2018年06月20日

清算における会社名義不動産の問題(株式会社編)


「事業を廃止しようと思うが、会社名義の不動産をどうすればよいだろうか?」

このような相談や依頼は、珍しいものではありません。

清算における会社名義不動産の問題は、司法書士の中心的業務である不動産登記分野と会社登記分野とが交錯する興味深いものです。それに、起業に関するよりも、事業の廃止に関する悩みの方が、当事者にとっては切羽詰まっているということも多いのです。
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1 清算とは
(1) 清算の意味
「清算」とは、一般に、権利義務関係を処理することを指します。例えば、お金の貸し借りにおける清算とは、弁済が完了して債権債務の関係が解消することです。

これに近い意味ですが、会社法上の清算とは、解散した会社が「一切」の権利義務関係を処理して残余財産を株主に分配するまでの手続のことを指します。

これは、会社という法主体の性質から当然に導かれることです。

そもそも会社とは、権利義務の集合に対して人格を与えたものであると理解することができます。換言すれば、会社は、特定の事業に関連して生じる(出資、貸し借り、取引等の)権利義務を、その事業を運営している自然人にではなくて、事業自体に帰属させるための法技術だということです。

生命のある自然人が死んでしまえば、その権利義務は、相続法に従って承継されるなり消滅するなりします。これに対して、もともと生命のない会社が事業活動を止めたからといって、その権利義務が、誰かに承継されるとか、消えてなくなってしまうというわけではありません。会社は、清算という過程を経てはじめて消滅することができるのです。


(2) 清算の手続概略
会社の事業を廃止したいというとき、まず、典型的には株主総会により「解散」を決議します(会社法第471条第3号)。解散によって、事業廃止することを手続的に明らかにするのです。

これに続く会社の清算は、利害関係人の権利保護・調整のため、法定の手続に従って行わなければなりません(会社法第2編第9章)。

清算の目的は、権利義務を処理し、残余財産を株主に分配することにあります。残余財産の分配というのも権利義務処理の一部ですが、清算事務の最後に行われるため、便宜上分けて説明されるのが普通です。清算中の会社の行為能力は、この清算の目的範囲に限定されることになります(会社法第476条)。

清算事務は、時間順に、「現務の結了」、「債権取立・債務弁済」、及び「残余財産分配」と進行します(会社法第481条)。これらを主催する「清算人」には、多くの場合、取締役が横滑りして就任します(会社法第478条第1項第1号)。

清算事務のうち、現務の結了と債権の取立てというのは、文字通りの意味です。

次に、債務を弁済するためには、弁済に先立って、債権申出のための官報公告及び知れたる債権者に対する個別の催告をしなければなりません(会社法第499条第1項)。これには、早い者勝ちを防ぐことにより債権者間の平等を図るという意味に加えて、一定期間(2カ月以上)内に申出をしなかった債権者を清算から除斥することにより迅速・一律の処理を可能にするという意味があります(会社法第503条)。

最後に、債権者への弁済後に残った財産は、株主に対し、持株数に按分して分配されます(会社法第504条)。全ての残余財産の分配が終われば、清算事務が終了します。その後、清算人は、遅滞なく決算報告を作成し、株主総会の承認を受けなければなりません(会社法第507条)。

会社登記のうえでは、以上の一連の手続について、順に、解散、清算人就任及び清算結了という原因に応じた登記を行います。最後の清算結了登記を行うことによって、登記簿上も会社が消滅したことが公示されるのです。

ただし、会社の消滅(=法人格の消滅)という実体法的な効果は清算事務の終了によって生じるのであって、清算結了の登記は単なる報告的な意味しかないということには注意すべきでしょう。このことは、具体的には、清算結了登記を行った後に見つかった残余財産の処分に関わる問題です(後記3(1))。

会計処理のうえでは、解散から清算結了までの間に、解散時点及び清算結了時点(その間に事業年度をまたぐ場合にはその時点)を基準とした決算を行わなくてはなりません。正常に清算事務が終了すれば、清算結了時の決算は、債権、債務及び残余財産が一切ないという内容のものになるはずです。

清算事務が正常な過程を辿らない場合(特別清算及び破産)について、本稿では省略します。



2 会社名義の不動産の処理方法
(1) 換価する方法
事業を廃止するに際して会社名義不動産をどのように処理するかという問題は、上記の清算手続の過程に組み込まれています。

一つの方法は、当該不動産を換価して債権者への弁済に充て、残金を株主へ分配することです。これが、原則的な処理でしょう。

換価のための売却は、清算中だからと言って、通常の売却と特に異なるところはありません。


(2) 関係者に帰属させる方法
株式会社制度は、所有と経営の分離を理論上の柱として成立しています。ところが、日本では、会社、経営者及び株主が三位一体であることがむしろ常態です。このような場合、不動産が会社名義になっているからと言って、それが本当に会社のものであるのか一見しただけでは分かりません。つまり、会社財産と関係者財産との境が曖昧だということです。

例えば、事業と何の関係もない経営者(又はその親族)の自宅不動産が、名目上だけ会社名義になっていたりすることもよくあります。

したがって、事業を廃止したからといって、会社関係者にとって当該不動産が不要になるとは必ずしもいえないわけです。その場合、当該不動産を関係者に帰属させる方法を検討する必要があります。

その方法としては、錯誤(真正なる名義回復)、代物弁済、売買、残余財産分配等の所有権移転原因が考えられます。ただし、これら方法の選択のためには個別事案ごとの具体的な検討が必要であるため、本稿で一般論を述べることは控えたいと思います。



3 注意事項
(1) 清算結了登記後の残余財産発見について
上記では、清算事務の過程における会社名義不動産の処理について考えました。普通、清算を開始する時点で、不動産の存在は知れています。

ところが、清算結了登記が行われてから何年も経過した後に、残余財産が見つかるという事態は、実務上も頻繁に発生します。「見つかる」というより、「ことの重大性に気づく」と表現するほうが的確な場合が多いでしょう。ここで問題となる残余財産は、不動産です。他の財産(会社名義の銀行預金等)が問題となることは、まずありません。

しかし、このような事態に対する対処も、上で述べたことと異なるものではありません。というのも、たとえ会社登記簿上は消滅した外観があるとしても、残余財産がある限り会社は消滅しないからです。つまり、残余財産がある限り、会社は清算の途中なのです。

よって、見つかった残余財産については、清算事務の一環として原則どおり処理すればよいということになります。ただし、誤って行われた会社の清算結了登記については、これを一旦抹消し、清算人の権限を登記記録上も明らかにしておかなければなりません。


(2) 株式会社以外の法人について
本稿で述べたことは、株式会社以外の法人形態についても概ね当てはまります。ただし、当該法人の責任範囲(有限/無限)や性質(公益性/営利性)等の違いに注意を払う必要があります。


(3) 税務や不正について
不動産の移転という行為は、税務当局にとってまたとない課税機会です。したがって、処分方法の選択には、税務上の考慮が不可欠です。ただし、税逃れのために不適切な処分方法を選択するということは言語道断です。

また、事業廃止に伴う会社名義不動産の移転という場面は、ともすれば計画倒産の準備行為と紙一重であることもあります。

要するに、ここには落とし穴が沢山あるということです。したがって、この問題は、法定された清算手続に則って適正に処理することが重要だといえるのです。






posted by 司法書士 前田 at 15:50| Comment(0) | 企業法務

2018年04月21日

会社の設立を考え直すべき理由

現行の会社法のもとでは、資本金1円でも株式会社を設立することができます。また、合同会社という有限責任の会社形態も選択することができます。株式会社を設立するのに最低資本金が1000万円も必要であった時代に比べると、会社設立に対するハードルはぐっと下がっているといえます。

当事務所でも「会社を設立したい。」という相談をよく受けますが、そんな相談者の話を聞いていると、会社設立には向いていないのではないかと思うこともしばしばです。そこで、今回は、会社設立を考え直した方がよい理由について考えてみましょう。

* 本稿で述べることは、会社以外の法人形態(社団法人、財団法人等)においても当てはまります。
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1 起業≠会社
起業しようとする人に最もありがちな勘違いは、起業することと会社を作ることとが同じというものです。

起業というのは、文字通り事業を起こすことです。つまり、物を作ったり、製品を仕入れて売ったり、サービスを提供したりすることを事業として(継続的な形態で)行うことが起業するということなのです。したがって、会社を作らず、個人で事業を起こすことも、立派な起業です。

一方、会社を設立するということは、会社法所定の一定の手続を履践することでしかありません。例えば、株式会社を設立する場合なら、定款作成、出資、役員選任、設立登記といった一連の手続を行います(会社法第2編第1章)。また、会社の設立自体は、事業実態がなくても行うことができます。つまり、会社とその事業とは別ということです。

そもそも、会社という制度は、大雑把に言えば、スケールメリットを利用するための仕組みです。ところが、起こしたばかりの事業で、いきなりスケールメリットを利用することは稀にしかありません。例外的なのは、すでに個人として事業拡大を成し遂げた人が会社設立する(個人事業の法人化)とか、会社の一部門を分社化(子会社の設立等)するとかいう場合くらいでしょう。


2 会社の設立・管理の費用
会社を設立するにも運営するにも結構費用がかかります。個人事業と比較して会社に特有の費用というのは、次のようなものでしょう。

ア 設立や変更等登記の費用
イ 税務・会計処理の費用
ウ 法人住民税
エ 年金・社会保険等の費用

まず、会社の登記をするためには登録免許税という税金を納めなければなりません。例えば、株式会社設立の登録免許税は15万円〜、変更登記は項目別に各3万円です。また、株式会社設立の前提として、定款を公証してもらう必要がありますが、この公証人手数料は5万円超、さらに定款に貼付する印紙は4万円分かかります。以上の他に、もしこれら一連の手続を司法書士に依頼すれば、その報酬を支払う必要があります。

そして、会社の税務・会計処理は、同規模の個人事業のそれよりも複雑です。もしこれを税理士や会計士等の専門家に依頼するのであれば、その報酬を支払う必要があります。

さらに、会社の場合、個人と違って、たとえ赤字であっても、毎年必ず法人住民税の均等割7万円〜を納める必要があります。

最後に、会社設立のメリットとしてあげられることの多い厚生年金や社会保険についても注意が必要です。これらは、従業員にとってメリットでしょうが、会社にとっては経費です。特に実質が個人事業と変わらないような会社の場合には、節税メリットを上回る経費が増えるだけという結果に終わることも多いのではないでしょうか。
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3 会社の5年生存率
私が以前勤務していた司法書士事務所で、その事務所が設立に関わってきた多くの会社に対して季節の挨拶状を一斉に送ったことがありました。すると、驚いたことに、半数くらいの挨拶状が、宛所不明として返送されてきてしまいました。

しかしこのことは、統計的には驚くことではないのです。というのも、ちょっと古いデータ(経済産業省2005年度「工業統計表」)によれば、設立された会社が翌年に存続している割合は79.6%、さらに翌年まで存続している割合はその87.6%、さらにまた翌年まで存続している割合はその90.0%、さらにまたまた翌年まで存続している割合はその91.0%、さらにまたまたまた翌年まで存続している割合はその92.2%、・・でしかないからです。つまり、新設会社の5年生存率は52.65%(=100×0.796×0.876×0.900×0.910×0.922)にすぎないわけです。この数字は、私自身の経験にも合致しています。会社を設立したまではいいが、比較的早いうちに事業を放棄してしまったという事例は枚挙にいとまがありません。

ところで、自然人の場合、その権利義務は、死によって相続承継されるなり消滅するなりが決定します。これに対し、会社について事業を終結してその権利義務を整理する(会社の「死」)ためには、正しく(法律の予定する方法で)は解散・清算又は破産という手続を経なければなりません。

そして、このようにして会社が「死」ぬのにも多額の費用がかかります。解散・清算ならば一連の登記、債権者保護手続、清算税務等のため、破産ならば申立代理人や管財人への報酬等のための費用は馬鹿になりません。

正しい方法で会社の事業を終結させた場合の多額の費用を嫌って、うやむやのままに事業を放棄する事例は後を絶ちません。正式でない会社の「死」の結果、登記記録には存在するけれども、実際にはすでに事業実体のない「休眠会社」が増加してしまったことは、商業登記制度における大きな問題の一つです。


5 まとめ
会社設立について、司法書士、税理士、社労士、コンサルタント等をはじめとする「専門家」は、そのメリットばかりを強調して設立を勧めるのが常でしょう。しかし、そのようにするのは、実は、彼ら「専門家」自身が会社の恩恵を最も受けるからに他なりません。つまり、利益相反関係のある「専門家」からのアドバイスというのは、じっくりと疑ってかかるべきということです。そもそも、彼らは、それぞれの分野(司法書士→登記、税理士→税務、社労士→労務、コンサルタント→他人の経営のダメ出し)の専門家ではあっても、責任を負って自ら経営することの専門家ではないのです。

もしあなたが本稿で述べたようなことを十分検討したうえでそれでも会社を設立すると決めたのであれば、それはきっと賢明な判断なのでしょう。事業の成功を祈るばかりです。





posted by 司法書士 前田 at 13:07| Comment(0) | 企業法務

2016年03月09日

休眠会社等の整理事業について

 平成26年、法務省は、「休眠会社等の整理事業」を同年以降毎年行うことを明らかにし、実際に平成26年から毎年、同整理事業が行われるようになりました。整理事業の対象になるのは、「休眠」状態にある株式会社、一般社団法人及び一般財団法人です。

 今回は、休眠会社等の整理事業を通して、会社等の後始末について考えてみましょう。


1. 休眠会社等を整理する必要性
(1) 休眠会社等とは
 会社等(=各種会社や社団・財団法人等)が、外形上存在しているけれども、実体として存在しないという現象が生じることがあります。すなわち、経営・運営者が会社等として行っていた事業を廃止してしまった(=実体の消滅)が、事業廃止に必要な手続きを採ることもなく、放置しているような状態(=外形の残存)です。このようなときに、その放置されている会社等のことを「休眠会社等」と言います。残存している「外形」とは、具体的には登記簿(=登記記録)のことを指します。
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(2) 休眠会社等の弊害
 外形上だけ会社等が存在していても、登記簿を一見しただけでは、当該会社等の事業が廃止されているという事実を知ることはできません。よって、休眠会社等をそのまま放置してしまえば、法人登記制度への信頼や取引の安全を揺るがすことにもなってしまいます。

 また、休眠会社等の外形が悪用される事態も生じ得ます。悪用の目的は、悪徳商法、脱税、さらには詐欺や恐喝等の犯罪行為まで様々考えられるところです。もっとも、休眠会社等の悪用について、噂話として聞くことはあっても、実態調査等に基づく根拠があるわけではありません。
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2.  休眠会社等の整理事業とは
(1) 会社等の正常な後始末とは
 自然人は、死んでしまえば何らの特別な手続きを要せずして権利義務の主体ではなくなります。これに対して、会社等にはこのような意味での「死」が観念できません。
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 会社等が自然人のように「死んで」しまうことが出来ない理由は、当該会社等を中心として形成された権利義務関係を整理する必要があるからです。自然人が死ねば、その権利義務は原則として相続法に従って承継されます。しかし、会社等の目的とされる事業が廃止されたからといって、当該会社等が自然消滅するわけではないし、その権利義務が誰かに当然に承継されるわけでもありません。

 会社等が権利義務の主体で無くなるためには、消滅を必要とする理由に応じた手続きを必要とします。例えば、会社等が消滅しようとしている理由が債務超過であれば、破産手続等を経なければなりません(破産法第16条等)。また、会社等が消滅しようとしている理由が、単に経営・運営者の事業継続意思がなくなってしまったということであっても、当該会社等を消滅させるためには、債権者保護手続きや残余財産の分配等を内容とする清算手続きを行わなければなりません(会社法第9章等)。

(2) 休眠会社等の整理事業の内容
 「休眠会社等の整理事業」とは、一定期間登記記録に変動のない会社等を、法務局が一方的に登記簿上解散させてしまうことを内容とした登記簿の整理事業のことです。

 同整理事業の対象となる会社等は、12年以上登記記録に異動のない株式会社、並びに5年以上登記記録に異動のない一般社団法人及び一般財団法人です(会社法第472条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第149条及び第203条)。これに対して、特例有限会社や各種持分会社等は、登記記録に異動のない状態が長期間に及んだとしても、同整理事業の対象とはなりません。

 具体的な整理事業は、次のような過程を経る手続きです。

 @法務大臣による休眠会社等整理事業実施の官報公告
 A管轄法務局から対象会社等に対する一定期間を定めた通知
 B一定期間の経過
 C登記官の職権による解散登記

 法務局から通知(上記A)を受けた会社等は、休眠していないのであれば、一定期間(2カ月)内に「事業を廃止していない旨の届出」をすることも出来ます。しかし、このような届出のないまま所定の期間が経過すれば、当該会社等について、登記官の職権で解散登記が行われてしまいます。このような解散の手続きは、「みなし解散」と呼ばれます(会社法第472条1項等)。

 みなし解散が、株式会社、並びに一般社団法人及び一般財団法人についてのみ規定されている理由は、これらの会社等については役員の任期が法定されている(会社法第第332条2項等)ため、事業継続中であれば任期の更新時期を目途に役員等変更登記の申請が必ず行われるはずだからです。逆に言えば、任期の更新時期を大幅に経過しても役員変更登記が申請されないということは、事業が継続されていない(=会社等が休眠している)ことを推認させるのです。

 また、株式会社、一般社団法人及び一般財団法人は、みなし解散のような大量・一括的な処分の対象として向いているということも言えるでしょう。準則主義に基づいて簡単に設立できるこれら会社等については、原則として官庁の個別の監督を受けているわけではないからです。

 ただし、誤解してはいけませんが、みなし解散(及び解散登記)が行われても、当該会社等の実体法上の権利義務関係に変更を生じるものではありません。よって、例えば、当該会社等の有する財産権が、みなし解散によって消滅してしまうわけではありません。また、当該会社等に対する債権者は、当該会社等を相手取って、貸金等の返還請求をすることも可能です。これらの権利義務関係を消滅させるためには、別途何らかの清算手続きを行う必要があるのです。

(3) 整理事業が進められるようになった事情
 休眠会社等の整理事業が行われるようになったのは、ひとつには前記1(2)のような休眠会社を放置した場合に生ずる弊害を除くという必要性があるためです。

 他方、これまでも法律の規定がありながら散発的にしか実施できなかった休眠会社等の整理事業が、毎年実施されるに至った背景には、行政側の事務的な都合もあります。すなわち、会社等法人の登記記録が全てデジタルデータとして集中管理されるようになったため、登記記録の照合や通知の発送といった作業を容易に行えるようになったのです。仮に、会社等の登記事項が今でも紙の簿冊に記録されているままだったとしたら、休眠会社等を探すだけでも気の遠くなるような事務量になっていたことでしょう。
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3. 会社等の後始末について
 従来、事業を廃止しようと思っても、そのための事務処理の手間や費用が障害になって、事業廃止のための正式な手続きが敬遠されることがしばしばありました。例えば、事業実態のなくなった会社が自然消滅に近い形で放置されたり、債務超過となった会社の経営者が夜逃げしたりするようなことは、頻繁に起こります。
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 休眠会社等の整理事業が本格化し、休眠会社等の解散登記が行われるということは、当該会社等が事業を継続していないということが公示され易くなったということです。ここには、法人登記制度の信頼性を回復し、将来に向かって取引の安全を確保するという大きな意義があるのです。

 しかし、同整理事業は、図らずも会社等の後始末の方法として「休眠化」という選択肢を作ってしまったことにはならないでしょうか。事業を廃止したい経営・運営者は、正式な手続きを経ずとも、当該会社等を放置すれば良いと安易に考えてしまうかも知れません。

 このような発想に対しては、私は、当たり前のことを指摘しておきたいと思います。すなわち、休眠会社等の「整理」事業とは、単に休眠会社等にかかる登記簿の整理に過ぎないということです。言うまでもないことですが、休眠会社等の解散登記が行われても、当該会社等の権利義務が「整理」されるわけではありません。事業の廃止ということが同時に権利義務の整理という意味を含むのであれば、やるべきことがあるはずでしょう。






タグ:会社
posted by 司法書士 前田 at 13:04| Comment(0) | 企業法務

2015年02月13日

バーチャルオフィスを本店として会社を設立すること?




 会社の設立に関して、法は準則主義を採用しています。これは、官公庁の許可や免許などを必要とせずに、法律の定める手順に従いさえすれば、自由に会社を設立することが出来るという原則です。株式会社の場合には、会社法第2編第1章の要件(定款作成、出資、機関の設置、登記等)を満たしさえすれば、誰でも比較的簡単に会社を作ることが出来ます。言い換えれば、会社という法人が成立する段階では、会社の実在性や設立目的の合法性のような実質的な問題について、公の審査をされることがないのです。会社の設立における準則主義の採用は、経済活動の自由(憲法第22条)の手続的な表現であるともいえます。

 しかし、このように簡単に会社が設立できるとなると、弊害も生じるのではないでしょうか?そこで今回は、会社設立段階での問題の一例として、バーチャルオフィスについて考えてみましょう。
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1. バーチャルオフィスを本店として会社を設立することはできるか?
 バーチャルオフィスとは、「住所」及び「電話番号」をレンタルするサービスのことです。会社の本店とされる「住所」に行っても、実際に会社の従業員がいるわけではありません。会社の「電話番号」に電話をかけても、別の電話に転送されるか、電話応答サービスのために雇われた人が、あたかも会社の従業員を装って伝言を受けるだけです。
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 では、バーチャルオフィスを本店として会社の設立登記ができるでしょうか?

 この質問に対する私の答えは、「そのような登記を申請してはいけない。」です。

 そもそも、会社の成立・存続に際して「本店所在地」を定めることが法定されている(会社法第27条3号)趣旨は、会社(「法人」という観念的存在)の営業の本拠を明らかにすることによって、取引の安全を確保することにあります。すなわち、会社と取引しようとする相手方等は、会社の本店所在地を調査することによって、その会社の実在や営業規模等について理解する端緒とすることが予定されているのです。この趣旨からすれば、会社の「本店所在地」とは、バーチャルオフィスのような名義上の「住所」ではなく、会社の営業活動の本拠のことを指すと解されます。

 バーチャルオフィスが「本店所在地」でないとすれば、これを本店として会社登記をすることは、虚偽申告による登記申請をしたということで、公正証書原本不実記載等罪(刑法第157条1項)の構成要件に該当します。立派な犯罪行為です。

 バーチャルオフィスでも登記が可能であるという言説が流布していますが、これらは重要な点について誤解をして(又は意図的に誤認をさそって)いるものです。

 会社登記は、申請書類さえ形式上調っていれば通ってしまうものです。たとえバーチャルオフィスを本店として会社の設立登記を申請しようとも、書類上問題がなければ、設立登記は完了してしまいます。しかし、これは登記官が形式的審査権しか持っていないことから生じる事態に過ぎません。もともと、登記官には、会社の営業活動の本拠を調査したり、営業実態の有無を審査したりする権限は与えられていないのです。故に、バーチャルオフィスを本店として会社設立登記が通ってしまったからと言って、その登記事項の真実性や適法性について、法務局のお墨付きが与えられたということにはならないのです。
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 当たり前のことですが、登記が出来るかという問題以前に、その内容が適法なものかという問題を考えなければならないのです。



2. 専門家としての義務とは?
(1) 設立段階で生じる諸問題
 上記1で述べたような問題の他にも、会社の設立手続きに関わる仕事をしていると、いろいろと怪しげな事案に遭遇することがあります。例えば、以下のような事案です。

 ・会社設立を偽装した出資金詐欺を疑わせる事案
 ・犯罪行為の隠れ蓑とするための設立を疑わせる事案
 ・設立会社取締役に経営権限が全くない事案
 ・財産隠しや執行逃れを疑わせる事案


(2) 司法書士による本人確認等の義務
 平成19年に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下、「犯罪収益移転防止法」という。)は、マネーロンダリング等の防止を目的として、一定の事業者(以下、「特定事業者」という。)に対して、顧客の本人確認、取引記録の保存、疑わしい取引の届出等の義務を負わせています。このような義務を負う特定事業者には、金融機関をはじめとして、司法書士等の「士業者」も含まれています。

 犯罪収益移転防止法は、組織犯罪に利用される危険のある取引を「特定取引」として類型化し、各特定事業者に特定取引に関与する際の本人確認等の義務を課しています。会社設立手続は、司法書士が本人確認等の義務を負うべき取引として定められた特定取引の一つです。また、特定取引に該当しない場合でも、司法書士は、業務を遂行するうえで関係者の本人確認や取引記録の保存等が義務付けられています(司法書士法23条等)。さらに、業務遂行について重要な行為を行うのは常に司法書士本人であって、他人にこれをさせてはなりません(司法書士法施行規則第24条)。このような義務があることは、犯罪の発生を防止するだけでなく、専門家としての社会的信頼を維持することによって、取引の安全を守るという機能をはたします。

 たまたま私が司法書士であるから、司法書士業務に関連した内容についてお話しましたが、同じような義務は、金融関係者、各種士業者等の身近な専門家が、根拠と方法は違っても、皆負っているものです。


(3) 「専門家」の倫理?
 バーチャルオフィスの問題に限った話ではありませんが、犯罪の疑いのある事案を見て見ぬふりをしながら手続きを請け負ってしまう「専門家」が世の中には溢れています。ひどい「専門家」になると、一度も依頼者との面接をしないまま、無資格のアルバイトに作らせた手続き書類だけを通信販売しているような始末です。

 「専門家」が犯罪の温床を提供しているなど、言語道断。恥を知るべきです。





タグ:会社
posted by 司法書士 前田 at 18:04| Comment(0) | 企業法務

2014年10月12日

「合同会社」という選択肢について


 「合同会社」という会社形態があります。この「合同会社」は、商事関連法制の大改正(平成18年会社法施行)によって、従来からの「有限会社」に代わるものとして、新たに設けられた会社形態です。

 小規模な会社を設立する場合に、有限会社同様のメリットを享受できることから、これまで多くの合同会社が設立されてきました。しかし、安易に設立されすぎた感も否めません。

 そこで今回は、合同会社のメリットとデメリットを、他の形態の会社との比較を交えながら、整理してみることにしましょう。
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1. 「有限会社」はどうなった?
 従来からの「有限会社」は、会社法施行後もほぼそのままの形態で残ることになりました。従来と同様、商号は「〇×有限会社」の使用を継続することが出来ますし、役員の任期の定めをおく必要はなく、決算を公告する必要もありません。

 これは、やや詳しく言うと、従来からの「有限会社」は、会社法施行により、会社法の規律を受ける株式会社となったのですが、特例的な扱いが認められている(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条ないし46条)ということなのです。そのため、従来とほとんど変わらない有限会社が存続することになりました。但し、有限会社を新たに設立することは出来ません。


2. 株式会社と合同会社の違い
(1) 株式会社と持分会社
 会社には大きく分けると、株式会社及び持分会社という2種類の会社が存在します。さらに、持分会社には、合名会社、合資会社及び合同会社という3種類の会社があります。よって、合同会社は持分会社の一形態ということになります。

 株式会社と持分会社とを分ける基準はどこにあるのでしょうか?その基準は、一言でいうと、「所有と経営とが分離」しているか否かということです。

 株式会社の場合には、法律上は、出資者(=株主)と経営者(=取締役)とは一致しません。すなわち、株主は、出資をするけれども日々の経営には口を出さない、というのが原則的な規律です。このことを「所有と経営とが分離」していると言います。このような会社を「物的会社」(出資者の個性は重視されず、出資=物が重視される会社という意味)と呼ぶこともあります。

 これに対して、持分会社の場合には、出資者(=社員)が原則として経営者(=業務執行社員)となります(会社法第590条1項)。すなわち、「所有と経営とが分離」していないのです。このような会社のことを「人的会社」(出資者の個性が重視される会社という意味)と呼ぶこともあります。ちなみに、ここで「社員」というのは会社法上の出資者のことであって、「従業員」のことではありません。

 持分会社の一形態である合同会社では、「所有と経営とが分離」していないということになります。


(2) 株式会社:制度上の想定と現実との差
 もともと株式会社制度というものは、大規模に事業をすることの危険を分散させる目的から発展してきたものです。

 航海技術の発達していなかった時代に、ヨーロッパとアジアとを結ぶ交易は、儲けは大きいけれども、非常に危険な事業でした。交易船一隻が難破してしまうと全財産を失ってしまうというのならば、どんなお金持ちもそんな事業に乗り出すことに躊躇してしまったことでしょう。そこで、公衆から広く出資を募って、利益を分け合うと同時に、もしもの時の危険も分け合おうという発想が生まれたのです。これが、株式会社の原初形態だと言われています。

 株式会社制度が登場したおかげで、大規模な事業が可能となり、生産性の高い経済が実現されるようになったということもできます。

 現在でも、株式会社制度は、利益と危険の分散という発想に基づいています。したがって、会社法で想定される(「法文の行間に読み取れる」という意味です)株式会社は、以下のような特徴を持っていると言えます。

  ・大規模である。
  ・出資者が不特定多数で、経営に関心がない。
  ・事業の経営を担当するのは経営のプロである。

 これを見てすぐに気づくでしょうが、この特徴に当てはまる株式会社というのは、上場企業等の一部の会社に過ぎません。日本の大多数の株式会社は、中〜小規模で、創業家が全額を出資し、創業家が会社経営をしているのです。つまり、日本のほとんどの株式会社は、出資者の個性が会社人格にとってとても重要な意味を持っている実質「人的会社」と言うことが出来ます。

 制度上想定される株式会社とその現実の姿が大きく異なっているために、多くの起業家にとっては、株式会社という器が重厚長大にすぎるという不便が生じます。この問題に対して、会社法は、設立方法の選択肢(募集設立か発起設立か)を設けたり、機関設計の選択肢(取締役会を置くか否か等)を多様化したりして対応しています。合同会社という会社形態を設けたのも、同じ問題への対応手段の一つであると考えることが出来ます。


(3) 合同会社であることのメリット
 合同会社のメリットとしては、以下の点を挙げることが出来ます。もちろん、何をもってメリットと考えるかは多分に主観的な判断です。

  a. 設立費用が安い(定款認証が不要、設立登記の登録免許税が安い)
  b. 管理費用が安い(決算公告・役員任期・株主総会がない)
  c. 経営の自由度が高い(定款自治の範囲が広い)
  d. 間接有限責任(出資者が会社債権者に対して直接責任を負わない)
  e. 法人税の節税メリット(株式会社と同じ税務規律を利用)

 要するに、合同会社は、株式会社に関する規律の多く(b, c)に服さないというメリットと、株式会社と一部同じ規律(d, e)服することによるメリットとの両方を享受できるということです。おまけに、設立費用まで節約(a)できます。



3. どのような場合に合同会社のメリットを活かせるのか
 株式会社という会社形態にこだわらないが、会社成りする必要がある場合があります。例えば、特定事業の許認可の要件の一つとして法人であることが要求されている場合、取引先企業の内規で会社としか取引してはならない等と定められていた場合等、会社でさえあれば用が足りるのであれば、比較的手軽に設立できる合同会社を検討してもよいかと思います。

 また、個人事業の規模が大きくなってしまって、法人化した方が、節税のメリットが大きいという場合にも、合同会社設立を検討してみると良いでしょう。



4. 合同会社で困ること
(1) 融資
 金融機関の融資を受けて事業を行う場合には、融資の条件として、株式会社という器と一定の資本金額が必要になることがあります。よって、融資を受けることを計画している場合には、事前に金融機関に確認を取る必要があります。


(2) 増資
 株式を発行できませんので、簡単には増資できません。よって、設立後近い時期に事業を拡大する計画がある場合には、合同会社を設立することは適切ではありません。


(3) 見た目
 かつて資本金額の規制(株式会社の資本金は1000万円以上等)等が残っていた時代には、株式会社というだけである程度以上の資産規模のある会社であるというステータスがありました(この点、本当は、それ程単純な話ではないのですが、ここでは述べません。)。現在、1円の資本金額でも株式会社を設立できるようになりましたので、株式会社であるということだけから窺い知ることのできる事実は何もありません。しかし、昔のイメージがまだ残っているのは確かです。

 また、合同会社といえば、平成18年以降に設立された歴史の浅い会社であることは、名前だけからも知れてしまいます。社会的な認知度も、株式会社や有限会社ほどは高くはありません。



5. ある合同会社の事例
 最後に、実際にあった合同会社に関する事例をひとつ紹介しておきたいと思います(プライバシー保護のため、事例は大幅に加工してあります。)。

手軽に安く設立でき、管理も楽で、株式会社と同様のメリットを享受できることから安易に設立され過ぎた合同会社に関して、再考のきっかけとしていただきたいと思います。


(事例)
 平成25年6月、健康食品の製造販売を行う山田株式会社の山田社長は 、会社の一部門を独立させるため、従業員の富田林を社長とする店舗型ヘルスサービスを提供するための富田林合同会社を設立することを思い立ち、これを実行に移しました。

 富田林合同会社は、実は、山田株式会社が 全額出資したのですが、よからぬ理由で、表向きは富田林が全額出資したように見せかけて、設立したのです。つまり、富田林が唯一の代表権を持った業務執行社員であり、他には社員はいません。

 平成25年7月、富田林合同会社は、2000万 円の足裏マッサージ機を購入する際に、オ リコス・リース社との間で、ファイナンス・リース契約を結びました。

 平成26年4月、山田社長は、オリコス社から、一本の電話を受けました。「富田林さんが、破産申し立てしたっていう通知が、裁判所から届いたんです。リース契約上、それだとまずいので、富田林合同会社の社長を交代する手続きを採ってもらえますか?」

 さて、富田林合同会社の社長交代とは、いかなる方法で行うのでしょうか?(富田林合同会社の定款には、会社法607 条2項の定めは、置かれていないものとする。)

 まず、破産手続開始決定は、合同会社の社員の法定退社事由(会社法第607条)に該当します。そこで、富田林は富田林合同会社から退社してしまいます。

 すると、社員が一人もいなくなった富田林合同会社は、会社法第641条4号により解散してしまいます。解散した富田林合同会社は、利害関係人の申立てにより選任された清算人(会社法第647条2項)により、清算手続きを行う必要があります。清算手続きが結了すれば、富田林合同会社の法人格は消滅します。

 よって、社長である富田林の首を単純にすげ替えただけで、富田林合同会社を存続させることは出来ません。社長個人が破産したために、財務体質に問題のない会社であろうが、連鎖的に法人格を失ってしまうという事態が生じてしまったのです。

 もちろん、このような事態を防止するための手段を、予め設けることは出来るでしょう。例えば、定款に会社法第607条2項の定めを置いたり、複数の出資者(=社員)によって設立したり、複数の業務執行社員を定めておいたり、といった方法です。

 しかし、このようなことが生じる原因の根本は、合同会社が持分会社(=「人的会社」)の一つとして制度化されており、社員の個性と会社の人格とが不可分に結びついていることによるのです。これは、「物的会社」である株式会社との根本的な相違点です。この根本的相違を看過して、会社の設立を検討する場面で、「合同会社」を、「株式会社」の安上がりな代替策として安易に考えてはいけないと思います。上の事例は、安易な合同会社設立の代償ともいうことが出来るでしょう。


 今回も長い文章を読んでくださって、ありがとうございます。皆様の忌憚のないご意見・ご感想をお寄せ下さい。






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posted by 司法書士 前田 at 11:35| Comment(0) | 企業法務