2018年06月13日

不動産の価額について

モノ(財貨)及びサービス(役務)の価額は需給関係によって定まるというのが、経済の常識です。このことは、不動産にも当てはまります。

しかし、土地の価額について「一物五価(いちぶつごか)」という言葉があるように、不動産には複数の価額概念が存在し、紛らわしいことこの上ありません。そこで、今回は、それぞれの価額概念についてその意味や用途等を整理してみましょう。
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1 土地の価額
(1) 成約価額等
「成約価額」とは、実際に土地が売買された「代金額」のことです。「実勢価額」と呼ばれることもあります。これは、取引成否やその代金の決済に関係するほか、将来、取得した土地を更に売却する際の不動産譲渡所得(さらに納税額)を算出するための基準ともなります。

「時価」も、成約価額に近い概念です。ただし、成約価額が取引成約まで分からないのに対して、時価は、周辺の成約実績等から「相場」を形成するものという意味で用いられることが多いでしょう。もっとも、土地がすべて特定物(個性に着目して取引されるもの)であるため、その時価は、種類物(種類・数量に着目して取引されるもの)のように容易には把握できません。

時価や相場は、これから不動産取引に参加しようとする人たちが心得ておくべき価額とも言えるでしょう。


(2) 公示地価
「公示地価」とは、「一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もつて適正な地価の形成に寄与することを目的と」して国土交通省が毎年(3月末)公表している「正常な価格」のことです(地価公示法第1条)。

つまり、公示地価は、「標準地」の適正な1u単価を示したものということです(下記3「国土交通省土地情報システム」サイト参照)。標準地は、都市計画地域を中心として全国に26,000ヶ所設定されています。

例えば、毎年恒例のように報道される東京都中央区銀座「山野楽器本店」前の土地の公示地価は、2018年も5550万円/uで全国1位でした。

公示地価の目的は、まず、民間取引の代金額の指標を国民に分かりやすく提供することです。これには、仲介業者とそれ以外の国民との間にある情報格差を埋めるという意味があります(下記3)。

また、公示地価は、私有地を公共事業等のために買収・収用するための補償額の指標となります。これは、私人の財産権を保護するという趣旨です(憲法第29条第3項)。


(3) 基準地価
「基準地価」は、根拠法が国土利用計画法であること及び調査主体が都道府県であることを除けば、「公示地価」と趣旨及び用途を同じくする価額概念です。毎年(9月)調査地点の1u単価が公表されます(下記3「国土交通省土地情報システム」サイト参照)。調査地点は、宅地を中心として全国に21,644ヶ所(平成29年度)設定されています。


(4) 路線価、評価倍率
「路線価」には、国税庁が相続税及び贈与税の課税標準の算定基準とするため毎年(7月)発表する「相続税路線価」と、市町村が固定資産税評価額(下記(5))の算定基準とするため毎年(4月。ただし、評価替えは原則3年毎)発表する「固定資産税路線価」とがあります。どちらの路線価も、市街地道路に面した土地の価額を1u単価で表したものです。

しかし、単に路線価と言えば、これらのうち相続税路線価のことを指すのが一般です。これに対して、固定資産税路線価は、行政手続きの公平を担保するために公表される(地方税法第410条第2項)のであって、市民が自ら税額(固定資産税)を計算するためにこれを用いることはありません。

そこで、以下、相続税路線価についてのみ述べます。

相続税及び贈与税の課税標準は、対象土地の地積と路線価を乗じ、これに土地の状況(接道、形状等)に応じた補正を加えるという方法で算定します。路線価は、公示地価の8割程度に設定されることが多いようです。

路線価は市街地を中心にして定められているため、路線価のない地域も存在します。このような地域にある土地について相続税等の課税標準を求めるためには、「評価倍率」を固定資産税の評価額(下記(5))に乗ずる方法を用います。ここで用いられる評価倍率表は、路線価図とともに国税庁のホームページでも公開されています(下記3)。


(5) 固定資産税評価額
「固定資産税評価額」は、市町村が固定資産税算定の課税標準とする価額です。固定資産税の他に、都市計画税、不動産取得税及び登録免許税の課税標準としても利用されます。固定資産税評価額は、公示地価にもとづいて算定された土地価額の7割程度に設定されることが多いようです。



2 建物の価額:土地との対比
建物は、人によって生成され、やがて滅失するものであるという性質があります。このことから、価額概念においても土地との差異を生じます。

建物についても、成約価額、実勢価額、代金額、時価、相場、及び固定資産税評価額という価額概念は、土地の場合と同じ意味で用いられます。他方、公示地価、基準地価及び路線価に相当するような基準はありません。

また、建物の固定資産税評価額は、土地のそれよりも税務上の用途が広く、固定資産税、都市計画税、不動産取得税及び登録免許税の課税標準であることはもちろん、相続税及び贈与税の課税標準としても用いられます。

建物が生成する性質をもつことから、新築建物の場合など、固定資産税評価額が未だつけられていないこともあります。この場合、不動産取得税の課税標準を算定するためには、総務大臣の定める「固定資産評価基準」に従って当該建物を評価する必要があります。これは、建物の構造や床面積等をもとに再建築費用を算定し、経年減価補正(減価償却と同様の処理)を行うという評価方法です。実際の建築費用とは関係ありません。また、これと似ていますが、登録免許税の課税標準を算定するためには、管轄法務局の公表する「新築建物等課税標準価格認定基準表」による簡易な評価方法が用いられます。

さらに、建物が滅失するという性質を持つため、建物の会計処理においては「減価償却」が行われる点も特徴的です。このことは、事業者の貸借対照表上の資産評価に関わるほか、建物の不動産譲渡所得の計算にも関係します。



3 不動産取引情報の格差
価額に限った話ではありませんが、昔から不動産取引の場では、仲介業者というプロと、取引当事者である素人との間に、前者に圧倒的有利な情報格差が存在してきました。すなわち、相場をはじめ、取引当事者が判断の指標とすべき重要な情報は、仲介業者側に偏在してきたということです。

今日でも、取引当事者の無知につけ込んで、不適切な取引を仕掛けるような仲介業者は珍しくありません。

平成2年、不動産取引情報を共有化するために、「レインズ Real Estate Information Network System」という情報交換制度が導入されました。仲介業者は、専任媒介以上の契約を締結した不動産(つまり、ほとんどの取引)の売却情報を、レインズに登録しなければならなくなりました(宅地建物取引第34条の2第5項)。

レインズは、売主と買主とを引き合わせるのが本来の目的ですが、登録された成約情報を手がかりとして相場を探るような目的でも利用されています。ただ、レインズを閲覧できるのは仲介業者だけであるため、情報の共有化と言っても、プロと素人との情報格差を埋めるものではありません。

ところが、最近、インターネットの成熟により、この状況に改善の兆しが見られるようになりました。既にネット上にはレインズに劣らない不動産情報を網羅した民間サイトも登場しています。レインズの一般公開という話すら現実味を帯びてきたように思われます。その気になれば、素人も自ら情報収集できる環境が整いつつあるというわけです。


参考として、本稿内容に関連したサイトを挙げておきます。

国土交通省土地情報システム: http://www.land.mlit.go.jp/webland/
路線価・評価倍率表: http://www.rosenka.nta.go.jp/
マンションレビュー: https://www.mansion-review.jp/
おうちデータベース(関東4県マンションのみ): https://realestate.yahoo.co.jp/direct/building




posted by 司法書士 前田 at 22:34| Comment(0) | 登記業務

2018年05月26日

不動産売買と税金について

不動産売買は、税務当局にとっては絶好の課税機会です。しかし、高い税金を取られるかも知れないというのに、売買当事者の中には、税金に関して無頓着な人が多いように思われます。

そこで、今回は、不動産売買に関する税金及び軽減等の制度について概観してみましょう。
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1 売主に関わる税金
(1) 譲渡所得税(復興所得税、住民税)

不動産売買から生じた所得(=譲渡所得)に対しては、国税である所得税及び復興所得税、並びに市・県民税である住民税が課税されます。これらは、確定申告の方法によって納税します。

納税額を知るためには、まず、次の計算式によって、課税標準となる「譲渡所得金額」を計算します。

「譲渡所得金額=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額」

ここで、「譲渡価額」とは、買主から受け取る売買代金のことです。

「取得費」とは、当該不動産を購入・建築等した代金・費用や仲介手数料等のことです。建物についての取得費は、減価償却分を差し引いて算出します。

当該不動産を取得したのが大昔のことで取得費がわからないというような場合でも、収入金額の5%相当を取得費とみなして計算します。例えば、取得費不明の土地建物を1000万円で売却した場合、その5%である50万円を取得費とすればよいということです。

次に「譲渡費用」とは、仲介手数料、契約書印紙代(下記3)等、不動産売却のために直接かかった費用のことです。

「特別控除」の代表例は、マイホーム売却の場合の3000万円の特別控除です。つまり、マイホームを売却する場合には、大雑把に言えば、3000万円くらいまでの儲けに対しては、所得税がかからないようになっているわけです。その他にも、対象不動産の性質や売却事情等によって、特別控除額が定められています。

不動産譲渡所得に対する税金は、「分離課税」の方式で計算します。この意味するところは、他の所得(例えば、給与所得)と損益通算することができず、税率も別途に定められているということです。

税率は、譲渡年の1月1日時点で所有期間が5年を超える(=長期所有)か否か(=短期所有)によって異なります。

5年超長期所有の場合の税率は15.315%、5年以下短期所有の場合のそれは30.630%です(それぞれ復興所得税分を含む)。さらに、住民税として、長期所有なら5%、短期所有なら9%の税率で計算した税金を納税しなければなりません。これらの税率を、譲渡所得金額に乗ずれば、譲渡所得税及び住民税が算出できます。

以上の説明から、マイホーム売却の場合には特別控除の額が大きいため、課税対象になるような譲渡所得が生ずるようなことは少ないと言えます。また、80年代に極端な地価上昇を始める前の時期に割安で取得した土地や、取得額すら分からなくなってしまった土地を売却する場合を除けば、課税対象になるような譲渡所得が生ずることは少ないと言うこともできます。さらに、投資目的不動産の売却のような場合を除けば、仮に儲けが出ても、高い方の税率(短期譲渡所得の税率合計39.63%)が適用されることはないと言うこともできます。

これをまとめると、譲渡所得税に気をつけるべき売買取引とは、次のどれかに当てはまるような場合ということです。

・非マイホーム不動産の売却である。
・売却する不動産の取得年がとても古い。
・短期の転売である。


(2) 軽減等の特例
まず、マイホーム不動産の売却については、譲渡年の1月1日時点で所有期間が10年を超える場合には、上記の長期所有不動産の譲渡所得税率よりも更に軽減された税率が適用されます。ただし、この制度が適用されるような売買取引というのは、とても稀でしょうが。

また、マイホームの買い換えについては、売却だけではなくてその次の購入までを一連の課税対象行為としてみなければ不公平を生ずることから、課税繰延べの制度が設けられています。これも、適用可能な事例は限られるでしょう。

これら特例について、本稿では詳細に立ち入ることはしません。詳しく知りたい方は、国税庁タックスアンサー等で確認してください。



2 買主に関わる税金
(1) 登録免許税

購入した不動産の権利を第三者に対抗できるようにするためには、これを登記によって公示する必要があります。登記をするための国税を登録免許税と呼び、登記申請と同時に法務局(=登記所)を通じて納税します。

売買にかかる登録免許税の課税標準となるのは、固定資産の評価額です。売買価額は関係ありません。この税率は2%です。ただし、土地については、当分の間1.5%に軽減されています。

例えば、固定資産の評価額1000万円の土地と同500万円の建物を代金3000万円(登録免許税計算には無関係)で買った場合、登録免許税は、次の計算によって求められます。

「登録免許税=土地評価額×1.5%+建物評価額×2%
=1000万円×1.5%+500万円×2%=25万円」

登録免許税は、法文上、登記義務者(=売主)と登記権利者(=買主)とが連帯して納税義務を負うとされています(登録免許税法第3条)。しかし、売買契約によって買主のみが納税義務を負うと修正されていることがほとんどですし、商慣習上も同様に解されています。


(2) 不動産取得税
不動産取得税は、不動産を売買等によって取得した場合に課税される県税です。原則、納税義務者たる買主自ら申告のうえ納税しなければなりません。

しかし、不動産取得税は一般に周知されていないため、これを申告する人はほとんどいません。そこで、ほとんどの県税事務所では、登記記録の異動をもとに納税義務者を特定して、課税通知するという扱いが一般化しています。

不動産取得税の税率は、固定資産評価額(売買価額ではありません)を課税標準として4%です。ただし、当分の間、税率は3%に軽減されています。また、宅地については、課税標準を2分の1とする軽減措置も取られています。

例えば、固定資産の評価額1000万円の土地と同500万円の建物を代金3000万円(不動産取得税計算には無関係)で買った場合、不動産取得税は、次の計算によって求められます。

「不動産取得税=(土地評価額×1/2+建物評価額)×3%
=(1000万円×1/2+500万円)×3%=30万円」


(3) 軽減の特例
登録免許税についても、不動産取得税についても、マイホーム不動産の購入の場合には、一定の要件のもと、軽減の特例制度が用意されています。それぞれ細かい適用要件があるので、本稿では詳細の立ち入ることはしません。


3 その他
(1) 印紙税

上記の他、契約書等の課税文書には、印紙税法にもとづいて所定額の収入印紙を貼付しなければなりません。これは国税です。印紙を貼って消印すれば、納税が完了します。

例えば、代金3000万円の不動産売買の契約書には、1通当たり2万円の印紙を貼付しなければなりません。通常、売買契約においては、合計2通の契約書を用意するので、買主・売主とも各2万円ずつを納税することになるわけです。

さらに、買主がローンを利用して不動産を購入する場合、ローン契約書にも所定額の印紙を貼ります。例えば、3000万円借りる契約であれば、1通当たり2万円分の印紙が必要になります。


(2) 住宅借入金等特別控除(=住宅ローン控除)
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用してマイホームを取得した場合、一定の要件のもと、ローンの年末残高をもとに計算した金額を、居住開始年分以後の各年の所得税額から控除する制度です。細かい適用要件があるので、本稿では詳細の立ち入ることはしませんが、特にサラリーマン(=給与所得者)がこの制度を利用しようとする場合、申請手続についてよく勉強しておいた方が良いと思います。

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posted by 司法書士 前田 at 12:29| Comment(0) | 登記業務

2017年12月30日

中間省略登記の野放しをやめよ!

今回は、新・中間省略登記の是非について考えてみましょう。

実は、この問題は10年以上前に結論が出され(法務省等の公式見解が出ている。)、以来、ほとんど異論をはさむ余地がないとも言われています。今日では、不動産業者だけでなく、金融関係者や司法書士等のなかにも、新・中間省略登記を有益な方法として喧伝している者が数多く存在します。

しかし、中間省略登記が誰にとって何のために有益なのか、ここであらためて考える必要があると思うのです。
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1 中間省略登記と新・中間省略登記
(1) 中間省略登記とは
中間省略登記をめぐる状況は、平成17年(2005年)に現行の不動産登記法(以下「新法」という。)が施行される前後で異なっています。まず、平成17年以前の旧不動産登記法(以下「旧法」という。)のもとでの中間省略登記についておさらいしてみましょう。

中間省略登記とは、典型的には、Aが所有する不動産をBに売却し、続けてBが同じ不動産をCに売却するという2つの売買取引が連続する場合に、中間者Bへの登記を経由せずに、AからCに直接所有権移転登記を行うことを指します(以下、「A」、「B」及び「C」の符号を同様の意味で用います。)。理論上、取引の種類は「売買」に限られるわけではないし、登場人物の数も三者に限られるわけでもありません。実際、登場人物の数は、四者(省略される中間者が2名)とか五者(省略される中間者が3名)とかになることも多々あります。

中間省略登記は、旧法のもとでも理論上は禁止される(=却下事由となる)登記申請手法でした(旧法第49条7号)。中間省略登記が禁じられる実質的な理由は、物権変動の過程が登記記録のうえに忠実に反映されていなければ、登記記録を遡ることによって真の権利関係を確認することが困難になるためです。つまり、我が国の不動産登記制度は、登記に公信力がない(=登記記録の記載内容を信用した取引当事者が必ずしも保護されない)という前提で、権利変動過程を忠実に公示することで取引安全を確保する機能をはたしているわけです。中間省略登記は、この不動産登記制度の趣旨に反するものです。

しかしながら、旧法下で、登記原因を証する書類(売渡証書等)が必須の申請提出書類ではなかった(旧法第40条)ため、中間省略登記は横行していました。つまり、登記申請を審査する登記官にとっては、二当事者間の通常の所有権移転登記と、隠れた中間者が介在する所有権移転登記とが区別できないような仕組みだったのです。

中間者にとって、中間省略登記をすれば、登録免許税や不動産取得税という重い税金負担を回避しながら、売主Aと買主Cとの間の複数の転売取引の価格差を取得する(=「中を抜く」)ことが出来たわけです。中間者はもちろん一般の人ではなくて、不動産業者です。

また、ここで転売取引といっても、このような場合の転売は、所有者Aから不動産業者Bが不動産を仕入れ、最終買主Cを探して来て、これをCに売り渡す、というような呑気なものではありません。むしろ、実体は、売主Aと買主Cが内定したところに、Bが割り込むというものです。このとき、A・B間の売買取引の代金と、B・C間の売買取引の代金は同時に決済されます。つまり、Bは、自分では取引のための資金を全く準備せずに割り込んできて、Cのお金をAに流す途中で、一部を懐に入れるのです。


(2) 中間省略登記についての判例の立場
中間省略登記の可否について、判例は、中間者を含む当事者全員の合意があることを条件として是認する立場であると一般に解されています。

最判昭和40年9月21日は、「甲⼄丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきである。ただし、中間省略登記をするについて登記名義⼈および中間者の同意ある場合は別である。・・・登記名義⼈や中間者の同意がない以上、債権者代位権によって先ず中間者への移転登記を訴求し、その後中間者から現所有者への移転登記を履践しなければならないのは、物権変動の経過をそのまま登記簿に反映させようとする不動産登記法の建前に照らし当然のことであつて、中間省略登記こそが例外的な便法である。」と言っています。

これを素直に読めば、訴訟による場合でも、A→B→Cと順番に移転登記を訴求するのが原則であって、中間省略登記は、登記名義⼈および中間者の同意があるという場合に限って許される例外ということです。

ただ誤解してはいけませんが、この判例は、中間者の同意書があっても中間省略登記申請が許されないという不動産登記手続きの取扱いに矛盾するものではありません。登記官にはもともと不動産登記法という手続法の枠外に生ずる例外について審査する能力も権限もないのです。


(3) 不動産登記法改正と中間省略登記の禁止
平成17年、新法が施行され、登記申請の際に、登記原因を証する書類(=「登記原因証明情報」)を必ず提出しなければならないことになりました(新法第61条)。これは、中間省略登記が事実上も禁止されたことを意味します。

つまり、新法のもとでは、A→B→Cという所有権の移転があった場合には、AからBへの所有権移転を証する書類を提出してA→Bという所有権移転の登記を行ったうえで、BからCへの所有権移転を証する書類を提出してB→Cという所有権移転の登記を行うという二段階を必ず履践しなければならなくなったわけです。この場合に、AからCへの中間を省略した証明書類を使って登記申請すれば、公正証書原本不実記載等罪に該当してしまいます(刑法第157条第1項)。

予想される通り、この変更に反発したのは不動産業界でした。上記1(1)のとおり、不動産業者は、転売の中抜きによる利益を享受する立場だからです。また、中間者を登記記録に記載してしまうことにより、登録免許税と不動産取得税の負担を避けることが出来なくなってしまいます。


(4) 新・中間省略登記の登場
ところが、平成19年、法務省は、「第三者のためにする契約」(民法第537条)又は「買主の地位の譲渡」(最判昭和30年9月29日等、平成29年改正民法第539条の2参照)という法律構成によって、事実上、中間省略登記を再び容認するような見解を明らかにしました(平成19年1月12日民二52民事局第二課長通知)。この見解にもとづく登記手法は、2回(又はそれ以上)の売買取引を想定した従来型の中間省略登記とは区別して、「新・中間省略登記」と呼ばれます。

新・中間省略登記においては、上記2つのうちいずれの方法によっても、対象不動産の所有権は、売主から買主へと直接移転するとされます。中間者は第三者に対して直接効力が生ずる契約を締結するだけの役者(=「要約者」)として、あるいは物権変動前の抽象的地位(=「買主の地位」)を売主から買主に流すだけの者として扱われます。つまり、中間者は一度も不動産の所有権を取得しないので、登記する必要はないというのです。

法務省がかかる新・中間省略登記を容認するに至ったのは、当時の内閣諮問機関である規制改革・民間開放推進会議の答申(平成18年12月25日「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申」p.175 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/old/minutes/meeting/2006/10/item_1225_04.pdf )を受けたものです。ここでは、かかる取扱いの必要性について、「@不動産登記法改正前と実質的に同様の不動産登記の形態を実現し、A現場の取引費用の低減ニーズに応えるとともに、B不動産の流動化、土地の有効利用を促進する」(符号筆者)という理由が掲げられていました。

前段落の理由@(「理由」というより「目的」ですが。)を見れば明らかなように、新・中間省略登記は、実質的には中間省略登記と同じものと位置づけられています。ならば、新・中間省略登記の法律構成(=「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡」)も、詭弁にしか過ぎないでしょう。

結局、政府は、不動産業界の代弁者として、中間省略登記を復活させてしまったのです。



2 新・中間省略登記の問題
(1) 擁護派のその他の言い分について
新・中間省略登記を支持する理由として、上記1(4)中の「A現場の取引費用の低減ニーズに応えるとともに、B不動産の流動化、土地の有効利用を促進する」点について考えてみましょう。

先ず、「取引費用の低減ニーズ」というのは、換言すれば、転売取引で中間者となる不動産業者が登録免許税や不動産取得税を納めたくないということです。しかし、そもそも中間省略登記は、転売の場面で、中間者が差額を中抜きするのを目的として行われるものです。売買の当事者にとっては、不要な転売が促進されるため、費用低減どころか、損失を増やすだけです。つまり、売主と買主は、本来手にすべきであった利益を、中間者にかすめ取られてしまうのです。

中間者が税金を納めなくて良いという点も、不動産業者を過度に優遇するだけであって、国民全体にとっては損失でしかありません。

次に、中間者だけが得をするような中間省略登記の仕組みが、不動産の流通や有効活用を促進する結果になるというのも飛躍しすぎた理屈です。不動産業界を肥大化させることと、不動産の流通・利用を促進することは全く別の話です。また、不動産証券化の際に中間省略登記を用いるニーズがあると説く人がいますが、これも取ってつけたような言い訳に見えます。


(2) 取引の不透明化
売主Aと買主Cとは互いに中間者Bを取引相手としているので、互いの存在を知らない又は気づかないこともしばしばです。AとCの知らないうちに、B1、B2、B3と、複数の中間者が割り込むこともあります。さらに、Bが、中抜きだけを目的としたペーパーカンパニーということも珍しくはありません。

このような不透明な取引が、「政府公認」として堂々と行われているのです。


(3) 「地面師」について
昨今、「地面師」という単語がメディアを騒がせるようになりました。地面師とは、他人の土地を売って、その売買代金を詐取するという詐欺手口、又はそのような手口を用いる詐欺師のことです。積水ハウスやアパホテル等、不動産取引のプロですら大きな被害に遭いました。

地面師は、権利証や印鑑証明書等を偽造することによって土地の所有者に成りすますのが典型です。しかし、最近の地面師はもっと巧妙です。最近の被害事例の中には、土地の所有者に成りすますのではなしに、本物の土地所有者を取引に連れて来て、代金だけを詐取するというものすらあります( http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53739 )。取引が不透明になると、そのようなことが可能になってしまうのです。取引を被害者にとって不透明にするための道具として、新・中間省略登記は必ずといってよいほど用いられる詐欺師にとって便利な道具です。


(4) まとめ
本稿で述べたことは、不動産取引の一端にでも関わる者ならば大抵は知っている常識です。知らないのは不動産取引の当事者となる一般の(「不動産業関係者でない」という意味で)人だけです。

私は、個人的には、中間省略登記だろうが新・中間省略登記だろうが実質は同じであって、一般の人達や社会全体にとっては有害なものでしかないから、禁ずべきであるという意見です。しかし、残念ながら、私の意見は、現状を変えるほどの力を持ちません。少なくとも、本稿を読んでくださった方々には、新・中間省略登記のカラクリを理解し、上手く操られることがないようにと願います。
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posted by 司法書士 前田 at 14:17| Comment(0) | 登記業務

2016年06月28日

夫婦間の居住用不動産贈与における贈与税の配偶者控除について

 夫婦間で居住用不動産(受贈者自ら居住するための不動産のこと。以下、単に「居住用不動産」と言えば、同じ意味で使っています。)又はその取得資金を贈与する場合には、一定要件のもと、贈与税の配偶者控除を利用することが出来ます。今回は、私の事務所にも相談の多い夫婦間の居住用不動産贈与についておさらいしてみましょう。
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*私は税務の専門家ではありませんので、本稿は、制度を紹介することを意図したものであって、税金について細かく説明しようと意図したものではありません。



1.贈与と贈与税の原則
(1)贈与とは
 贈与とは、「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」法律行為のことです(民法第549条)。無償であるというところが、対価を要件とする「売買」や「交換」等の物の移転を伴う多くの法律行為と異なる贈与の特徴です。

 贈与を行うには、特に書面で契約を行うことを要せず、両当事者の合意のみによって行うことが出来ます。しかし、書面によらない贈与契約は、未履行の部分については、各当事者が一方的に撤回(=将来に向かって契約の効果を消滅させること)することが可能(民法第550条)であることから、真に贈与するつもりであるならば書面を交わすことによって契約するのは常識と言えるでしょう。


(2)贈与税の原則
 無償契約であるということから、一見すると安上がりな財産移転方法であるかのように思われる贈与も、税務のことを考慮すれば、決して安上がりではないことが分かります。なぜなら、贈与には、比較的高い税率で贈与税がかけられるような仕組みになっているからです。

 贈与税の税率は、一般贈与(=特例適用のない贈与)財産について次のように累進的に定められています(相続税法第21条の7)。
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 課税価額は、実際の贈与額から基礎控除額(110万円)を控除した後の価額です。贈与税を算出するには、課税価額に税率を乗じ、そこからさらに税控除を行います。例えば、ある人が3000万円の贈与を受けた場合、贈与税の一般的な計算式は以下のようになります。3000万円もらったら、1195万円を税金として国に納めなければならないということです。

・(3000万円−110万円)×50%−250万円=1195万円

 贈与税の税率が高いのは、相続税の免脱を防止するためです。仮に贈与税という制度がなかったとすれば、資産家は、生前に大部分の財産を他人(相続人であるとは限りません)に贈与することによって、容易に相続人が負担すべき相続税を免脱させるよう対策することが出来てしまうでしょう。贈与税は、「相続税の補完税である」とも言われるのはこのような理由です。

 しかし、贈与であればすべて高い税金をかけられるというわけではありません。贈与税という仕組も、財産処分の自由(民法第206条等)、相続財産承継制度(民法第5編)、夫婦財産制度(民法第4編第2章第3節)等の実体法上の諸制度のバランスの上に成り立っている政策の一つに過ぎないのです。従って、実体法上の諸制度との兼ね合いにおいて、租税負担の不公平等の問題を生じないのであれば、贈与税を軽減・免除するという措置を取ることも許容されるのです。本稿のテーマである居住用不動産贈与における配偶者控除の制度も、このような軽減措置の一つと考えることが出来ます。



2.居住用不動産贈与における贈与税の配偶者控除とは
(1)制度の内容
 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方から他方配偶者に対し、居住用不動産(家屋・敷地)又は居住用不動産取得のための金銭を贈与した場合、一定要件のもと、贈与額から基礎控除の他にさらに2000万円を限度に控除をした額を課税価額とすることが出来ます(相続税法第21条の6)。

 例えば、3000万円を贈与された場合、通常なら1195万円の贈与税の納税義務が発生する(上記1(2)の計算)ところ、この制度の適用を受ければ、贈与税額は、下記のとおり、350万円程度へと大幅に軽減されます。

・(3000万円−110万円−2000万円)×40%−125万円=355万9875円


(2)利用要件
 この制度を利用するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

・贈与当事者である夫婦の婚姻期間が20年以上である。
・国内の居住用不動産又は居住用不動産取得資金の贈与である。
・贈与の翌年3月15日までに、受贈者が取得した居住用不動産に現に居住する。
・同じ配偶者からの贈与について同控除制度を利用したことがない。


(3)利用目的
 夫婦間で居住用不動産を贈与する目的は、主に次の2つであろうと思われます。

・事実上の財産分与
・相続対策

 夫婦が離婚によって婚姻関係を解消する際に、婚姻中に取得した財産の清算を行うことを「財産分与」といいます(民法第768条)。夫婦間での居住用不動産の贈与は、婚姻中に事実上の財産分与をする目的で行われることがあります。これは、不動産を夫婦のどちらの名義にしておくかという問題であって、離婚や夫婦仲の問題とは一応分けて考える必要があります。

 また、相続対策として配偶者への不動産の贈与が行われることもあります。相続対策とは、被相続人となるべき人が、相続税の節税や推定相続人間の権利調整を、生前のうちに行うことです。本稿では、その詳細については省略します。


(5)注意事項
ア.贈与税の申告
 本制度の配偶者控除を受けるためには、期限内(翌年の2月1日から3月15日まで)に戸籍謄本等の必要書類を添付して贈与税の申告を行う必要があります。上記2(2)の要件に当てはまれば、自動的に配偶者控除が受けられるというわけではありませんし、納税額がないからと言って申告の必要が無くなるわけでもありません。

イ.贈与対象土地の評価
 また、不動産を贈与する場合には、その不動産を評価(金額をつけるということ)しなければなりません。建物については、固定資産の評価と同一ですので、別段の評価を要しません。これに対し、土地については、原則として各年度の路線価をもとに、一定の計算式に当てはめて自ら評価しなければいけません。ここでは、その計算方法については省略します。(自分で計算したい方は、国税庁HPの不動産評価明細書作成コーナーを使えば、簡単に土地の評価を行うことが出来ます。下記の申告書作成コーナーから、贈与税申告書及び土地評価明細書の作成コーナーに入ることができます。
https://www.keisan.nta.go.jp/h27/ta_top.htm#bsctrl )
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(国税庁HPの申告書作成コーナー。)
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(贈与税申告書類を一式作成することが出来る。)

ウ.夫婦の合意
 そして最後に、当たり前のことですが、夫婦間で不動産を贈与する際には、夫婦双方が当該贈与をすることについて合意していることが必要です。こんな当然のことを私がことさらに注意するのは、他方配偶者に内緒で不動産の所有権を移転しようとしていると疑われる相談事例が少なからず存在するからです。へそくり感覚で不動産所有権を移転してはいけません。
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posted by 司法書士 前田 at 16:36| Comment(0) | 登記業務

2016年04月11日

認可地縁団体の不動産所有について

 法人ではないけれども、法人と同等の組織や資産等を持った団体というものが存在します。これらの団体は「権利能力なき社団」と呼ばれて、法人とは区別されています。

 今回は、権利能力なき社団の一つとされてきた地縁団体について、これを法人化するための手段のひとつである「認可地縁団体」の制度と、認可地縁団体に認められた不動産登記の特例について整理してみましょう。

 このようなテーマは、一般にあまり馴染みがないかも知れませんが、実は、意外にも、多くの人にとって身近な問題に関係しているのです。



1. 設例(以下、「本例」といいます。)
 かつて「甲村」と呼ばれた地区では、代々、周辺の山林(以下、「甲土地」といいます。)を入会地として、甲村の住民が自由に山菜や薪を採ったり、村の行事を行ったりするために利用してきました。住民は、交代で甲土地の管理をし、その管理費用を分担してきました。
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 甲村は、明治時代に近隣の村とともに乙町に合併されました。その後、乙町も丙市に合併され、現在では住居表示に「甲村」という名前すら残っていません。しかし、かつて甲村だった地域に居住する住民たちは、今でも「甲村自治会」の名のもとに、甲土地の利用と管理を続けています。甲村自治会は、任意加入の団体ですが、この地域に居住する住民の過半数は甲村自治会に加入しています。

 最近になって、丙市は、市民の利便向上のため、甲土地を横切って市道を建設する計画を立てました。計画実現のためには、甲土地の所有者から土地の一部を買収する必要があります。

 ところが、丙市が、甲土地の登記記録を閲覧してみると、明治中期、甲村住民ABCの共有とする所有権の保存登記が行われたのを最後に、登記記録の異動がありませんでした。

 さらに、丙市がABCについて調査してみると、ABCとも既に亡くなってから60〜80年経過しており、Aについては、数次に相続が生じた結果、現時点で戸籍上生存している相続人が50名いることが判明しました。BとCについても、同じように、それぞれ30名、40名の相続人が生じていることが判明しました。



2. 「権利能力なき社団」と法人について
(1)なぜ個人名義で登記する必要があったのか?
 かつて、自治会や町内会等の「地縁団体」を法人化することは容易ではありませんでした。従って、不動産を地縁団体の名義で登記することも出来ませんでした。そこで、実質的には団体として不動産を所有しているような場合でも、便宜的に団体代表者の単独名義で登記したり、団体構成員の共有名義で登記したりするという方法が用いられていました。

 本例の甲土地についても同様の理由で、実質的には甲村自治会が団体として所有する財産でありながらも、不動産登記記録上は甲村住民3名の個人名義で登記されたのだと考えられます。


(2)法人とは
 法は、権利能力の主体として、「人=自然人」(民法第2章)とは別に、「法人」を規定しています(民法第3章)。自然人は、出生とともに、特に何らの行為を要することなく権利能力を獲得します。これに対して、法人は、法律の規定によらなければ成立しないし、その権利能力も定款・規約等所定の目的の範囲に制限されています(民法第33条、34条)。

 このように、法律が法人の成立やその権利能力の範囲を限定している理由は、取引の安全を図るためです。すなわち、法人は登記制度等によってその基本事項が公示されているため、取引の相手方は、誰に対して法律行為を行うべきか、誰に対してどのような範囲において責任を問うことが出来るのかを、予め知ることが出来るのです。


(3)「権利能力なき社団」の権利能力?
 地縁団体は、法律の規定によらなければ法人となることは出来ません。法人でなければ、権利能力の主体となることは出来ないのですから、地縁団体に不動産の所有権が帰属するということもあり得ないのが法律上の建前です。

 しかし、団体の中にも、法人と同等の恒常的組織を備え、運営や財産管理について内部規律の確立されたものが存在します。このような団体には、権利能力を否定するよりも、むしろ権利能力を認める方が、取引の実情に即していると言える場面は、社会に数多く存在します。そこで、判例は、このような法人並みの組織を持った団体を「権利能力なき社団」という概念で区別して、法人に近い権利能力の行使を認めるような解釈をするようになりました(最判昭和39年10月15日)。また、権利能力なき社団でも、訴訟の当事者となることが出来ることは、法律上も明らかにされています(民事訴訟法第29条)。

 したがって、地縁団体も、法人並みの組織を備えていれば、権利能力なき社団ということになります。判例上「権利能力なき社団」であるか否かが問題となった団体としては、この他にも、預託金制ゴルフクラブ、法人設立手続き途上の社団等があります。


(4)権利能力なき社団の限界
 判例が、権利能力なき社団に対して、実質的に法人同様の権利能力を認める解釈をしたといっても、両者が全く同じ権利能力を行使できるわけではありません。法人化されていない以上、権利能力なき社団に対して、権利能力を正面から認めることが出来ないという限界があるのです。

 この限界として最も問題とされることが多いのは、権利能力なき社団に不動産登記の名義人となることが認められないという制限です。



3. 認可地縁団体について
(1)地縁団体とは
 地縁団体とは、「市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」(地方自治法第260条の2第1項)のことです。地縁団体の身近な例は、町内会や自治会です。
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(2)認可地縁団体とは(要件)
 平成3年地方自治法の改正により、団体名義で不動産を保有することを目的として、一定の要件を満たした地縁団体に対して、市町村長の認可のもと法人格が与えられるという制度が創設されました(地方自治法第260条の2)。この制度によって法人化した地縁団体のことを「認可地縁団体」と呼びます。認可地縁団体は、認可(による告示)によって成立する団体であって、別途法人登記をする必要はありません

 認可を受けるためには、以下の要件が必要となります(地方自治法第260条の2第2項)。

 ア.区域住民のための活動の実態(公益性)
 イ.地縁を画する区域の明確性(区域明確性)
 ウ.当該団体への区域住民の参加可能性及び参加実態(住民参加性)

 この制度が想定しているのは、例えば、一定区域内の住民の相互連絡や互助活動等を現に行っている町内会が、集会所として用いている土地建物を団体名義で登記する必要があるような場合です。

 これに対して、上記要件や不動産保有という目的を欠いているような場合、また、そもそも地縁団体とはいえない場合には、本制度による認可を受けることは出来ません。よって、マンションの自治会、地域スポーツクラブ、学校の同窓会等は、認可地縁団体となることは出来ません。


(3)法人化選択肢の追加
 平成18年の法人制度改革により、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」等、法人に関する基本法規が制定され(平成20年施行)ました。この改革の目的は、法律規定に従った手続きを履践すれば、監督官庁の許認可なしに、誰でも簡単に法人を設立することが出来る(このことを、「準則主義」といいます。)ようすることでした。これに伴い、従来、法人一般について許認可主義を規定していた民法第3章の諸規定は、大幅に改正・削除されました。したがって、現在では、マンションの自治会であろうと、アニメ同好会であろうと、簡単に法人化することが出来ます。

 地縁団体についても、法人化するためには、市町村長の認可を受ける方法(地方自治法第260条の2)に加えて、一般社団法人等を設立するという選択肢が出来たわけです。いずれの方法をとっても、法人化すれば、地縁団体名義で不動産を登記することが出来ます。では、法人化を検討している地縁団体は、どちらの方法を選択すべきでしょうか?

 設立手続きの容易さや運営の自由度という点を見れば、地縁団体を一般社団法人として設立する方法が優れているでしょう。上記3(2)のとおり、認可による地縁団体の法人化のためには、ハードルは相当高いと言えます。また、認可後に規約変更等の必要が生じた場合にも、当該変更に関して市町村長の認可を取らなければいけません。

 しかし、ハードルが高いことと引き換えに、認可により地縁団体を法人化することには、以下のような特典が用意されています。

 (あ)税制上の優遇
 (い)不動産登記の特例利用

 上記(あ)税制上の優遇について、例えば法人税に関して認可地縁団体は公益法人とみなされ、収益事業からの所得のみが課税対象とされます。その他にも、不動産譲渡所得税についても優遇措置が定められています。

 上記(い)の不動産登記の特例については、下記4で説明します。



4. 認可地縁団体にかかる不動産登記の特例について
(1)不動産登記法の原則
 不動産登記法第60条は、不動産の権利に関する登記申請についての「共同申請の原則」を明らかにしています。すなわち、不動産の権利設定・変動を登記する際には、「登記権利者」と「登記義務者」とが共同して申請しなければなりません。

 ここで言う「登記権利者」及び「登記義務者」というのは、一般に、法律行為の両当事者(例えば、「売主」及び「買主」)に一致することが多いのですが、必ずしもそうとは限りません。ここでは、多くの法律行為が両当事者を想定しているのに応じて、登記申請する際にも、原則として、両当事者が共同で行わなければならないという程度に理解しておけば十分です。(「登記権利者」及び「登記義務者」は不動産登記法上の独特な概念ですので、本稿では説明を省略します。)

 また、建物が建築されたり、埋め立てによって土地が創設されたりした場合に、最初に行うべき所有権を公示するための「所有権保存」登記については、両当事者と言えるものがないので、権利者が単独で申請することが出来ます。ただし、ここで申請人になることが出来るのは、表題部に所有者として表示された者やその相続人等に制限されています(不動産登記法第74条第1項)。


(2)特例創設の背景
 平成3年の地方自治法改正により認可地縁団体という法人設立制度が創設され、認可地縁団体名義による不動産登記が可能となりました。当時、権利能力なき社団の代表者や構成員名義でしか登記することが出来なかったために、不動産にかんする権利の公示や管理・処分について生じていた問題は、この改正によって解決するものと期待されました。ところが、現実には、問題はそう簡単に解決しませんでした。何故でしょうか?

 認可地縁団体による不動産登記が可能となったといっても、登記申請のためには、上記4(1)のとおり、当事者(登記義務者、登記権利者)が共同申請するか、単独申請の場合でもその申請人資格に制限があります。地縁団体の保有する不動産は、代表者名義で登記されたり、団体構成員の共有名義で登記されたりしているのが普通です。よって、地縁団体が地町村長の認可後に、不動産を団体名義で登記するためには、登記記録上名義人として記載されている者を登記申請に関与させる必要があります。

 本例の甲土地について言えば、登記記録に、地縁団体構成員たるABCの名義で所有権の登記がなされているのですから、ABCから認可地縁団体に対して、「〇年〇月〇日委任の終了」を原因とする所有権移転登記を行わなければなりません。所有権移転登記を行う際には、登記名義人であるABCと認可地縁団体とが共同で申請行為を行う必要があります。

 ここで、「〇年〇月〇日委任の終了」を原因として所有権移転登記するという意味は、次のようなことです。

 地縁団体が権利能力なき社団である限り、当該団体名義では不動産登記することはできないのですから、構成員の誰か(代表者又は複数の構成員)に便宜的にでも登記名義人になってもらわなければなりません。不動産の登記名義人としてABCが記録されているということは、地縁団体(の構成員全員)がABCに対し、登記名義人になってもらうという事務を委任していたということを意味します。そして、当該団体が認可地縁団体として不動産登記の名義人となることが出来るようになったと同時に、この委任関係は終了し、当該不動産の所有権が、ABCから認可地縁団体に対して移転したと考えられるのです。

 したがって、ABCと認可地縁団体とが共同して所有権移転登記を申請すれば真の登記名義人を公示するという目的は達成されるはずです。

 しかし、ABCがすでに死亡しており、相続が発生していたとしたらどうでしょうか?この場合には、相続人全員の協力を得て、ABCから認可地縁団体に対して所有権移転登記を申請することになるでしょう。(この所有権移転登記の前提として、ABCからその相続人への相続を原因とした所有権移転登記が必要かという問題が生じますが、本稿では説明を省略します。)

 実は、ABCの相続人を関与させなければならないということが、認可地縁団体の不動産登記にとって、実務上一番の障害であることが明らかとなったのです。

 通常であれば、人が死亡すれば、その人について相続が開始します。このとき、不動産が遺産である場合には、相続を原因として、被相続人から相続人への不動産の権利移転が生じます。この手続きを主導するのは相続人であるのが普通でしょう。

 これに対して、地縁団体の管理する不動産については、相続のような権利承継手続き及びそれに伴う登記申請が行われることは稀です。これは、当該不動産が、実質的には、地縁団体の所有物であって、登記名義人個人の遺産ではないからです。また、地縁団体の管理する不動産については、構成員の日々の利用に支障とならない限り、登記名義については誰も関心を払わないものだからです。

 しかし、そのようにして登記記録が放置されたまま100余年も経過すると、相続人の数は相当の規模に達します。こうなれば、登記申請という手続行為にすら、多数の相続人の一致した協力を得るのは至難の業です。相続人の協力を得られないなかで、現にある権利関係と登記記録とを一致させるための手続きを行おうとすれば、裁判等を利用するなど、相当の費用と時間を覚悟しなければなりません。

 また、相続人が多数になると、相続人の中に所在不明者が出てくるのが普通です。所有権登記手続きに、所在不明者を関与させることは容易なことではありません。


(3)特例の内容
 認可地縁団体の所有する不動産についての登記手続きの困難を解決するために、地方自治法の改正(平成27年施行)が行われ、下記の要件を全て満たした認可地縁団体に対して市町村長が証明書を発行することにより、単独で登記申請することを可能にする特例が新設されました(地方自治法第260条の38)。

 @不動産を所有していること。
 A不動産を10年以上所有の意思をもって平穏かつ公然と占有していること。
 B不動産の表題部所有者又は所有権の登記名義人の全てが認可地縁団体の構成員又はかつて認可地縁団体の構成員であった者であること。
 C不動産の登記関係者(表題部所有者、所有権登記名義人、これらの相続人)の全部又は一部の所在が知れないこと。

 上記要件のそれぞれについての説明は省略します。ただし、上記Cの所在不明者については、たとえ一部の者でも所在不明であればこの要件に該当することになります。

 本特例の適用を受けようとする認可地縁団体は、市町村長に対して、認可地縁団体が不動産権利登記することについて異議者を募る旨の公告を申請します。

 公告申請を受理した市町村長は、上記@〜Cの要件充足を書類上審査した後に、3カ月以上の期間を定めて公告を行います。この期間内に、異議を申し立てるものが出なかった場合には、市町村長は、認可地縁団体に対して、「公告をしたこと及び登記関係者が公告の期間内に異議を述べなかったことを証する情報」(以下、「証する情報」と言います。)を交付します。

 認可地縁団体は、証する情報を添付することによって、単独で、団体名義への所有権保存登記や所有権移転登記を申請することができるようになるのです(地方自治法第260条の39)。

 要するに、本特例は、不動産登記名義人の相続人が所在不明になるという実務上高い頻度で発生する問題に対して、登記手続きの例外を認めたのです。本来であれば、所在不明者について不在者財産管理(民法第1篇第2章第4節)等の手続きを経なければならないところ、それを省略してしまうのです。



5. 残された問題
(1)認可地縁団体の不動産登記について
 認可地縁団体という法人制度と、認可地縁団体にかかる不動産登記の特例の創設によって、認可地縁団体の所有する不動産についての問題は、解決に向け大きく前進したということが出来ます。

 確かに、登記名義人の相続人が多数になってしまった場合、不動産の権利登記手続きの障害となるのは、相続人の所在不明の問題だけではありません。例えば、相続人の意思能力の欠缺、相続人の不存在等も、高い頻度で遭遇する問題です。

 相続人に意思能力が欠缺している場合には、本来ならば、後見制度(民法第4編第5章)等によって欠けた意思能力を補完するべきでしょう。また、相続人がいない場合には、本来であれば、相続財産管理(民法第5編第6章)を経て権利の帰属を確定させるべきでしょう。

 しかし、本特例は、相続人の一部でも所在不明になれば、適用の対象となるのですから、他の理由(意思能力欠缺など)で相続人が登記手続きに関与できない事情が重なった場合であっても、利用できることになります。本特例による不動産登記を検討している認可地縁団体は、皮肉にも、対象不動産の登記関係者(=登記名義人の相続人)が所在不明になっていることを祈りさえするかも知れません。


(2)地縁団体とは認められない団体
 もともとは地縁団体であったものが、時代とともに地縁団体でなくなることがあります。このような団体は、もちろん、認可地縁団体となることは出来ません。よって、不動産登記の特例を利用することも出来ません。

 たとえば、かつては村の住民全員が祖先を祀るために墓地会を形成して、墓地及びその施設を管理し、祭事を取り仕切ってきたというような状況があったとします。時代が流れ、墓地の権利関係が固定化し、墓地会の構成員の多くが村の住民ではなくなってしまいます。そのようになれば、当該墓地会は、地縁団体ではありません。

 しかし、このようにして地縁団体ではなくなった団体にも、本例と同じような問題は生じるのです。


(3)耕作放棄地、山林、空き家等の問題
 本例に現れた問題点は、二つありました。一つは、地縁団体の法人化という問題です。もう一つの問題は、不動産登記への相続人の関与という問題です。後者は、実は、誰にでも身に覚えのある問題です。

 たとえば、田舎の田畑について相続が生じても、直接そこを耕作する者がいなくなってしまえば、相続等の権利承継手続きが行われないまま、放置されてしまうことがあります。そのまま相続人の数が増えて、事実上、権利関係が宙に浮いてしまうことは珍しいことではありません。山林についても全く同じことが当てはまります。

 また、日本の人口が減少するとともに拡大してきた空き家の問題も、物理的に放置された空き家の利用を議論する前に、利用の前提としての権利承継手続きが未了であることが往々にしてあります。

 不動産について権利承継の手続きが放置されてしまう状況は、規模の違いこそあれ、身近なところでも生じうるのです。
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posted by 司法書士 前田 at 11:57| Comment(0) | 登記業務