2018年08月16日

不動産取引におけるエスクローの活用について


不動産取引の一端(私の司法書士業も含め)にでも関われば、そこがいかに内部者の論理に支配された不透明で非合理な場であるかを目の当たりにします。そこでは、本来主役たるべき取引当事者の利益は、蔑ろにされがちです。

そこで今回は、問題だらけの現状への解決策の一つとして、アメリカの不動産取引で広く利用されている「エスクロー」( escrow )という決済の仕組について概観するとともに、日本で同様の仕組を導入する困難についても考えてみることにしましょう。

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1 不動産取引の特徴
不動産取引の一般的特徴は、「赤の他人(売主/買主/金融機関)同士が、唯一無二の個性を持った財産(不動産)をめぐって、高額取引(売買/ローン)を行う。」ということです。この特徴のため、不動産取引には様々な不安が伴います。主なものだけ次に挙げてみました。

ア 相手方当事者は誠実か?(相互の義務履行確保の問題)
イ 仲介者は誠実か?(利益相反の問題)
ウ 対象物件の価値・品質は適正か?(評価、瑕疵修補責任等の問題)

売買契約の当事者は互いに義務を負います。例えば、売主の主な義務は、買主に対して物件を引渡すことです。これに対して、買主の主な義務は、売主に対して代金を支払うことです。しかし、この当たり前の相互の義務履行を確保することには、意外に落し穴が多いものです。例えば、最近有名になった「地面師」という詐欺の手口は、簡単に言えば、売主を装った詐欺師が、物件の所有権を引渡すことなしに、買主から代金だけだまし取ってしまうというものです。相手方をよく知らないということは、それ自体がリスクなのです。

また、不動産取引において赤の他人同士を結び付けるという役割を担っている仲介業者にも問題があります。建前のうえでは、仲介業者は、依頼者であるそれぞれの取引当事者(売主又は買主)の利益の最大化を志向すべき立場です。しかし、取引の重要情報が仲介業者に偏在し容易に操作される現状では、彼らが当事者よりも自己の利益を優先して行動するのは人の性(さが)でしょう。狐に鶏小屋の番をさせるような取引の仕組に問題があるのです。

さらに、これから不動産を購入しようとする素人の(=不動産業界関係者でない)買主にとって、初めて接する物件の価額が適正であるかを見極めることは困難です。判断ための情報は、不足しているか、一方的なものでしかないか、又は入手方法すら分からないか、のどれかでしょう。また、買主には、購入前に物件を主体的に検査( home inspection インスペクション)する機会も事実上ありません。つまり、素人にとって、不動産の購入は、イチかバチかに近いものです。購入後に重大な欠陥が判明した場合、その責任のほとんどは買主に掛かってしまいます。

最後に、購入資金がローンである場合、担保対象の不動産の価値は金融機関にとっても重要であるはずです。しかし、金融機関には不動産の価値を判定するノウハウが大幅に不足しているのが現状です。超低金利の現在、担保価値を逸脱した融資がなされることも珍しくはありませんが、このようなことは非常に不健全です。


アメリカでは、上記のような不安を解消するため、不動産取引において「エスクロー」という決済の仕組が広く利用されています。



2 エスクローとは
(1) エスクローの基本
エスクローとは、簡単に言えば、中立の第三者機関「エスクロー・エージェント」( escrow agent )が当事者の義務履行を監督する決済方法です。エスクローは、不動産取引に限定されるわけではなくて、赤の他人同士(隔地者間)の定型的取引であれば、何にでも利用することができます。取引金額の多寡も関係ありません。

例えば、ヤフー・オークションで用いられる「ヤフーかんたん決済」は、多くの人にとって既にお馴染みのエスクローです。ここでは、ヤフー社(=エスクロー・エージェント)が落札者から入金された代金を一旦留保して、商品の受領を確認した後に出品者に送金するのです。たったこれだけのことで、代金を振り込んだのに商品が送られてこない(逆に、商品を送ったのに代金が振り込まれない)というネット取引の典型的トラブルを防いでいるのです。不動産取引におけるエスクローも、基本は同じです。


(2) 不動産取引におけるエスクロー
まず、売主と買主が締結する売買契約の中身として、次のような諸点が定められます。

ア 物件、当事者、代金価額、手付
イ 決済日
ウ エスクロー利用に関する事項
エ その他条件
  ・ 権利(所有権登録確認、旧担保権・利用権抹消登録確認等)
  ・ 建物等検査(インスペクション)
  ・ 融資に関する事項
  ・ 保険(権利、損害)利用に関する事項

売買契約締結の後、両当事者の依頼を受けたエスクロー・エージェントによって「エスクロー口座」( escrow account )が開設されます。エスクロー口座というのは、一定期間(不動産取引なら通常2カ月)だけ存続する一種の信託口座です。両当事者の義務を保管するための「容器」のようなものと考えると、分かりやすいでしょう。

売主側は、対象不動産の所有権を証明し、旧担保権等を抹消し、建物のインスペクションを受け入れる等の義務があります。

まず、全国統一の登記制度がないアメリカでは、売主の所有権証明のためには、専門の機関による調査( title search )を要します。ここでは、公共機関への所有権の登録履歴や、完全な所有権取得の障害となるような権利がついたままになっていないか等が調査されます。万が一の権利覆滅の危険に備えて、権利保険( title insurance )が利用されることもあります。

次に、売主は、買主のインスペクションを受け入れなければなりません。インスペクションの項目として一般的なのは、基礎、シロアリ、配管等の検査です。ここで重大な瑕疵が発見されれば、決済前に修補責任をどちらが負担するかが交渉されたり、契約が解除されたりします。

また、もし対象不動産が担保に供されているのであれば、売主は、決済までに債権者との間で、担保権抹消の準備を調えておかなければなりません。

一方、買主側は、手付、売買代金や諸手数料を支払う等の義務があります。もし、買主がローンを利用するのであれば、決められた期間のうちに融資を確保する必要が生じます。融資申込みを受けた金融機関の側では、前提として、対象不動産を評価( appraisal )しなければなりません。融資が承認されなければ、売買契約は解除されます。

上記一連の義務履行のための行為は、エスクロー口座に対して順次行われます。エスクロー口座という「容器」を履行された義務で満たしていくというイメージです。エスクロー・エージェントは、当事者の義務が全て果たされた(容器が満杯になった)ことを確認した後に、「決済」を行います。すなわち、売主に対しては売買代金を支払い、買主に対しては所有権登録をし、その他関係者に対してはそれぞれ応じた手続を行い、最後にエスクロー口座を閉鎖( closing of an escrow account )するのです。



3 日本にエスクローを導入する難しさ
日本には、「エスクロー法」なる法律は存在しません。また、エスクローは「為替取引」の一種であるため、これを行うためには銀行業の免許を受けなければなりません(銀行法第第4条第1項)。さらに、一時的に売買代金等を滞留させることも、預金の性質を有するため、銀行以外の者が行うことができません(「出資の受入れ、預り金及び金利の取り締まりに関する法律」第2条等)。

実は、上に挙げたヤフーかんたん決済は、「資金決済に関する法律」(以下、「資金決済法」という。)によって、「資金移動業者」の登録を受けた会社等が例外的に行うことのできる為替取引という位置づけをされています(資金決済法第37条)。ただし、取引額が比較的少額に制限されており、不動産取引には利用できません。また、資金移動業者の倒産から利用者を保護するため、資金移動業者は、十分な履行保証金を供託しなければなりません(資金決済法第43条等)。

では、現行の法律の範囲内で、不動産取引等(取扱金額が大きい取引)にエスクロー(的な仕組)を利用することはできるでしょうか?この疑問に対しては、できるとも、できないとも答えられるでしょう。

エスクローは、一種の信託でもあります。信託について本稿では説明を省略します(「信託とは」http://wakaba-office.biz/column/20141113.html)が、簡略化すれば、資産管理権者である「受託者」を中心として、出資者である「委託者」と資産運用の恩恵を受ける「受益者」という3者が登場する法的枠組のことです。これと同様に、エスクローも、エスクロー・エージェント=受託者を中心とした3者間の信託であると解することができます。現在日本で行われている不動産エスクロー取引は、信託法の枠組を借用したもののようです。

しかし、エスクローを一般化するためには、それを規律する特別の法律が不可欠と考えられます。というのも、通常の信託とは異なり、エスクローにおける当事者は、当然に委託者でも受益者でもあるからです。また、エスクローの目的・期間等も定型的であって、信託のオーダーメード的な仕組とは大きく異なります。一回の取引規模が数十億円にもなるのであればその都度エスクロー的信託契約を締結しても良いのかも知れませんが、一般のマイホーム購入等に利用するには不便でしょう。

他方で、今後、インターネットでの不動産情報の公開が、内部者の予想を超えて進むかもしれません。つまり、赤の他人同士が、ネットの不動産情報を通じて直接(仲介業者抜きで)出会う機会が増えるということです。そうなれば、赤の他人間の高額取引を円滑・安全・適正に進めるきちんとした法的枠組を整備することが急務でしょう。



4 おまけ:日本版インスペクション
(1) インスペクション告知の義務等
本年(2018年)4月、既存住宅(中古住宅)のインスペクション告知の義務等を規定した改正宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という。)が施行されました。この改正は、欧米に比べて既存住宅の流通割合が極端に低い日本の住宅市場の活性化を意図したものです。

主な改正点としては、まず、媒介契約締結時に、仲介業者が、インスペクション業者をあっせんすることの可否を示し、依頼者の意向に応じてあっせんを行うこととされました(宅建業法第34条の2第1項第4号)。次に、売買契約締結前に行われる重要事項説明の際、仲介業者が、インスペクション実施の有無及びその結果を示さなければならないこととされました(宅建業法第35条第1項第6の2号)。さらに、売買契約に際しては、建物の構造耐力上主要な部分(基礎、外壁等)の現況を当事者双方が確認し、仲介業者がそれを書面として交付しなければならないとされました(宅建業法第37条第1項第2の2号)。

要するに、日本版インスペクションは、取引対象となっている建物について「第三者」専門家であるインスペクション業者による品質検査の制度を創設し、その利用により既存住宅の流通を促そうというものです。


(2) 問題点
施行早々ですが、日本版インスペクションには問題だらけです。制度設計がこのままでは、インスペクションとしての実効性も怪しく、その利用が広がることもないでしょう。

一番の問題は、誰のためのインスペクションかという根本が欠落していることです。インスペクションというものは、買主が購入対象不動産の品定めをするために行うものであるはずです。よって、決済を前に重大な欠陥が見つかった場合、売買契約を解除することさえ想定されなくてはなりません。

ところが、日本版インスペクションは、買主が主導するようには作られていません。日本の不動産取引慣行と併せて宅建業法を読めば、インスペクションを実施する「依頼者」(宅建業法第34条の2第1項第4号)とは、売主でしかありません。常識で考えれば、売りたいと思っている人が、わざわざインスペクション費用を支払って、不利な検査結果を買おうとはしないものです。つまり、売主主導のインスペクションには利益相反があるのです。さらに、売買契約成立で利益を得る仲介業者がインスペクション業者をあっせんするのですから、契約不成立になりかねない正直なインスペクション業者など初めから選定しないのが道理です。このように、日本版インスペクションには、何重にも利益相反が生じます。

また、日本と欧米とでは、不動産に対する価値観も異なります。日本での戸建住宅の建替えサイクルは僅か30年程度でしかありません。まだ十分に使えるきれいな中古住宅でも、築20〜30年を超えれば市場でほとんど評価されなくなってしまいます。たとえインスペクションが買主主導になったとしても、わざわざ費用をかけて、価値が低い(と日本人の多くが思い込んでいる)中古住宅にインスペクションをしたいという買主がどのくらいいるでしょうか?


思うに、インスペクションは、エスクローの一部として組み入れるべきものです。既存の不透明で非合理な不動産取引の枠組みが続くのであれば、インスペクションだけ切り離して持ってきたところで、大きな効果を期待するのは能天気というほかありません。







posted by 司法書士 前田 at 16:21| Comment(0) | 登記業務

2018年08月14日

キュルキュル音の原因は?


マウンテンバイクで走行中に後輪周りからキュルキュルという微かな音が聞こえました。プーリーのグリス切れが原因です。

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(自分にしか聞こえないキュルキュル音が・・。)


走行には全く影響ありませんが、そのまま放っておくと、すぐに音が大きくなって恥ずかしい思いをすることになるので、早めに対処することにしました。


プーリーには、テンションプーリー(下側)とガイドプーリー(上側)があります。外見は一緒ですが、それぞれ役割も構造も違うので、混同してはいけません。回転が良いだけの変な社外プーリーを使用することもお勧めしません。

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(作業前にギアはトップに入れて、チェーンが一番張っていない状態にする。)


まず、テンションプーリーを外します。ホイールをつけたままでも作業できます。

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(テンションプーリー(下側)は、ホイールをつけたままでも外せる。)

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(外した状態。)


外して、掃除をして、グリスを詰め替えて、組み直す、という単純な作業です。掃除には、イソプロピルアルコールを使います。自転車の整備で使用するグリスは、汎用のリチウムグリスです。

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(キッチン用除菌アルコールで代用。)

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(ペーパータオルにアルコールをつけて掃除。)

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(テンションプーリーの部品。軸受けはブッシング。)

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(リチウムグリスをたっぷり詰める。)

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(グリス入れ後。)

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(プーリーを固定するネジには、中強度のネジ止剤をつける。)

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(テンションプーリーの組付け完了。)


次に、ガイドプーリーについても、同じようにグリスの詰め替え作業を行います。ガイドプーリーを外すためには、ホイールを外した方が作業しやすいでしょう。

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(ガイドプーリーを外すには、ホイールが邪魔だった。)

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(ガイドプーリー。左右に1ミリ程度スライドする工夫が施されている。変な社外品に改造しないように。)

ついでに駆動系全体の掃除と注油も行いました。すぐにまた汚れてしまうでしょうが、整備とは終りのないものです。

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(ホイール外したついでに、スプロケット周りを掃除。)

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(完成・・と思ったが、また整備必要箇所を発見。整備は続く。)

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(2018年8月14日、別の自転車で表六甲線を登る。殺人的猛暑。)


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タグ:自転車整備
posted by 司法書士 前田 at 12:43| Comment(0) | 自転車

2018年08月06日

配偶者居住権等の創設について(平成30年民法相続関連規定の改正)


今般の相続法改正により、夫婦の一方が亡くなった際、他方配偶者が遺産たる自宅不動産に居住するための権利が強化されました(2020年4月施行見込)。そこで、今回は、この新制度を概観してみることにしましょう。
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1 配偶者居住権等とは
(1) どのような状況か?

改正の意味を理解するため、次のような単純化した事例を考えてみます。

事例:
「甲乙夫婦が甲の所有する不動産(以下、「自宅不動産」という。)に居住していたところ、甲が先に亡くなってしまいました。夫婦に子供がおらず、甲の親も既に他界していたため、相続人となったのは、妻乙と(民法第890条)、甲とは犬猿の仲にあった兄丙(民法第889条第1項第3号)の2人です。甲の遺産は自宅不動産くらいで、現金も預貯金もほとんどありません。乙自身にも目ぼしい財産は有りません。乙は、自宅不動産に住み続けることを望んでいます。一方、丙は、相続分(4分の1)に見合う金銭での一括補償を主張して一歩も譲りません。」

当事者の話し合いによる遺産分割協議が決裂してしまった場合、家庭裁判所の遺産分割審判による解決を図ることになるでしょう。この事例においては、審判で自宅不動産の換価競売が命ぜられて、その売却益を法定相続分通りに分割することになるでしょう。しかしそうなれば、乙は住み慣れた自宅から追い出されることになり、実情に沿った「公平」な解決と言えるかどうかは疑問です。

また、遺産分割が成立するまでに長い期間を要すれば、その間、乙が自宅不動産について不安定な権利関係を強いられてしまうのも困った問題です。

今回創設された配偶者居住権等は、このような状況に対応するための制度です。


(2) 配偶者居住権
配偶者居住権(新民法第1028条第1項等)は、原則として終身の期間(=死ぬまで)、生存配偶者が無償で自宅不動産を使用収益することができる権利です。

配偶者居住権は、無償であるという点、譲渡できないという点、生存配偶者の死亡によって消滅するという点、登記請求権があるという点等が特徴的ですが、建物賃借権に類似しています。

配偶者は、次の3つの方法によって配偶者居住権を取得することができます。

ア 遺産分割協議
イ 遺贈
ウ 遺産分割審判

遺産分割協議や遺贈によって配偶者居住権を設定できるというのは、権利の性質上当然のことです。これに対して、遺産分割審判(ウ)により他の共同相続人の反対を押し切ってでも設定しうる(新民法第1029条)としたところは画期的です。


(3) 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権(新民法第1037条第1項等)は、主に相続開始から遺産分割協議成立までの期間に限り、生存配偶者が無償で自宅不動産への居住を継続することができる権利です。建物の使用借権に類似します。

配偶者短期居住権は、法定の要件を満たせば自動的に成立する権利であって、特に合意や契約を必要としません。これに関する規定は、次の判例を昇華したものと言えます。

判例(最判平成8年12月17日):
「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。」

ただし、改正により規定されたのは「配偶者」短期居住権であるため、配偶者以外の同居相続人の居住権限については、改正法施行以降も、上記判例等にもとづいて居住権有無や代償要否等を具体的に判断する必要があります。




2 特別受益に関する改正
相続人が被相続人から遺贈又は贈与を受けた場合、当該相続人の相続分を計算するにあたって、当該遺贈等にかかる財産価値を遺産価値に含めて計算することを「特別受益の持戻し」と呼びます。これは、遺贈等の利益を享受した相続人と、それ以外の共同相続人との間の不公平を是正するための制度です。

従来から、この特別受益の持戻しについては、被相続人の意思表示(遺言等)によって適用を除外することができました(民法第903条第3項)が、持戻しが原則で、その適用除外は「持戻し免除の意思表示」をした場合の例外です。

今回の改正においては、限定的ですが特別受益の持戻しの適用について原則と例外が逆になります。すなわち、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与したときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について・・(特別受益の持戻し)を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」(新民法第903条第4項)との規定が新設されました。「推定」されるだけの持戻し免除の意思表示を、反証によって覆すことは可能です。反証できれば、の話です。

結局、配偶者に自宅不動産を遺贈等したとしても、そのことによって他の遺産に対する当該配偶者の取り分が減ってしまうという不都合な結果は、この規定によって回避されることになるでしょう。

しかし、改正にも拘わらず、持戻し免除規定が適用されるのが婚姻期間20年以上の配偶者に限定されてしまったことについては批判も多いところです。つまり、改正法の施行後であっても、相続開始までの婚姻期間が20年に届かないことが予想されるとか、配偶者以外の推定相続人に遺贈等したいとかいう場合、遺言等によって持戻し免除の意思表示を明確にしておく必要性は依然として高いのです。



3 注意事項
配偶者居住権という新たな権利概念ができるからと言って、遺産分割でこれを定めることには改正法施行後も慎重になるべきでしょう。というのも、所有権から配偶者居住権を分離することで、相続紛争とは別の紛争の種を蒔いてしまうことになるかもしれないからです。不動産の権利を分属させることには、一般的に言って相応のリスクが伴うものです。

よって、至極当然のことですが、遺される家族(配偶者に限りません。)が安心して暮らしていけるように、予め紛争を想定して生前から準備(遺言等)しておくことが理想でしょう。配偶者居住権というのは、万策尽きたときに仕方なしに利用するものだと思います。





posted by 司法書士 前田 at 18:20| Comment(0) | 相続・遺言

2018年07月30日

ブーツ靴底のDIY補修(シューズドクターでヒールリフト編)


前回に続き、シューズドクターを使ったブーツの補修です。今回は、ヒールのトップリフトを整形します。使用する道具も、使い方も前回と同じです。

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(ヒールの一番外側=トップリフト)


補修するブーツのヒールには天然皮革が張ってありますが、この歩き心地が最悪です。着地の衝撃が足に直接響くうえに、油分が抜けて劣化した革に砂利が詰まって不快な足音がします。主観的な問題だと分かっているつもりでも、レザーソールを好きだという人の気持ちが理解できません。

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(よく見ると、砂利がたくさん詰まっています。)


ヒールのトップリフトを交換するには、ヒールの形に整形したゴム板を貼り付けるのが一般ですが、今回は、革部分だけを剥がして、シューズドクターでその段差を埋めてみることにします。

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(汎用のゴム板なら、1枚100円程度。今回は使いませんが。)


まず、革を剥がして、下地を粗目の紙ヤスリでよく削ります。樹脂の定着を良くするためです。

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(革だけ剥がします。)

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(靴底に使用した革へのダメージは相当なもの。パサパサで、ボロボロ。)

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(紙ヤスリでしっかり「足付け」。)


ポリプロピレン板(シューズドクターに同梱されている。クリアファイルを利用しても構いません。)で、ヒール部分に堰を作ります。シューズドクターを整形しやすくするためです。

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(ポリプロピレン板で堰を作る。)


堰の内側に、シューズドクターを搾り出して、パレットナイフで整形します。硬化するまで丸一日放置したら、ポリプロピレン板を外します。十分な硬化時間を置かずにポリプロピレン板を外すのは失敗のもとです。

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(シューズドクターを塗りこんだ後。)

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(丸一日硬化のための時間を置く。待つことも大事。)


完成した靴底は、表面がデコボコしていてなんだか見た目がよくありませんが、2〜3日歩きまわれば目立たなくなります。だいたい、靴底なんか周りの人には見えませんので、気にしてはいけません。



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タグ:DIY おしゃれ
posted by 司法書士 前田 at 22:50| Comment(0) | 日記

2018年07月29日

ブーツ靴底のDIY補修(シューズドクターでハーフソール編)


擦り減った靴底の修理・補強方法のなかでも、効果的なのがハーフソール(半底)です。

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(一般的なハーフソール用のゴム板。)

今回は、専用ゴム板を接着剤(ゴム系「コンタクトセメント」)で貼り付けるというハーフソール方法(2017年02月13日ブログ http://wakaba-office.sblo.jp/archives/201702-1.html )ではなく、セメダイン社の「シューズドクター」を利用した方法を紹介します。

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(セメダイン社のシューズドクター。用途が豊富なため、DIY好きなら道具箱に常備すべし。)


シューズドクターは、磨耗した靴の踵(かかと)を補修するのが一般的ですが、それに限られるわけではありません。踵以外の靴底修理に使えるのはもちろんのこと、自転車等の整備でも重宝する優れものです。室内で使用しても安全(揮発しやすい有害な溶液を使っていない)なうえ、施工容易(早すぎず遅すぎない硬化時間、タレにくい粘度等)で、硬化後は適度な弾力と高い耐久性を発揮します。


用意する道具は、次の通りです。

・ シューズドクター
・ 粗目(60番)の紙ヤスリ
・ パレットナイフ
・ マスキングテープ
・ イソプロピルアルコール等の脱脂液

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(ワークブーツ(奥)とスエードブーツ(手前)。どちらもヘビロテ使用中。)

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(どちらのブーツにも既にシューズドクターのハーフソールが。)


上の写真は、既にシューズドクターでハーフソールを施した2足のブーツです。今回補修するのは、手前のスエードブーツ(マッケイ製法)の方です。昨シーズンかなりの頻度で履きましたが、淵が若干磨耗して下地のレザー底が出てきてしまっているので、磨耗部分を重点にシューズドクターで補強します。

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(淵部分が磨耗して下地が見えてきました。)


まず施工部分全体を紙ヤスリで削ります。これは「足付け」と呼ばれる下地処理で、表面積を増やすことによって、樹脂の食いつきを良くする目的があります。ヤスリをかけ終わったら、消毒用アルコール等を使って、施工部分の油脂分を完全に取り除いておきます。仕上がりの良し悪しは、下地処理で9割方決まります。

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(ヤスリがけ後。下地処理で9割決まる。)

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(汚したくないところにはマスキング。)


次に、シューズドクターを適量搾り出して、靴底全体に塗り広げます。気泡ができないように、しっかりと塗り込みます。シューズドクターのパッケージに同梱されているプラスチック製コテを利用しても構いませんが、弾力のある金属製のパレットナイフの方が便利です。

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(適量搾り出して。)

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(「あっ!」・・もう完成。)


あっという間に施工完了。24時間後には使用可能です。今回は補修のため一足(左右一組)で20g程度のシューズドクターを使用しました。最初から(レザーソール等の上に直接)施工する場合には、50gのシューズドクター1本を丸々使い切ります。


施工直後は凹凸が気になるかもしれませんが、何回か履いているうちに目立たなくなります。他人の靴の裏なんかジロジロ見る人はいませんので、気にしません。



靴マニアなら、専門業者にオールソールを依頼するかもしれません。しかし、私の靴は、どれも買い換えた方が安くつくようなものばかりです。また、靴にとって、オールソールは両刃の剣(靴を分解して組み立て直せば、基幹部品が損傷します。)でもあります。今回紹介した方法は拍子抜けするほど簡単です。是非お試しあれ。


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posted by 司法書士 前田 at 04:21| Comment(0) | 日記