債権回収業法第22条)。

 これらは民間会社に対する規制・監督としては比較的厳しいものです。よって、今日、サービサーが行う債権回収業務について、かつて暴力団が行っていた債権回収のイメージを重ねるのは不当であると言えるでしょう。


(3)サービサーに関わる場面は?
 一般の人が普通に生活している限り、サービサーに関わることはほとんどありません。とは言え、誰にとってもサービサーに関わる可能性は身近に溢れています。

 例えば、住宅ローンを滞納してしまったという状況を考えてみましょう。債権者である銀行や保証会社は、担保権を実行する等して、先ずは出来る限り債権の回収を試みるでしょう。しかし、全額回収する見込みが無くなってしまった場合(債権の引き当てとする債務者の財産がなくなってしまった場合等)には、当該残債権は「紙切れ」と化してしまいます。

 このような債権を買い取って、自ら回収することを仕事にしているのがサービサーです。もちろん、サービサーは、金融機関等から「紙切れ」を買うのですから、額面通りの価額ではなく、特別割引価額で仕入れます。例えば、住宅ローンの残債が額面上は1000万円だったとしても、サービサーの仕入額はひょっとすると10〜50万円くらいかも知れません。

 サービサーに債権を売った金融機関等にとっては、不良債権を損金処理することができる税務上の利点があります。他方、サービサーにとっては、債務者から仕入額を超える回収ができれば、利益が出るという仕組みです。

 サービサーが取り扱う不良債権(これを「特定金銭債権」と呼びます。)の中には、住宅ローン債権の他にも、クレジットカード、カードローン、リース契約の債権等、身近な債権が広く含まれています(債権回収業法第2条1項)。誰でもサービサーに関わる可能性があると前記したのは、このような理由です。
money_saifu_receipt_card.png



2. サービサー制度について思うこと
 サービサーの収益の仕組みは、超高利回りの(=投資不適格な)ジャンク債への投資にも似ています。そういった意味では、サービサーの業務に対する、規制や監視は妥当なものと言えます。なぜなら、サービサーの業務は、利益を追求すればするほど、法令違反を起こす誘因が強くなるような仕組みになっているからです。

 しかし、サービサーに対する規制や監督の体制をつくった一方で、不良化するような債権を作りだす金融機関等の側は、きちんと責任を取るようになったのでしょうか?素人目にも信用力のない人が簡単に大金を借りてしまったり、ろくな本人確認もなしにクレジットカードが作れてしまったりと、金融機関等の無責任ぶりはむしろ悪化したようにすら見えます。

ゴミ処理場を監督するのはもちろん大事でしょうが、それよりもゴミを出さない社会を作ることが理想でしょう?
にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 神戸情報へ
にほんブログ村
posted by 司法書士 前田 at 09:28| Comment(0) | 金銭トラブル

2016年04月08日

「身元保証」ビジネスの影 〜公益財団法人日本ライフ協会の事件をとおして〜

 平成28年3月末、民事再生手続き中であった公益財団法人日本ライフ協会は、再生の受け皿として期待をかけていた一般社団法人「えにしの会」が支援を辞退したことから、破産することが確実となりました。

 日本ライフ協会のような「身元保証」ビジネスを行う団体は、高齢化社会の進展とともに、ここ数年で急速に数を増やしました。しかし、これら団体やその活動を統制するための法律や制度は欠如しており、この状況が改善されないままであれば、今後も類似の事件は多数起こることが予想されます。そこで、今回は、本事件について整理し、「身元保証」ビジネスの問題点を考えてみましょう。
toubyou_enmei.png



1. 本事件の経緯
 日本ライフ協会は、平成14年に前身となる団体(非法人)から、特定非営利活動(NPO)法人や一般財団法人への数度の組織改編・分化を経て、平成22年に内閣府の公益認定を受け「公益財団法人日本ライフ協会」(以下、「本件協会」といいます。)となりました。

 本件協会は、平成28年1月時点で、全国18カ所の事業所、1以上の傘下法人、従業員125名、会員約2600名という大きな組織になっていました。

 本件協会が、創業間もなく始めた「みまもり家族」事業は、@医療・介護施設等への入院・入所の際の「身元保証」、A日常生活に付随する事務支援、B葬儀・納骨の手配、を内容とする事業です。@〜Bは、従来、支援を必要とする高齢者に近い親族が、なんとなく担ってきた事務や法律行為です。つまり、本件協会は、親族に頼ることのできない事情を抱えた高齢者に対して、@〜Bの役務を有料で提供するという事業を行っていたのです。これらの中心を占めるのは、@「身元保証」事業です。

 本件協会は、大雑把に言えば、会員との間で、一人当たり約150万円の契約金を一括徴収し、そのうち約100万円を入会金・会費等として扱い、残りの約50万円を葬儀費用等のための預託金として扱うという契約をしていました。この内訳を分かり易く言えば、100万円については、収入に当たるので、本件協会が事業のために使っても良いということです。これに対して、50万円については、会員から預かっただけだから、実費を清算したうえで返還すべきであるということです。会費分については、契約時に一括で支払うという方法が主流だったようですが、月会費の形式で支払うという選択肢もあったとされます。

 本件協会は、公益認定申請時には、会員との契約に際しては預託金の保管者として法律専門家を介在させる「三者契約」の方法だけを用いることを事業計画の内容としていました。これは、三者契約の方法であれば、預託金が適正に管理されるから、公益性を担保できるはずだという理由によります。

 しかし、本件協会は、この事業計画に基づいて平成22年に公益認定を受けるや直ぐに、監督官庁である内閣府に無断で、法律専門家の介在なしに、会員と「二者契約」の方法による契約を結ぶようになりました。すなわち、約150万円全額を同協会が受け取れるようにしたということです。

 本件協会は、預託金を従業員給与等の運営費に流用するなど、預託金について分別管理するという仕組みを持ち合わせていなかったようです。また、平成23年4月からは、事実上傘下にあるNPO法人に対し公益認定法違反の事業資金の長期貸付けを行うようにもなりました。後に、本件協会がこのNPO法人から貸付金回収を行う際にも、金融機関に対して、NPO法人のために、本件協会の定期預金を担保として提供するという粉飾まがいの行為を行っていたことも明らかとなりました。

 そのような杜撰な運営をしながらも、本件協会は、全国各地に事業所を新設し、拡大を続けました。

 結局、債務超過に陥った本件協会は、平成28年1月、大阪地方裁判所に対し民事再生手続開始申立てを行いました。この民事再生手続きにおいては、本件協会の経営陣によるまともな財産管理をあてにすることが出来ないため、保全管理人(民事再生法第79条)が選任されました。

 保全管財人は、本件協会の事業を引き継ぐ支援者として同種事業を手掛ける一般社団法人「えにしの会」との間で、3月3日、事業譲渡契約を締結し、一旦は本件協会の事業が継続されることが決まるかに思われました。しかし、この契約からわずか10余日後、えにしの会は、資金調達が困難であることを理由として、保全管理人に対し、この契約を解除する通知を行いました。

 平成28年3月18日、内閣府は、本件協会に対する公益認定を取消しました。

 支援者がいなくなってしまった以上、本件協会には、破産という選択肢しか残されていません。破産となれば、本件協会の行っていた全ての事業は終了し、破産管財人のもと財産の換価と配当手続きが行われ、本件協会は消滅します。

 本件協会の会員のうち三者契約を行った者については、預託金全額の返還を受ける可能性は高いでしょう。しかし、契約の方式に関わらず、全ての会員について、一括で支払った会費については将来分についての全額の返還を受けることは出来ないでしょうし、もちろん「身元保証」等の役務が今後履行されることもありません。

 以上が、現時点(本稿を書いた平成28年4月8日)で、判明している本事件についての経緯です。今後、管財人による調査が行われる過程で、さらにいろいろな事実が明らかになってくるでしょう。

 ところで、監督官庁である内閣府は、本件協会に対し、平成25年5月に立ち入り検査をおこなっていたようです。ということは、内閣府は、比較的早い段階で、本件協会が公益認定に反する行為をしていたことに気づいていたのでしょう。その後も、公益認定等委員会が、本件協会に対して、数回にわたって報告書を徴求したり、指導を行ったりしたようです。
tokozure_nurse.png



2. 身元保証ビジネスの問題点
(1)「身元保証」とは
 上記1では、「身元保証」という用語を特に定義もせずに用いています。さて、ここで言う「身元保証」とはどのような行為を指すのでしょうか?

 医療・介護施設に入院・入所する際に、施設側は、契約者である本人に対して、「身元保証人」をつけることを要求します。このような契約又は手続き方法を採る施設は、全体の9割以上にも達すると言われています。

 施設側が「身元保証」によって担保しようとしているのは、(a)緊急時の連絡先、(b)医療行為・介護計画への同意、(c)死亡時の遺体・遺品の引取り、及び(d)費用の精算です。これらの事務等を「身元保証人」に行わせることによって、施設側の負担や責任を軽減しようというわけです。

 通常、施設を利用しようとする本人に、家族・親族等がいれば、「身元保証」を依頼することも出来るでしょう。しかし、家族・親族がいない場合、家族・親族に対して頼みづらい事情があるような場合等、「身元保証人」を探すことは容易ではないことがあります。「身元保証人」を立てることが出来なければ、施設への入院・入所を拒否されることも稀ではありません。
roujin_dokkyo.png


(2)根拠法律の不在
 上記2(1)のように、「身元保証」の利用が常態化しているにもかかわらず、実は、「身元保証」を規律する法律は存在しません。

 「身元保証人」の責任については、契約書に定めがあったとしても、責任の範囲が必ずしも明確というわけではありません。たとえば、本人又は家族以外の第三者「身元保証人」が医療行為に同意しても、その同意には何の意味もありません。また、「身元保証人」が、本人の費用等債務を支払う義務を必ずしも負っているというわけでもありません(民法第446条等)。
creditcard_syakkin.png

 他方、「身元保証」を求めることが施設にとって必須であるという「常識」についても疑ってみる必要があります。たとえば、本来、病院や特別養護老人ホーム等は、「身元保証人」がいないという理由で、入院・入所を拒否してはならないのです(医師法19条等)。

 ちなみに、「身元保証ニ関スル法律」という古い法律が存在しますが、これは雇用関係等において慣習化していた過度な身元保証を規制するための法律であって、本稿で問題としているような「身元保証」には適用されません。ただ、このような法律があるということは、日本には古くから、「もしもの時には第三者に責任を取ってもらえばよい」と安易に考える風土があったということを示しています。


(3)監督官庁の不在
 「身元保証」事業自体について、許認可を発したり監督したりする官庁は存在しません。

 「身元保証」事業をおこなう団体の多くは、法人化しています。法人形態は、一般社団・財団法人、特定非営利活動(NPO)法人、公益社団・財団法人等、様々です。もちろん、法人形態によっては、本件協会のように、監督官庁が存在する場合もありますが、その場合でも、監督官庁が「身元保証」事業自体を監督しているわけではないのです。本件協会が、公益認定を取り消されてしまえば、再び何の監督も受けない状態に戻ってしまうだけです。

 したがって、国は、「身元保証」ビジネスの実態については、何も把握していないのです。たまたま本事件の主役が公益財団法人であったため、行政や世間の関心を引くことになっただけです。


(4)預託金の管理について
 本件協会は、会員から徴収した収入(入会金・会費等)と預託金(葬儀等に充てるための費用金)とを分別管理していませんでした。分別管理することは、他人の財産を管理するうえでの基本ですから、これをしていなかったということは言語道断というほかありません。

 しかし、仮に本件協会が預託金を分別管理していたとしても、倒産の際には預託金も含めて、本件協会の一般債権者のための引き当てとなることを避けることが出来ないでしょう。つまり、預託金口座も、差し押さえられたり、破産財団に組み込まれたりするということです。会員が優先的に預託金を返してもらえるわけではないのです。


(5)結び
 「身元保証」ビジネスが野放し状態になっているのが一番の問題であるからと、これを規律する法律を作ったり、特定の官庁の監督下に置いたりすれば良いと考える方もいるかも知れません。しかし、本事件の問題の本質はそこではないと私は考えます。

 そもそも、「身元保証」は必要でしょうか?「身元保証」なんて契約手法は不要かつ有害なだけだと思います。よって、指向すべきは、「身元保証」契約の禁止だと考えます。

 誰でも歳を取り、誰にでも身体や心の自由が利かなくなってしまう可能性があります。このようなときに個人を支援するのは、法制度や社会保障の役割です。ビジネスの出る幕ではないでしょう。
big_family_kurumaisu.png
にほんブログ村 地域生活(街) 関西ブログ 神戸情報へ
にほんブログ村
posted by 司法書士 前田 at 13:33| Comment(0) | 金銭トラブル