2018年05月26日

不動産売買と税金について

不動産売買は、税務当局にとっては絶好の課税機会です。しかし、高い税金を取られるかも知れないというのに、売買当事者の中には、税金に関して無頓着な人が多いように思われます。

そこで、今回は、不動産売買に関する税金及び軽減等の制度について概観してみましょう。
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1 売主に関わる税金
(1) 譲渡所得税(復興所得税、住民税)

不動産売買から生じた所得(=譲渡所得)に対しては、国税である所得税及び復興所得税、並びに市・県民税である住民税が課税されます。これらは、確定申告の方法によって納税します。

納税額を知るためには、まず、次の計算式によって、課税標準となる「譲渡所得金額」を計算します。

「譲渡所得金額=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額」

ここで、「譲渡価額」とは、買主から受け取る売買代金のことです。

「取得費」とは、当該不動産を購入・建築等した代金・費用や仲介手数料等のことです。建物についての取得費は、減価償却分を差し引いて算出します。

当該不動産を取得したのが大昔のことで取得費がわからないというような場合でも、収入金額の5%相当を取得費とみなして計算します。例えば、取得費不明の土地建物を1000万円で売却した場合、その5%である50万円を取得費とすればよいということです。

次に「譲渡費用」とは、仲介手数料、契約書印紙代(下記3)等、不動産売却のために直接かかった費用のことです。

「特別控除」の代表例は、マイホーム売却の場合の3000万円の特別控除です。つまり、マイホームを売却する場合には、大雑把に言えば、3000万円くらいまでの儲けに対しては、所得税がかからないようになっているわけです。その他にも、対象不動産の性質や売却事情等によって、特別控除額が定められています。

不動産譲渡所得に対する税金は、「分離課税」の方式で計算します。この意味するところは、他の所得(例えば、給与所得)と損益通算することができず、税率も別途に定められているということです。

税率は、譲渡年の1月1日時点で所有期間が5年を超える(=長期所有)か否か(=短期所有)によって異なります。

5年超長期所有の場合の税率は15.315%、5年以下短期所有の場合のそれは30.630%です(それぞれ復興所得税分を含む)。さらに、住民税として、長期所有なら5%、短期所有なら9%の税率で計算した税金を納税しなければなりません。これらの税率を、譲渡所得金額に乗ずれば、譲渡所得税及び住民税が算出できます。

以上の説明から、マイホーム売却の場合には特別控除の額が大きいため、課税対象になるような譲渡所得が生ずるようなことは少ないと言えます。また、80年代に極端な地価上昇を始める前の時期に割安で取得した土地や、取得額すら分からなくなってしまった土地を売却する場合を除けば、課税対象になるような譲渡所得が生ずることは少ないと言うこともできます。さらに、投資目的不動産の売却のような場合を除けば、仮に儲けが出ても、高い方の税率(短期譲渡所得の税率合計39.63%)が適用されることはないと言うこともできます。

これをまとめると、譲渡所得税に気をつけるべき売買取引とは、次のどれかに当てはまるような場合ということです。

・非マイホーム不動産の売却である。
・売却する不動産の取得年がとても古い。
・短期の転売である。


(2) 軽減等の特例
まず、マイホーム不動産の売却については、譲渡年の1月1日時点で所有期間が10年を超える場合には、上記の長期所有不動産の譲渡所得税率よりも更に軽減された税率が適用されます。ただし、この制度が適用されるような売買取引というのは、とても稀でしょうが。

また、マイホームの買い換えについては、売却だけではなくてその次の購入までを一連の課税対象行為としてみなければ不公平を生ずることから、課税繰延べの制度が設けられています。これも、適用可能な事例は限られるでしょう。

これら特例について、本稿では詳細に立ち入ることはしません。詳しく知りたい方は、国税庁タックスアンサー等で確認してください。



2 買主に関わる税金
(1) 登録免許税

購入した不動産の権利を第三者に対抗できるようにするためには、これを登記によって公示する必要があります。登記をするための国税を登録免許税と呼び、登記申請と同時に法務局(=登記所)を通じて納税します。

売買にかかる登録免許税の課税標準となるのは、固定資産の評価額です。売買価額は関係ありません。この税率は2%です。ただし、土地については、当分の間1.5%に軽減されています。

例えば、固定資産の評価額1000万円の土地と同500万円の建物を代金3000万円(登録免許税計算には無関係)で買った場合、登録免許税は、次の計算によって求められます。

「登録免許税=土地評価額×1.5%+建物評価額×2%
=1000万円×1.5%+500万円×2%=25万円」

登録免許税は、法文上、登記義務者(=売主)と登記権利者(=買主)とが連帯して納税義務を負うとされています(登録免許税法第3条)。しかし、売買契約によって買主のみが納税義務を負うと修正されていることがほとんどですし、商慣習上も同様に解されています。


(2) 不動産取得税
不動産取得税は、不動産を売買等によって取得した場合に課税される県税です。原則、納税義務者たる買主自ら申告のうえ納税しなければなりません。

しかし、不動産取得税は一般に周知されていないため、これを申告する人はほとんどいません。そこで、ほとんどの県税事務所では、登記記録の異動をもとに納税義務者を特定して、課税通知するという扱いが一般化しています。

不動産取得税の税率は、固定資産評価額(売買価額ではありません)を課税標準として4%です。ただし、当分の間、税率は3%に軽減されています。また、宅地については、課税標準を2分の1とする軽減措置も取られています。

例えば、固定資産の評価額1000万円の土地と同500万円の建物を代金3000万円(不動産取得税計算には無関係)で買った場合、不動産取得税は、次の計算によって求められます。

「不動産取得税=(土地評価額×1/2+建物評価額)×3%
=(1000万円×1/2+500万円)×3%=30万円」


(3) 軽減の特例
登録免許税についても、不動産取得税についても、マイホーム不動産の購入の場合には、一定の要件のもと、軽減の特例制度が用意されています。それぞれ細かい適用要件があるので、本稿では詳細の立ち入ることはしません。


3 その他
(1) 印紙税

上記の他、契約書等の課税文書には、印紙税法にもとづいて所定額の収入印紙を貼付しなければなりません。これは国税です。印紙を貼って消印すれば、納税が完了します。

例えば、代金3000万円の不動産売買の契約書には、1通当たり2万円の印紙を貼付しなければなりません。通常、売買契約においては、合計2通の契約書を用意するので、買主・売主とも各2万円ずつを納税することになるわけです。

さらに、買主がローンを利用して不動産を購入する場合、ローン契約書にも所定額の印紙を貼ります。例えば、3000万円借りる契約であれば、1通当たり2万円分の印紙が必要になります。


(2) 住宅借入金等特別控除(=住宅ローン控除)
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用してマイホームを取得した場合、一定の要件のもと、ローンの年末残高をもとに計算した金額を、居住開始年分以後の各年の所得税額から控除する制度です。細かい適用要件があるので、本稿では詳細の立ち入ることはしませんが、特にサラリーマン(=給与所得者)がこの制度を利用しようとする場合、申請手続についてよく勉強しておいた方が良いと思います。

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posted by 司法書士 前田 at 12:29| Comment(0) | 登記業務

2018年05月24日

「妻(又は夫)に内緒で債務を整理できますか?」(債務整理の方針について)

多重債務について相談を受けていると、よく聞かれる質問があります。それは、「妻(又は夫)に内緒で債務を整理できますか?」というものです。

この質問に対して、私は「配偶者に内緒でするような債務整理の依頼は受けません。」と回答します。以下は、その理由です。
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1 「内緒で債務整理」=「内緒で借金」
債務整理というのは、債務者の経済的更生を目的として行うものです。生活が立ち行かなくなるほど膨らんでしまった債務を一旦リセットすることによって、生活を再建するための手続だということです。

ところが、配偶者に内緒で債務整理したいと考える人は、配偶者に内緒で借金をしたために、その処理も内緒にしておこうと考えているわけです。そんな人は、配偶者にバレさえしなければ、同じことを繰り返すのでしょう。また、生活再建のためには、配偶者の協力は不可欠です。

つまり、配偶者に内緒で債務整理しても、債務整理の目的は達成できない、無駄ということです。



2 「財布が一緒」の関係
もちろん、夫婦であっても、原則として財産は個人に帰属(例外:民法第762条第2項「夫婦共有財産」)し、債務も個人が負担します(例外:民法第761条「日常家事債務」)。したがって、例外的な場合を除けば、夫(又は妻)の債務を妻(又は夫)が返済する義務はないし、夫(又は妻)の債権者が妻(又は夫)の財産を差し押さえることもありません。

ということは、配偶者に内緒で債務整理することについて、法的には問題ないということです。

しかし、夫婦は、実質的に「財布が一緒」という関係にあります。この意味は、夫婦の一方の収支だけを見て赤字か黒字かを判断することができないということです。また、一方が債務超過に陥った原因も、その人だけにあるとは言えないということでもあります。

例えば、妻が、生活費の不足をやりくりするために、キャッシングを繰り返したりクレジットのリボ払いをしたりしているうちに債務が返済できないほど膨らんでしまったという場合、その債務は、妻の衣食住だけを満たしたのではないでしょう。つまり、極端な例を除けば、配偶者の一方が、他方の債務について全く関与なしということはないのです。

よって、配偶者に内緒で債務整理するということは、債務の実態及び原因から目をそらすのと同じです。

私は、現実に向き合おうとしない人に生活を再建できるとは思いません。



3 債務整理の方法
債務整理には、主に、任意整理、再生及び破産という三つの方法があります。

任意整理というのは、いわゆる「リスケ」のことです。一括では返済ができない規模の債務について、実現可能な分割払いの計画を立てて、債権者ごとにこの計画に対して私的な合意を取り付けることです。

これは、支払不能に至らない程度の「軽症の」債務の場合に妥当な方法です。そして、任意整理できるのであれば、例外的に、配偶者に内緒にしておいても構わないかもしれません。というのも、任意整理においては、債務者自身が責任を果たす(=債務を完済する)と言っているわけですから。

しかし、「軽症な」債務整理の事案は非常に稀です。多くの多重債務者は、「手遅れ」になってからでないと専門家のもとを訪れて来ないのです。

「手遅れ」の人にとっての債務整理は、破産か再生の方法くらいしかありません。これらは、裁判所を利用した債務整理の方法(=法的整理)です。法的整理によって、合法的に債務の全部又は大部分を踏み倒すのです。

法的整理を受任した専門家にとっては、手続きを迅速に遂行することは、依頼者に対する義務であるとともに、債権者に対する義務でもあります。したがって、ここでは、債務を踏み倒そうとする依頼者の希望ばかりを優先して、手続きを遅延することは許されないのです。

さらに、申立債務者に同居の家族がいる場合、法的整理の過程でその家族の協力が不可欠であるような事態が多々生じます。つまり、配偶者に内緒では、法的整理の障害になってしまうのです。



Q「妻(又は夫)に内緒で債務を整理できますか?」

A「私は、そんな債務整理の依頼は受けません。私は、手続遅延の恐れがあるような条件付きの依頼を受けるほど無責任ではありません。」



posted by 司法書士 前田 at 18:31| Comment(0) | 金銭トラブル

2018年05月21日

遺産処分に関する遺言の定めと遺産分割の要否について

「遺言書があるから遺産分割が不要である。」とか、「遺言書を無視して自由に遺産分割することができる。」とか、極端な誤解をしている人が多いように思われます。このような誤解が生じるのは、遺産処分に関する遺言の規定方法が分かりにくいからかも知れません。

そこで、今回は、遺産処分に関する遺言の定め方と遺産分割の要否というテーマについて考えてみることにしましょう。
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1 遺産に関する遺言の定めの方法
遺産の分配に関連して遺言で定める方法の主なものは、次の@〜Cです。これらの他に、遺産分割禁止(民法第908条)、特別受益払戻免除(民法第903条第3項)等も、遺産の分配に関連しないわけではありませんが、本稿テーマとの関連が薄いので省略します。

@ 相続分の指定
A 遺産分割方法の指定
B 包括遺贈
C 特定遺贈

まず、@「相続分の指定」とは、民法第900条に規定する遺産に関する共同相続人の割合的権利(=法定相続分)の原則を修正することを言います(民法第902条)。例えば、Xの推定相続人が、妻A、子B及び子Cであるという場合を考えてみましょう。このとき、A、B及びCの法定相続分は、それぞれ2分の1、4分の1、4分の1となるでしょう。しかし、Xが遺言で、「A及びBの相続分を各2分の1とする。」と定めることもできます。このように、遺言者の意思によって相続分を修正することが相続分の指定です。

次に、A「遺産分割方法の指定」とは、現物分割、換価分割、代償分割等の、文字通り分割方法に関する定めのことです(民法第908条)。例えば、遺言で「不動産と株式を売却して、その代金を分けよ。」という定めをすれば、換価分割という遺産分割方法を指定したことになるというわけです。

さらに、遺言によって、「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができ」ます(民法第964条)。このような遺産の処分についての遺言の定めを「遺贈」と呼びます。遺贈には、B「包括遺贈」とC「特定遺贈」という二つの種類があります。

包括遺贈は、遺産の全部又はその割合的持分を譲渡する旨の定めのことです。例えば、「遺産の2分の1をDに与える。」とか、「遺産の全てをDに与える。」とか定めれば、包括遺贈を定めたことになります。

遺贈を受ける者(=受遺者)は、相続人以外の第三者に限られるわけではないので、相続人に対して包括遺贈しても構いません。ただし、相続人に包括遺贈する場合には、結局、相続分の指定をしたのと効果の点で差がないことになるでしょう。

これに対し、特定遺贈は、遺産中の特定の財産又は種類によって指定された財産を譲渡する旨の定めをすることです。例えば、「甲不動産をDに与える。」とか、「1000万円分の預金債権をDに与える。」とか定めれば、特定遺贈を定めたことになります。

特定遺贈においても、受遺者は相続人以外の第三者に限られるわけではないので、相続人に対して特定遺贈することもできます。



2 遺産分割の要否
(1) 指定相続分と異なる遺産分割
相続分の指定をした遺言があるからと言って、それだけで遺産を構成する個々の財産の帰属が確定するわけではありません。このことは、遺言による相続分の指定がなく、法定相続分を基準として相続手続をする場合と全く同じです。したがって、相続分の指定がされた場合、原則として遺産分割が必要です。

遺産分割の結果、たとえ個々の財産の金銭的価値にもとづく具体的な分割割合と指定相続分とが異なってしまったとしても、それは問題ではありません。例えば、相続人E及び相続人Fに対して遺言によって相続分がそれぞれ4分の3及び4分の1と指定されていた場合であっても、実際に相続が発生した後に、EとFとの協議によって、Eが遺産たる乙不動産を単独で取得すると決めてしまっても構わないということです。

つまり、相続分は、指定であれ法定であれ、遺産分割の基準の一つに過ぎないわけです。そして、この基準は、共同相続人間の協議によるのであれば、必ずしも絶対的なものとして考える必要はないということです。ただし、共同相続人間に争いがあって、家庭裁判所に持ち込まれるような遺産分割事件においては、相続分が遺産分割のための基準として重視されるでしょう。

例外として、一人の相続人に相続分1分の1を指定した場合等、遺産分割が行われないこともあります。


(2) 遺産分割方法指定と「相続させる」遺言
遺産分割方法の指定をした遺言があるからと言って、それだけで遺産を構成する個々の財産の帰属が確定するわけではありません。例えば、遺産たる「丙不動産を換価して分けよ。」のように指定してあっても、共同相続人間への具体的な換価金の分配について明らかにはなりません。したがって、この場合でも、原則として遺産分割が必要です。

ところが、遺産分割方法の指定に関しては、混乱を招くような事情があります。

公証実務において、長らく、主に不動産登記手続に関する理由(単独申請形式を利用し、登録免許税を節約するという理由)から、共同相続人に対して特定財産を「相続させる」という文言を用いた遺言を作成する扱いが一般化していました。例えば、「相続人Gに丙不動産を相続させる。」というものです。

判例(最判平成3年4月19日)は、次のように述べて、このような扱いを追認し、その法的性質及び効果を明らかにしています。

「遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合・・遺言者の意思は・・当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。・・民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。」

つまり、判例によれば、特定の財産を「相続させる」遺言は、遺産分割方法の指定を定めたものであり、原則として相続開始(=遺言者の死亡)と同時に当該財産の承継の効果が発生し、遺産分割の余地はないということです。

この判例に対しては、「相続させる」遺言を遺贈の趣旨と解すべきであるという立場からの有力な批判がありますが、本稿ではこれ以上述べません。


(3) 包括遺贈と遺産分割
包括遺贈を受けた者(=受遺者)は、相続人と同一の権利義務を取得します(民法第990条)。よって、遺産に属する個々の財産についての帰属関係を確定させるためには、原則として、受遺者と相続人との間で遺産分割を行う必要があります。ただし、単独の受遺者に遺産の全てを包括遺贈した場合、遺産分割を行う余地はありません。

また、包括受遺者が、相続放棄(民法第990条、第938条等)によって、相続人としての権利義務を放棄することもあります。この場合には、放棄した受遺者を除いて遺産分割が行われます。


(4) 特定遺贈と遺産分割
特定遺贈が行われた場合には、原則として相続開始とともに財産承継の効力が生ずるので(民法第985条)、遺産分割の余地はありません。

特定受遺者は、「遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができ」ます(民法第986条第1項)。したがって、特定遺贈が放棄された場合には、当該財産について、共同相続人間での遺産分割が必要となります。ただし、ここでいう放棄は、民法第938条の方式(=家庭裁判所への申述)ではなくて、相続人に対する単なる意思表示によって行えばよいと解されています。



タグ:法律のなぜ
posted by 司法書士 前田 at 16:28| Comment(0) | 相続・遺言

2018年05月18日

デジタル腕時計で行こう!(電池交換手順等いろいろ)


1 スプーンがやって来た!
最近急にデジタル腕時計が欲しくなって探していたら、ジャンク(故障品)という「スプーン」(SEIKO ALBA SPOON INGOT W620-4140)に目が留まりました。

1982年、中学校に入学した私が、叔父さんからもらった人生初の腕時計も、ALBAのデジタル腕時計でした。そこで、なにやらこのスプーンに縁を感じ、故障していることを知りながら、手に入れてしまいました。

スプーンは、1995年に発売されるや1年で100万本を売り上げる大ヒットを記録したという有名な腕時計です。そういえば、当時、街中にはスプーンをはめた若者がウジャウジャいたものです。デザインが最初から完成され過ぎていたためか、シリーズが続かず、流行も短命に終わってしまいました。その後、一時期、SEIKO WIRED (ALBAの後継ブランド)から、スプーンが復刻されましたが、あまり大きな話題にはならなかったみたいです。
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今回、私の手に入れたスプーンは、普及型(プラスチック製)ではなく、総ステンレス製の高級バージョンです。
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時計の状態は、一見すると、新品に近い美しさ。わずかな傷があるくらいで、日常的な使用の形跡がありません。

ところが、外見とは裏腹に、前オーナーが電池を入れたばかりという割には、液晶の時刻表示が薄く、絶えず点滅を繰り返しています。さらに、バックライトも点灯しません。これは、本当に、ジャンクなのでしょうか?


2 電池を入れ直してみる
動作不良の原因について手掛かりを得るために、とりあえず、正しい手順で電池を入れ直してみることにしました。

まず、邪魔なブレスレットを外します。
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このタイプの裏ブタは、ケースと蓋の間にナイフの刃先を入れてこじ開けます。よく見ないと分かりづらいですが、裏ブタの一か所にわずかな隙間が作ってあります。刃先を入れるのはそこです。
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フタが開きました。
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電池を押さえているバネを外せば、電池が取り外せます。指紋等をつけないように、ピンセット等を使って作業します。ただし、ピンセットでボタン電池を扱うときは、電池の側面をつかむように注意しましょう。+極と−極をつかんでしまうと、電池がショートして液漏れの原因になることがあるからです。
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デジタル腕時計のほとんどは、電池交換したら「リセット」が必要です。リセット方法の主流は、AC(All Clear リセットという意味)と記載された端子(ドライバーの先の〇印)と電池の+極をショート(導通)させるというものです。機種によって若干やり方が異なります。
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金属製のピンセットを使ってリセットを行います。うまくリセットされると、液晶表示が初期値に戻ります。このスプーンの場合、「1-1 94 12:00」が表示されました。リセット完了です。
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裏ブタを元通りに戻して、正しい手順での電池の入れ直しが完了しました。ちなみに、防水のためのOリング(=パッキン)にはシリコングリスを薄く塗布してあります。




2 動作不良の原因は
電池を正しい方法で入れ直して、正常動作を回復・・・とはいきませんでした。相変わらず、液晶表示は点滅していますし、バックライトも点灯しません。

点いた!
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消えた!
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しかし、そんな状態でも時間を確認する程度に使用することはできるため、しばらくそのまま使いながら動作状況を観察してみることにしました。その結果、大事なことが分かりました。

それは、03:00〜05:59に時刻表示が点滅して、06:00〜06:59に正常動作に戻り、07:00〜09:59にまた時刻表示が点滅し、10:00〜10:59に正常動作に戻り・・というパターンを繰り返しているということです。

故障している時計にしては、このパターンは律儀すぎます。そこで、この液晶点滅は、故障ではなくて、電池残量警告機能なのではないかという疑いが湧いてきました。

この疑いを確認するため、バックライトのスイッチをしばらく押しっぱなしにしてみました。すると、バックライトはもちろん点灯しませんが、液晶表示まで薄くなって消えてしまうことが分かりました。これは、電圧が低すぎることを示しています。間違いなく、電池の残量不足です。

結局、新しい電池を買ってきて、交換しました。
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その結果、液晶の点滅はなくなり、ELバックライトも点灯するようになりました。その他、全ての機能が正常に動作します。めでたし、めでたし。
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3 その他
上のことから、このスプーンには、電池残量不足警告機能が備わっているということが分かりました。充電式の時計(ソーラーやキネティクス)には残量警告機能がついているものが多いですが、普通の電池式の腕時計にそんな機能がついているのですね。

さらにいろいろとスプーンをいじっていると、リセットが、上で紹介した方法だけではないということも分かりました。このスプーンの場合、側面の4つのボタンを同時に長押しするとリセットされるようになっています。

また、(1)時刻・日付・曜日、(2)クロノグラフ、(3)ペースカウンター、(4)カウントダウンタイマー、(5)アラームの各モードがあることや、その使用方法も知ることができました。さすがデジタル時計、機能豊富です。

ところで、上の写真の一枚に、撮影後、間違いがあることに気づきました。次の写真の←印の先には小さなスプリングがありますが、本来このスプリングは、左隣の穴(〇印)に収まるべきものです。誰も気づかないでしょうが、一応・・。
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このスプーンは、これから末永く活躍してくれることでしょう。




タグ:おしゃれ
posted by 司法書士 前田 at 12:07| Comment(0) | 日記

2018年05月17日

「遺産共有」という概念について

相続が開始してから遺産分割によって最終的な帰属が確定するまでの間の遺産(相続財産)に関する共同相続人間の権利関係を、「遺産共有」という概念で表現することがあります。遺産共有は、財産法上の「共有」(民法第3章第3節)、「準共有」(民法第246条)及び「多数当事者間の債権関係」(民法第3編第1章第3節)との区別を明らかにするための概念です。

遺産共有は、その法的性質について争いがあり、分かりにくい概念だと思います。そこで、今回は、遺産共有について基本的な考え方を整理してみましょう。
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1 遺産共有の二つの性質
共同相続人の一人は、遺産の分割前に、その「相続分」を第三者に譲渡することができます(民法第905条第1項参照)。

ここで、「相続分」というのは、各相続人が遺産共有している割合的権利のことです。相続分には、法律によって相続人の身分に応じて定められる法定相続分(民法第900条)と遺言によって定められる指定相続分(民法第902条)とがあります。

まず、相続分には、遺産を構成する個々の財産に対する共有権であるという性質があります。ただし、ここ(遺産分割が成立する前の段階)での共有権は、暫定的なものに過ぎません。さらに、相続分には、相続人の地位という身分権としての性質もあります。

例えば、相続分を同じく(各2分の1)する共同相続人AとBがいたところ、Aが第三者Cに対してその相続分全部を譲渡したという場面を考えてみます。この場合、Cは、遺産中の個々の財産に対する持分2分の1の暫定的な共有権を得るとともに、Bとの間で遺産分割協議することのできる身分を取得するわけです。



2 遺産共有されている財産の処分
(1) 処分の可否
相続開始から遺産分割成立までの間に長い期間を要したり、遺産分割が行われないまま更に重ねて(=数次に)相続が開始したりすることは珍しいことではありません。このようになってくると、本来暫定的な遺産共有の状態のまま、一部の共同相続人が、遺産を構成する個別財産の共有権を第三者に対して譲渡することも起こります。しかし、そもそも、最終的な帰属が確定していない財産を処分するということが可能なのでしょうか?

この問題に対しては、民法第909条が遺産分割の遡及効を制限する規定を置いている(「ただし、第三者の権利を害することはできない。」)ことから、処分の結果として第三者が生ずることは織り込み済みであると解されています。つまり、遺産共有の状態でも個々の財産の共有権を処分することは可能であるということです(通説)。したがって、遺産分割を経ずとも、遺産を構成する個々の財産(の共有権)の帰属が、一部の共同相続人の処分行為によって確定してしまうことがあるわけです。


(2) 第三者対抗要件の要否
遺産を構成する個別財産の共有権を処分することが可能であるとして、処分の当事者でない共同相続人は、第三者に対して処分対象財産についての共有権を、対抗要件なしに主張することはできるでしょうか?遺産共有の状態で、共同相続人が個々の財産について対抗要件(民法第177条、第178条、第467条等)を備えていることは稀であることから、対抗要件を要するとすれば、共同相続人の保護に欠けることになってしまうでしょう。

例えば、相続分を同じく(各2分の1)する共同相続人AとBがいたところ、Aが遺産中の甲不動産について、偽造の遺産分割協議書によってAが単独相続した旨の所有権移転登記を経由した後、第三者Cに対して甲不動産を譲渡したという場面を考えてみます。このとき、Bは、Cに対して、自らの甲不動産に対する持分2分の1の共有権を登記なしに対抗できるでしょうか?

判例(最判昭和38年2月22日)は、上のような事例において、共同相続人Bは、登記なくして自己の法定相続分に応じた甲不動産の共有権を第三者Cに対抗することができると判断しました。その理由としては、AはもともとBの持分については全くの無権利であるから、甲不動産を譲渡したとしても、登記に公信力のない日本の制度のもとでは、CがBの持分まで取得することはないというものです。

さらに、同じ理由で、遺言による相続分の指定がされていた事案においても、共同相続人は、登記なくして自己の指定相続分に応じた不動産の共有権を第三者に対抗することができるとされています(最判平成5年7月19日)。

共同相続人と第三者との利益衡量の観点や、遺贈の場合に対抗要件が必要であると解されている(通説)こととの衡平から、後者の判例に対しては有力な批判がありますが、本稿ではこれ以上述べません。



3 遺産分割か?共有物分割か?
遺産共有の状態を解消して、遺産を構成する個々の財産の帰属を定めるためには、遺産分割をおこなう必要があります。遺産分割は、共同相続人(及び相続分譲受人)全員によって協議することが原則です(民法第906条)。

しかし、協議が調わないとき、又は協議をすることができないは、共同相続人の一部から他の共同相続人全員を相手として、家庭裁判所に対して遺産分割を申し立てることができます(民法第907条第2項)。家庭裁判所での遺産分割は、審判(裁判所の決定)又は調停(裁判所での当事者の和解)という家事事件手続によります。

これに対して、所有権についての共有関係を解消する方法は、「共有物分割請求」によります(民法第256条)。単独での所有権が強く保護されているのに、共有権が私人の請求によって奪われてしまうような制度が設けられている理由は、共有という状態が不安定かつ不便であり、早期に解消すべきという趣旨であると解されます。

共有物分割請求は、共有者の一部から他の共有者全員を相手方として行います。これも原則は協議によります(民法第256条第1項)が、共有者間に協議が整わないときは、通常裁判所に対して共有物分割請求訴訟を提起することができます(民法第258条第1項)。また、所有権の共有物分割に関する規定は、所有権以外の財産権の共有(=準共有)についても準用されています(民法第264条)。

両手続が大きく違うのは、裁判の形式(決定か判決か)とその効果(既判力の有無等)です。判例によれば、遺産共有の解消は、家庭裁判所が審判によって財産の分割を定めるべきであり、通常裁判所がこれを定めてはならないとされます(最判昭和62年9月4日)。また、上記2(2)で挙げた例のように、遺産中の個別財産について第三者が生じた場合、当該財産についての共有関係の解消は、通常裁判所が判決によって決すべきことであるとされ(最判平成25年11月29日)、両手続が厳密に区別されていることが分かります。

しかし、共有物分割は、訴訟によると言っても、実体法上に法律効果(=共有物の分割)を発生させるための要件事実の具体的な定めがありません。そして、このような裁判(=形式的形成訴訟)の場合、裁判所の後見的裁量が強く要請されます。したがって、共有物分割訴訟のうえで争点となる事項も、遺産分割の家事事件手続における考慮事項(「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情」民法第906条)と実質的には大きな差がないと考えることもできるでしょう。

また、遺産分割・共有物分割ともに、その分割方法は、現物を物理的に分割(=現物分割)するものであったり、取得者が他の当事者に代償を支払う(=代償分割・価格賠償)ものであったり、対象物の換価金を分ける(=換価分割)ものであったりと、柔軟な方法を採ることができます。




4 債権と債務について
かつて判例は、遺産たる債権については、債権法の規定が当然に適用され「多数当事者間の債権関係」として処理されるので、遺産共有という相続法の問題にはならないと考えていました。即ち、債権の目的たる給付が不可分の場合には民法第428条(不可分債権)に従って権利関係を処理すべきだし、可分債権の場合ならば民法第427条により当然に相続分に従って分割承継されるということです。したがって、遺産たる債権については、遺産共有という状態は生じないし、故に遺産分割の必要もないということになっていました(最判昭和29年4月8日等)。

しかし、上の判例のような考え方では、共同相続人間の利益調整を図るために不便であることが従来から指摘されていました。むしろ、債権を含む遺産全体を遺産分割の対象として考え、利益調整のために(お釣りとして)債権を用いることが通常の相続人間の公平と便宜に適うという批判です。そこで、実務上、債権を分割対象に含めた遺産分割協議が行われることが一般化していました。さらに、家事事件手続による遺産分割においても、相続人間の明示又は黙示による合意によって、債権を分割対象に含めることが一般化していました。

近時、このような批判に応える形で預貯金債権について判例変更が行われ、共同相続された預貯金債権が相続分に従って当然に分割されることはなく、遺産分割の対象になるとされるようになりました(最判平成28年12月19日、最判平成29年4月6日)。その他、判例上、当然に分割承継の対象とはならないと判断された債権には、定額貯金債権、投資信託受益権、国債等があります。

一方、相続債務に関しては、遺産共有の関係は生じないというのが一般的な理解のようです。即ち、不可分債務については民法第430条を適用し、可分債務は民法第427条により法定相続分に従って当然に分割承継されるということです(可分債務について、大決昭和5年12月4日)。このように解される理由は、共同相続人が協議によって一方的に債務の承継者を定めてしまうのだとすれば、相続という偶然によって債権者を著しく害してしまうからです。

もちろん、債権者の合意のもとに、法定相続分と異なる割合で、特定の相続人が債務を承継することは一向に構いません。特に事業関連の債務についてそのような処理が行われることがよくあります。
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posted by 司法書士 前田 at 17:49| Comment(0) | 相続・遺言