2015年03月27日

任意後見制度とは

 通常、人は、自分の判断で、住む場所やライフスタイルを選択し、必要に応じて財産を利用・処分します。しかし、このような判断を自分ですることが出来なくなったとしたら、どうするのでしょうか?

 今回は、判断能力の低下に備えるための制度の一つである「任意後見制度」について整理してみましょう。
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1. 任意後見制度とは
 任意後見制度とは、本人が、将来精神上の障害のために自身の判断能力が失われてしまう事態に備えて、予め他人に対して一定の代理権を付与する旨の契約(以下、「任意後見契約」という。)を結んでおき、実際に本人の判断能力に問題が生じたときに、家庭裁判所の選任にかかる監督人のもとで、任意後見人が代理行為を行うという制度のことです。



2. 法定後見制度との違い
 任意後見制度に類似した制度に、法定後見制度があります。どちらも、判断能力が不足又は欠如した本人の、財産管理や身上監護をするための制度です。

(1)代理権等の範囲
 法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって、後見類型(事理弁識能力を「欠く常況にある」民法第7条)、保佐類型(事理弁識能力が「著しく不十分である」民法第11条)及び補助類型(事理弁識能力が「不十分である」民法第15条)に分かれます。法定後見制度を利用するためには、一定の者からの家庭裁判所への審判開始申立てが必要ですが、任意後見制度のように予め契約によって準備する必要はありません。

 後見事務の内容である代理権等(代理権、同意権及び取消権)の範囲についても、任意後見制度においては契約によって定められるのに対して、法定後見制度においては法定されるか審判によって付与されます(後見類型における代理権について民法859条等、保佐類型における同意・取消権について民法第13条等)。


(2)両制度の優先関係
 本人の意思を尊重するという趣旨から、任意後見制度と法定後見制度が競合する場合には、原則として任意後見制度が優先します(任意後見契約に関する法律第10条、同法第4条2項)。


(3)家庭裁判所の監督
 任意後見契約が発効するためには、本人の事理弁識能力が「不十分な状況」になったときに、申立てにより家庭裁判所が監督人を選任しなければなりません(任意後見契約に関する法律第4条)。

 監督人選任以降、任意後見人は、報告義務等を通じて、監督を受けます。しかし、家庭裁判所が任意後見人を直接監督することはありません(任意後見契約に関する法律第7条)。また、任意後見人に不正行為があったような場合でも、家庭裁判所が申立てによらずに職権で任意後見人を解任することもできません(任意後見契約に関する法律第8条)。

 これに対し、法定後見制度においては、家庭裁判所が、後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)に対して、報告徴求や調査等を通じて、直接監督権を行使することが出来ます(民法第832条)。また、家庭裁判所は、必要に応じて職権で後見等監督人をつけることもできるし(民法第849条等)、後見人等の不正行為を認知したときには職権でこれを解任することもできます(民法第846条等)。



3. 任意後見契約の特徴
(1)要式行為
 任意後見契約は、法務省令で定める一定の様式に従って、公正証書によって行う要式契約です(任意後見契約に関する法律第3条)。さらに、任意後見契約は、公証人の嘱託によって、登記されます。


(2)委任事項の定め方
 委任事項の定め方については、法務省令に規定される第1号様式又は第2号様式を用いることとされています。

 第1号様式とは、予め列挙された委任事項にチェックを入れる方式です。以下のようなものです。

(第1号様式)
A 財産の権利・保存・処分等に関する事項
 A1□ 甲に帰属する別紙「財産目録」記載の財産及び本契約後に帰属する財産(預貯金〔B1・B 2〕を除く)並びにその果実の管理・保存
 A2□ 上記の財産(増加財産を含む)の処分・変更
B 金融機関との取引に関する事項
 B1□ 甲に帰属する別紙「預貯金目録」記載の預貯金に関する取引(預貯金の管理、振込依頼、払い戻し、口座変更・解除等。以下同じ)
(以下略)

 第2号様式は、自由記載方式です。例えば、以下のような包括的な定め方がなされます。

(第2号様式)
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項
2 金融機関、郵便局、証券会社及び保険会社とのすべての取引に関する事項
  (以下略)

 実務上は、第1号様式よりは、第2号様式が用いられることが多いようです。その理由は、代理権の範囲に関して漏れの無いように記載するためと考えられます。このようにすると、法定後見の後見類型に近い範囲の代理権を、任意後見契約で定めることになります。



4. 問題点
 任意後見契約を締結しても、それがすぐに発効するとは限らないため、任意後見制度の問題点については、まだ顕在化していないようです。しかし、この制度に濫用の危険はないのでしょうか?

(1)家庭裁判所の監督の問題
 上記2(3)で述べたように、家庭裁判所の任意後見人に対する監督は、間接的なものに過ぎません。家庭裁判所の直接的な監督機能は、監督人選任審判においてのみ発揮される(任意後見人に不適格な事由があれば、家庭裁判所は、監督人選任審判を却下することが出来ます。)に過ぎません。任意後見人に不正行為があっても、家庭裁判所がそれを発見する能力を持たず、職権で解任することもできないのでは、監督機能として十分と言えるでしょうか?
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(2)包括的代理権を与える契約の問題
 上記3(2)で述べたように、任意後見契約によって任意後見人に対して、広範で包括的な代理権を与えることが出来ます。任意後見契約締結時点では、本人に不十分であっても判断能力が備わっているのですから、契約を締結する能力自体に問題があるわけではありません。しかし、そんな「なんでも代理権」を他人に容易に与えてしまう契約を締結することの結果を、本人は本当に理解しているのでしょうか?

 任意後見契約を、公正証書という方式によって締結しなければならないとしたことの趣旨は、公証人に一定の監視機能を持たせることにあります。そのため、公証人は、本人に任意後見契約締結の意思があるのかを、一定の書類を提出させるとともに、直接面接して確認しなければなりません。しかし、そのことだけで、本人が契約の結果を理解しているということが本当に担保されるのでしょうか?



5. 法定後見制度との適切な使い分け
 私見は、任意後見制度のような監督機能の不十分な制度のもとで、任意後見人が広範で包括的な代理権を持つべきではないというものです。

 任意後見契約の発効条件たる監督人選任審判は、本人の事理弁識能力が「不十分な状況にあるとき」(任意後見契約に関する法律第4条1項)に行われます。これは、法定後見制度の補助類型の審判要件と同等です。しかし、補助人には、特に審判によって付与される同意・取消権及び代理権という限定された権限しかありません(民法第17条、同法第876条の9)。この差は、合理的と言えるでしょうか?

 確かに、財産の管理を、自身が信頼する第三者に任せたいという要求に対して、法定後見制度では応えることが出来ません。そこに、任意後見制度が存在する意味があるのです。しかしこの制度は、濫用の危険に対して十分な対策を欠いているように思えてなりません。

 任意後見制度を安全に運用したいのであれば、委任事項を必要な範囲に限定し、その範囲で十分な後見事務が行えなくなったときには、速やかに法定後見制度へ移行させるような措置を講ずる等すべきでしょう。はたして、そのような運用が期待できるのでしょうか?
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posted by 司法書士 前田 at 09:22| Comment(0) | 成年後見

2014年12月29日

後見制度支援信託について

 今回は、後見人の誤った財産管理によって被後見人に生じる損害を防止するために、平成24年2月から導入された「後見制度支援信託」について整理してみましょう。(本稿では、未成年後見についての説明は割愛します。)
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1. なぜ必要か?
 成年後見開始審判があると、認知症等の精神上の障害によって事理弁識能力(自らの法律行為の結果が自分にとって有利・不利になるのかを判断できる程度の能力)を失ってしまった本人(以下、「成年被後見人」という。)のために、家庭裁判所によって選任された法定代理人(以下、「成年後見人」という。)が財産管理及び身上監護を行います。

 成年後見人は、他人である成年被後見人の財産を管理するのですから、厳格な規律のもとに職務を行われなければなりません。誤った財産管理は、下手をすれば背任や横領といった犯罪に該当することもあるからです。このため、成年後見人は、報告義務や選解任権等を通して家庭裁判所の監督に服さなければなりません。

 しかし、いくら家庭裁判所が監督しているとは言っても、子や配偶者等の親族が成年後見人となっている場合(以下、「親族後見人」という。)に、他人の財産を管理するという意識が希薄であることから、誤った財産管理が行われるケースが後を絶ちません。

 他方で、成年被後見人が残存能力を活用して住み慣れた環境の中で暮らしていけることを目標とする成年後見制度の趣旨からすれば、従前から成年被後見人の生活全般にわたって面倒を見てきた親族が、そのまま成年後見人に就任するのが最適だといえる事案は多いと考えられます。

 そこで、親族後見人選任の必要性と、親族後見人による財産管理の適正化とを実現するための手段の一つとして考案されたのが後見制度支援信託なのです。



2. どのような制度か?
(1) 利用できる後見類型
 後見制度支援信託を利用できるのは、成年後見(狭義)と未成年後見です。成年後見制度の中でも、保佐類型や補助類型においては後見制度支援信託を利用することは出来ません。


(2) 制度の概略
 後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち、日常必要とする範囲の金銭だけを親族後見人に管理させ、残りの金銭を信託銀行等に信託するという仕組みです。

 信託対象となる財産は、金銭(換価容易な有価証券等は換価したうえで信託する。)に限られます。なぜなら、金銭(又は換価容易な有価証券等)は、濫用される危険が最も大きいからです。

 仮に、被後見人のために日常的な必要費を超える想定外の支出等の必要が生じた場合には、その都度、後見人が家庭裁判所に対して指示書の発行を求め、この指示書に従った財産管理(例えば、信託財産の一部の払い戻し等)を行わなければなりません。つまり、後見制度支援信託とは、大きな金銭を動かす必要がある場合等に、その都度、家庭裁判所の監督機能を働かせる制度だということができます。

 ちなみに、信託とは、財産管理の方法の一つです。信託を設定するためには、(@)一定の財産が受託者に帰属すること、そして(A)受託者が、一定の目的に従って、受託した財産を管理・処分し、目的達成に必要な行為をする義務を負うこと、を定める必要があります。ここでは、被後見人(「受益者」という。)のために使用することを定めて、金銭を信託銀行(「受託者」という。)に預けることだという程度の理解をしておけばよいでしょう。

 信託という枠組みが利用される理由は、信託財産の保全のためです。すなわち、信託財産は、受託者の固有財産とは分別管理され、受託者の債権者から保護されていますし、万一受託者が破産しても破産財団に組み入れられることもありません。また、信託財産は、利用目的を限定されていることから、後見人が自由に処分することもできません。


(3) 利用方法
 後見制度支援信託において、信託銀行と信託契約を行うのは、弁護士や司法書士等の「専門職後見人」でなければなりません。このため、後見開始審判の際に親族後見人を付すことが予定されている場合、家庭裁判所は、親族後見人とともに専門職後見人を選任する等の必要があります。

 後見制度支援信託を利用しようとする際には、まず、専門職後見人は、被後見人の生活・財産状況を踏まえて、いくらの金銭を日常必要な生活資金とし、いくらの金銭を信託すべきかを家庭裁判所に対して報告します。

 次に、家庭裁判所は、専門職後見人の報告をもとに、信託契約締結のための指示書を発行します。

 そして、専門職後見人は、この指示書に従って、信託銀行と信託契約を締結します。締結後に、専門職後見人は、後見人を辞任し、後見事務を親族後見人に引き継ぎます。
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 本稿は、親族後見人の財産管理権の濫用防止のための方法の一つとして、後見制度支援信託を解説しています。これは、親族後見人による財産管理権の濫用事例が多数発生しているためです。ただ、誤解しないでいただきたいのですが、私は、専門職後見人の財産管理について問題がないと言っているわけではありません。他人の財産を管理する以上、専門職後見人にも、親族後見人の場合と同じように濫用の危険が当然存在するからです。しかし、この点に関しては後稿に譲りたいと思います。


 今回も、長い文章を読んでいただいて、ありがとうございます。皆様の忌憚のないご意見をお寄せ下さい。
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posted by 司法書士 前田 at 19:06| Comment(0) | 成年後見