2018年04月11日

成年後見制度について(問題と展望)


「成年後見人を解任したい。」という相談を被後見人の親族から受けることがあります。別に珍しいことではありません。今回は、なぜこのような相談が生じるのかその背景を考えるとともに、成年後見制度の展望について私なりの考えを述べてみたいと思います。
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1 成年後見制度とは
(1) 制度の概略
成年後見制度とは、認知症等によって判断能力の十分でない人の保護のため、その法律行為や財産管理を円滑に行えるようにするための制度です。例えば、この制度を利用すれば、認知症になった人でも、施設への入所契約を行ったり保有財産の管理や処分を行ったりすることができるわけです。

広義に成年後見制度といえば、家庭裁判所の関与の度合いが大きい「法定後見制度」(=狭義の成年後見制度)と、私人間の契約を基礎とする「任意後見制度」とがあります。さらに、前者には、保護を受ける人の判断能力の程度に応じて、「後見」(=最狭義の成年後見制度)、「保佐」及び「補助」という3類型があります。しかし、任意後見制度の利用は相対的にそれほど多くはありません。さらに、狭義の成年後見制度のうちでも、8〜9割方は後見類型が利用されているのが実情です。そこで、本稿でも、特に断りがない限り、後見類型の法定後見制度、つまり最狭義の成年後見制度について話をすることにします。

成年後見は、判断能力を欠く常況にある人について、家庭裁判所が一定の親族等の申立てにより開始します(民法第7条)。そして、後見の開始とともに、この判断能力を欠く常況にある人(「成年被後見人」といいます。)に対して、法定代理人(「成年後見人」といいます。)が付されます(民法第8条)。これによって、成年後見人が、成年被後見人の法律行為を原則として全て代理して行えるようになるわけです。ただし、成年被後見人は、単独で(=代理人抜きで)、婚姻等の身分行為をすることはできるし、選挙権を行使することも日常の買い物も問題なく行うことができます。


(2) 親族後見人と専門職後見人
成年後見制度が始まったばかりのころは、家庭裁判所に対して親族の一人を後見人候補者として申し立てて、これがすんなり認められる(=候補者たる親族がそのまま成年後見人として選任される)のが常でした。ここで成年後見人になった親族のことを「親族後見人」とい呼びます。

しかし、最近では、後見人選任をめぐる事情は大きく変化しました。平成27年に選任された成年後見人のうち、親族後見人の占める割合は3割を切る程度にまで減少しています。残り7割は親族以外の第三者が後見人になるのですが、その大部分を占めるのが、多い順に、司法書士、弁護士、社会福祉士等の「専門職後見人」です。つまり、現在では、専門職後見人が親族後見人に優先して選任されるようになったというわけです。(平成28年9月23日「成年後見制度の現状」内閣府成年後見制度利用促進委員会事務局参考資料6)

このような変化があった理由は、親族後見人による「不正」が頻発したためです。ここでいう「不正」は、主に後見人による被後見人の財産の横領を指します。成年後見制度の利用が増えるにつれ、横領の被害額も増加し、例えば家庭裁判所が平成26年単年に把握した全国の成年後見人による被害金額だけで合計約56億7000万円に達したとのことです。同じ被害を事件数でみると、平成26年単年で831件の後見事件において不正が発覚したというのです。

もちろん、親族後見人だけが横領をするのではなく、専門職後見人も横領します。前段落のデータを親族後見人と専門職後見人とに分けて見ると、全体的な傾向が分かるでしょう。

被害額約56億7000万円のうち、90.1%が親族後見人による被害額で、9.9%が専門職後見人による被害額です。さらに、事件数831件のうち、親族後見人によるのは809件(事件数全体の97.3%)で、専門職後見人によるのは22件(同2.7%)です。これを1件当たりの被害額平均に換算すると、親族後見人約632万円に対して、専門職後見人約2545万円ということです。分かりやすくまとめると、次のように言うことができます。

「専門職後見人を選任した場合に横領等事件が起こる割合は、親族後見人を選任した場合に比して遥かに低い(100分の3未満)。しかし、専門職後見人が横領等した場合には、親族後見人が横領等する場合に比して被害がかなり大きい(約4倍)。」

しかし、「後見人は横領するもの」だと単細胞に誤解してはいけません。現在、継続中の成年後見制度(広義)の利用は約20万件もあるのです。つまり、20万人の被後見人が、この制度の支援を受けているということです。横領するような不徳な後見人は、親族であれ、専門職であれ、ほんの一握りに過ぎません。大部分の成年後見人は、まじめに後見事務を行っているということはきちんと認識すべきです。


(3) 不正防止の対策
上記に挙げた平成26年をピークに、以降、成年後見人による不正は減少しています。不正防止のために行われている対策が、一定の成果をあげていると評価することも出来るでしょう。主な対策を紹介してみましょう。

対策1: 専門職後見人の選任
上記(2)のとおり、近年、専門職後見人が選任される比率が高くなってきました。法律等の専門家だから不正を行わないというわけではありませんが、専門職後見人にとって不正防止の動機付けが大きいことは当然です。仮に専門家が不正を行えば、刑事訴追されて実刑を受ける可能性が高いうえに、自身の生活の糧である資格も信用も失ってしまうわけですから、そんなリスクを冒してまで横領する専門家は稀ということです。

対策2: 成年後見監督人の選任
親族後見人が選任され、かつ、横領されやすい財産(現預金)が多い場合、後見人のお目付け役として「成年後見監督人」が付されることが多くなりました。成年後見監督人には、通常、司法書士や弁護士が選任されます。

成年後見人は、定期的(年1回)及び必要に応じて家庭裁判所に事務報告しなければなりません。つまり、家庭裁判所は、事務報告を通じて後見事務の適正を監督するわけです。しかしながら、このような監督方法は受動的で、きめ細かい監督を行うことができません。仮に後見人の不正があっても、家庭裁判所がそれを見過ごしたり、欺かれたりするかもしれません。

そこで、家庭裁判所の監督機能を強化するために選任されるのが成年後見監督人です。成年後見監督人は、専門家の目で、臨機応変に後見事務を監督し、時には後見人に助言したり、後見人と被後見人の利益が相反する行為の代理を務めたりもします。

対策3: 成年後見制度支援信託の利用
親族後見人が選任され、かつ、横領されやすい財産(現預金)が多い場合には、「成年後見制度支援信託」が利用されることも多くなりました。

「信託」の意味についてはここでは説明を省略しますが、成年後見制度支援信託とは、大雑把に言えば、被後見人の生活にとって通常必要でない現預金の大部分を信託銀行に預けてしまうという仕組みです。例えば、預金を10億円持っている被後見人にとって、1年間に必要な生活費が300万円でしかないのだとしたら、当面必要のない残りの9億9700万円を信託銀行に預けてしまうわけです。

信託された預金を利用するには、信託契約の中に予め用途、金額、支払時期等が定められているか、又はその都度家庭裁判所の指示を仰ぐ必要があります。つまり、後見人が信託財産に手を触れることができなくなれば、横領される危険もないというわけです。



2 成年後見人と被後見人の親族との不和について
(1) 成年後見制度を利用するきっかけ
成年後見制度は、被後見人たるべき本人が抽象的な法文上の要件(「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」民法第7条)に該当するようになったからと言って、当然に利用(=家庭裁判所への申立て)されるものではありません。

利用の契機となる典型的ケースを挙げてみましょう。イメージしやすいように、「精神上の障害により事理を弁識する常況」を「認知症」と置き換えて単純化してみますが、もちろん認知症に限られるわけではありません。

ケース1: 相続問題
遺産分割する必要があるが、共同相続人Aは、認知症のため協議することができない。

ケース2: 財産処分
認知症の親Aを介護施設に入れるにあたって、費用捻出のためAの資産の一部を換価したり、介護保険契約や入所契約を有効に結んだりしなければならない。

ケース3: 財産処分
認知症の親Aのために、子Bがその預金を解約しようとしたら、Aが認知症であることを知った銀行が口座を凍結してしまった。

ケース4: 親族間の財産争い
認知症のAの財産を、近所に住む親族Bが勝手に占有し自己のために勝手に使用している。他の親族Cらはこれに不満をもっている。

ケース5: 孤独
高齢者福祉担当の市職員Bが身寄りのない一人暮らしのA宅を訪問すると、Aの認知症が進行し、このまま生活を続けることが著しく困難であることが判明した。


(2) 不和はなぜ生じるのか?
上記ケース5を除いて、一般的に、成年後見制度を利用しようとする親族の動機は、目の前にある具体的問題を解決することにあります。そして、その問題解決のために利用可能な選択肢が成年後見制度だけであるということも少なくありません。それならば、成年後見人は、親族に有り難がられる存在であるはずです。ところが現実には、冒頭の相談のように、親族から「成年後見人を解任したい。」という発言が出てくることがあります。なぜでしょう?

このことは別に矛盾ではありません。というのも、被後見人の親族は、目の前の一回的問題を解決したいだけであることが少なくありませんが、成年後見制度というのは、被後見人が死亡するまでの継続的な財産管理を目的とする制度であるからです。つまり、制度利用の具体的動機と、その制度趣旨が全く違うのです。目の前の問題が過ぎてしまった後にも居残っている成年後見人が、親族にとっては邪魔者に見えてくることがあっても不思議ではありません。

さらに、もともと被後見人の財産をめぐって親族間に争いのあるケース4のような場合には、専門職後見人が親族の憎しみの対象になってしまうことも少なくありません。

また、専門職後見人は、仕事として後見事務を行っているのですから、当然報酬を取るのですが、この報酬は、「報酬付与の審判」という家庭裁判所の決定によって、被後見人の資産の中から支払われます。誤解の多いところですが、専門職後見人が管理する被後見人の財産から、好き勝手に報酬を取って(「お手盛り」)いるわけではありません。しかし、親族にとっては、この報酬の仕組みも、専門職後見人に対する怨嗟の原因になることがあります。



5 成年後見制度の問題点
以下、成年後見制度について私が不満に思っていることを挙げてみましょう。

(1) 重厚長大な制度
例えば、認知症の共同相続人が関わる遺産分割のような場合(上記ケース1)、成年後見制度を利用する他に適切な(=違法・脱法でない)選択肢がありません。しかし、現実には、管理されるべき本人の財産がわずかしかないとか、親族が十分満足にに本人を事実上「後見」できているとか、本人の実情に沿った臨機応変な解決が図れないとかいった様々な理由で、成年後見制度を利用するのが妥当でないと思われることが多々あります。成年後見制度が重厚長大過ぎて、使いづらいということです。


(2) 家庭裁判所の監督機能の不備
不正が起こってしまう原因を不徳な成年後見人の側にだけ求めるのは、一方的だと思います。成年後見人は、不正の誘因に囲まれており、成年後見制度に十分な不正防止機能が当然に備わっていて然るべきなのです。ところが、この制度は、制度設計においてもその運用においても、性善説にもとづいているように思われてなりません。

成年後見制度の利用は、右肩上がりで増え続けています。大雑把に言えば、毎年新たに約1万人ずつ成年後見制度(広義)の利用者が増えています。そして、一旦利用が開始されると、基本的には利用者が亡くなるまで継続します。これに対して、制度運営を監督すべき家庭裁判所の人員はそれに釣り合うだけ増員されることはまずありません。

専門職後見人や成年後見監督人の選任を増やすという最近の傾向も、意地悪な見方をすれば、家庭裁判所の監督機能不足を、被後見人の負担で補っているとも解することができます。


(3) 後見人の担い手不足
司法書士、弁護士、社会福祉士等の専門家にとっても、親族とのトラブルに巻き込まれる可能性の高い後見事務は、引き受けるのに勇気のいる仕事です。さらに、被後見人の財産状況によっては、専門職後見人の報酬がほとんど出ないボランティアのような仕事になってしまうことも少なくありません。

近年、市民のなかから後見人としての人材を育成する「市民後見推進事業」が自治体規模で行われるようになりました。しかし、これも意地悪な見方をすれば、後見事務の負担を善意の市民に押し付けていると解されなくもありません。


(4) 費用
現在、成年後見制度の利用のための費用(申立費用及び後見人報酬)を公費で援助する仕組み「成年後見制度利用支援事業」を実施する自治体が全体の約8割を超えています。つまり、資産のない本人も成年後見制度を利用しやすくなりつつあるということです。

とは言え、成年後見制度の利用が本人負担であることに変わりありません。さらに、専門職後見人が付された後見事件においては、被後見人本人の負担は決して小さいものではありません。上記のように、成年後見人に対する報酬は家庭裁判所が決定し、資産の規模や個別事情に応じて一応の相場が形成されているため、被後見人を害するような不当な報酬が支払われるということはありません。

しかし、誰しも判断能力が衰えたり失われたりする可能性があるのに、その解決を原則各人負担とすることが制度として妥当なのか、考え直す必要があると思うのです。


(5) 他の制度的選択肢(任意後見制度、信託)
成年後見制度(狭義)の「不便」を問題として、任意後見制度や民事信託を推奨する自称「専門家」達がいます。これら各制度の内容について本稿では説明を省略しますが、私は、成年後見制度以上に不正の温床になりやすく、監視機能の欠けているこれらの利用を、現状のままでは誰に対しても勧める気にはなりません。

そもそも、ここで成年後見制度の「不便」として語られるのは、保護されるべき本人の「不便」ではなく、親族の都合であることが常であるように思います。また、推奨している「専門家」たちも、本人の利益を思ってそうしているのではなくて、頭の中で自分の算盤をはじいているだけのように見えます。



6 展望
(1) 法的選択肢の拡充
判断能力を失ってしまった本人が、法律行為を有効に行うためには、現在、成年後見制度を利用することがほとんど唯一の選択肢です。ところが、成年後見制度は、一回的な法律行為のための制度ではなくて、包括的かつ継続的な財産管理の制度です。このため、目の前の法律問題を解決するという目的のためには、成年後見制度が重厚長大に過ぎると感じることが少なくありません。

思いつきに過ぎないと叱責されるかも知れませんが、家庭裁判所の関与のもとに一回的な問題解決に適するような特別代理人を選任するような仕組みがあればと思います。親権者と子の利益が相反する場合に特別代理人が選任される(民法代826条第1項)のと同じようなイメージです。


(2) 後見監督事務のIT化、AI化?
成年後見制度に対する家庭裁判所の監督機能は不足しています。この不足を補うため、専門職後見人の選任が増加し、成年後見制度支援信託の利用が促されることとなりました。しかし、家庭裁判所は、監督機能不足の問題を解決したというよりは、つまるところ、これを被後見人本人に押し付けただけなのではないでしょうか。専門職後見人の報酬も、成年後見制度支援信託利用のための費用も、結局は被後見人本人が負担するのですから。

だからと言って、私は、単に家庭裁判所の後見部門の人員を増やせばよいとは考えていません。というのも、財産管理という事務は、IT(情報技術)やAI(人工知能)と非常に親和性があると考えるからです。外部者である私が言うのもおこがましいことですが、家庭裁判所が後見監督事務をIT化する余地は無限にあるように見えます。

一例として、成年後見事務を扱う司法書士でつくる公益社団法人リーガルサポート(私自身は会員ではありません。)は、会員からの同法人に対する後見事務報告(家庭裁判所への報告の事実上の前審査に相当)を独自のオンラインシステムを用いることによって省力化・自動化しています。同システムでは、不正が疑われるような事案も、データ間の齟齬からすぐに探知されてしまいます。

リーガルサポートの存在自体に議論のあるところですが、家庭裁判所が後見監督事務をIT化するうえで同法人の取り組みをモデルとすることができるでしょう。裁判事務をオンライン化するという発想に対しては、紙至上主義の人達からの拒絶反応が予想されますが、そんなものは時代錯誤だと思います。コンピューターの方が人よりも優れているような分野の仕事は、コンピューターにさせるべきです。


(3) 成年後見制度支援信託の利用拡大
さきに紹介した成年後見制度支援信託というのは、法律上の制度ではなくて、家庭裁判所の実務上の取扱に属する制度です。現在、成年後見制度支援信託は、親族後見人が選任され、かつ横領されやすい形態の積極財産(現預金)が一定額(1200万円程度)を超える場合、利用されています。

私は、この制度を専門職後見人が選任された後見事件にも積極的に適用すべきだと考えます。専門家だからと言って、被後見人にとって通常必要のない額の財産を手の届きやすいところ(普通預金や定期預金)に置いておいて良いということにはならないからです。それに、一旦、専門家が横領すると、その被害額は多額になる傾向があることは前記した通りです。

成年後見制度支援信託の利用を広げることは、家庭裁判所の運用を変更するだけで簡単にできることです。ただし、そのためには、費用をもっと下げる必要もあるでしょう。

ここで、費用というのは、主に信託契約時に一時的に選任される専門職後見人の報酬のことです。成年後見制度支援信託を利用する際には、法律の専門家でない親族後見人が信託という複雑な契約を結ぶのは困難であることから、親族後見人に追加して一時的に専門職後見人が選任され、信託すべき財産の規模や契約内容を精査し、信託契約だけを代理します。 そして、この報酬の相場は、30万円〜と言われています。もちろん、この報酬も家庭裁判所が決定するので、別にお手盛りではありません。しかし、私には、信託契約を行うという型通りの事務をするのに、30.万円〜の報酬を取るほどの手間がかかるとは到底思えません。

仕事でやっている以上専門家が報酬を取るとこは当然だと思いますが、成年後見制度は被後見人のための制度であるということを忘れてはいけません。成年被後見人に、不正防止の費用を転嫁するという発想がおかしいと思います。

他方、信託銀行に支払う信託報酬は、銀行にもよりますが、既に利用を普及させるに十分な程度に低廉であると思います。振替を行うのが主な事務ですから、報酬もそれに見合う程度です。


(4) 少子・高齢化:赤の他人が支えあう社会
国民が全体として若く、大勢の親族たちが限られた地域に集まって生活するのが普通であるような社会においては、判断能力の衰えた本人を親族の誰かが事実上「後見」して、それでなんとなく全て丸く収まってしまうことでしょう。しかし、残念ながら、現在の日本はそのような社会ではありません。少子化と高齢化は、今後も数十年間は進行する見込みです。それに伴って、判断能力が衰えたにもかかわらず誰にも頼ることのできない高齢者もますます増えていくことでしょう。成年後見制度の出番も増えるわけです。

さらに、上記のように、現在、専門職後見人は、親族後見人の倍以上選任されるようになりました。不正防止という動機を除いても、赤の他人が赤の他人を後見するということは、将来的には当たり前になっていくでしょうし、そうならざるを得ないと思います。

ところで、現在の成年後見制度は、個人の行為能力を補うためのものでしかなく、その利用負担も当の個人にかかってくるような考え方にもとづいて設計されています。つまり、極端な言い方をすれば、ある程度の資産を持っている人を利用者として想定しているわけです。

しかし、少子化と高齢化が進んだ社会を見据えたときに、制度の想定する利用者はもっと広くあるべきでしょう。私は、成年後見制度は、介護保険制度などと同じく、社会保障の一つとしてきちんと位置づけられるべきと考えます。判断能力の低下や喪失という事態は、誰にでも高い頻度で起こりうることなのですから、国民全体でその危険を負担し合うという社会保障の考え方にもとづいた制度にすることが妥当だと思うのです。
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7 私(司法書士)自身の成年後見制度とのかかわり
私は、成年後見の申立事件や継続事件に関する書類作成を受託することは多々ありますが、実は、誰の後見人にもなっていません。今後も、この制度が大きく変わらない限り、後見人になるつもりはありません。私が後見人にならない方針であるのは、現状の成年後見制度について、本稿で述べたようないろいろな不満を持っているからです。

その一方で、私は、成年後見制度が日本の社会保障において大きな役割を果たすような制度に成長することを夢に見ています。私自身にも、私の大切な人たちにも、いつか判断能力が無くなってしまう日が訪れるかもしれません。その時には、呆けた私達が安心して暮らせる社会になっていたらと切に願っているのです。


posted by 司法書士 前田 at 19:36| Comment(0) | 成年後見

2018年02月11日

大きな頭で行こう!(帽子ストレッチャーをDIY)

頭が微妙に大きい(頭周59.5cm)私にとって、アジア男性平均サイズ(58±1cm)の帽子は困ったものです。デザインが気に入って購入したものの、小さすぎて被れない帽子もいくつか持っています。サイズの合わない帽子は、額にくっきり痕がつくだけでなく、頭痛の原因にもなります。

そこで今回は、自作の帽子ストレッチャーで、きつい帽子をサイズアップしてみることにしたのです。


帽子ストレッチャーといえば、Hat Jackです。これと同じ仕組みのものを自作します。
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用意する材料は、「ターンバックル」と言われる金具とカマボコ板5枚です。サイズアップしたいのは、umii908(ウミキューゼロハチ)ブランドのウール100%(ヘッドバンドと裏地は綿100%)ハンチング帽です。
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まず、完成品をイメージしてカマボコ板を木工用ボンドで接着し、その後、釘で固定します。
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ヘッドバンドにあたる部分を、ナイフで丸く削ります。完璧を求める人は、ヤスリで滑らかに仕上げてもよいでしょう。
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購入したターンバックルのサイズがちょっと大きすぎました。そこで、片方のフックを切断して、長さを調整することにしました。
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帽子のヘッドバンド部分をファブリーズで湿らせて、少しずつ伸ばします。湿気によって一旦繊維の結合を緩めて伸びやすくするのです。スチームアイロンを使っても良いし、沸騰したやかんの口から出る蒸気を当てても良いでしょう。
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帽子にストレッチャーをはめたまま、4〜5時間放置すれば完成です。試しに被ってみましたが、オーダーメイド品かと思うほどのフィット感です。
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ユニクロのスウェット生地ハンチングもサイズアップしました。帽子の素材にもよりますが、この方法で+1cmくらいまでのサイズアップが可能です。天然素材は、空気中の湿気を吸収排出したり、洗濯したりすると縮んでしまうことがありますが、その時にはまたストレッチャーでサイズを調整すればよいでしょう。
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費用対効果: ターンバックル 299円(税抜)
       カマボコ板    0円
       満足度     priceless




タグ:DIY おしゃれ
posted by 司法書士 前田 at 15:50| Comment(0) | 日記

2017年12月30日

中間省略登記の野放しをやめよ!

今回は、新・中間省略登記の是非について考えてみましょう。

実は、この問題は10年以上前に結論が出され(法務省等の公式見解が出ている。)、以来、ほとんど異論をはさむ余地がないとも言われています。今日では、不動産業者だけでなく、金融関係者や司法書士等のなかにも、新・中間省略登記を有益な方法として喧伝している者が数多く存在します。

しかし、中間省略登記が誰にとって何のために有益なのか、ここであらためて考える必要があると思うのです。
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1 中間省略登記と新・中間省略登記
(1) 中間省略登記とは
中間省略登記をめぐる状況は、平成17年(2005年)に現行の不動産登記法(以下「新法」という。)が施行される前後で異なっています。まず、平成17年以前の旧不動産登記法(以下「旧法」という。)のもとでの中間省略登記についておさらいしてみましょう。

中間省略登記とは、典型的には、Aが所有する不動産をBに売却し、続けてBが同じ不動産をCに売却するという2つの売買取引が連続する場合に、中間者Bへの登記を経由せずに、AからCに直接所有権移転登記を行うことを指します(以下、「A」、「B」及び「C」の符号を同様の意味で用います。)。理論上、取引の種類は「売買」に限られるわけではないし、登場人物の数も三者に限られるわけでもありません。実際、登場人物の数は、四者(省略される中間者が2名)とか五者(省略される中間者が3名)とかになることも多々あります。

中間省略登記は、旧法のもとでも理論上は禁止される(=却下事由となる)登記申請手法でした(旧法第49条7号)。中間省略登記が禁じられる実質的な理由は、物権変動の過程が登記記録のうえに忠実に反映されていなければ、登記記録を遡ることによって真の権利関係を確認することが困難になるためです。つまり、我が国の不動産登記制度は、登記に公信力がない(=登記記録の記載内容を信用した取引当事者が必ずしも保護されない)という前提で、権利変動過程を忠実に公示することで取引安全を確保する機能をはたしているわけです。中間省略登記は、この不動産登記制度の趣旨に反するものです。

しかしながら、旧法下で、登記原因を証する書類(売渡証書等)が必須の申請提出書類ではなかった(旧法第40条)ため、中間省略登記は横行していました。つまり、登記申請を審査する登記官にとっては、二当事者間の通常の所有権移転登記と、隠れた中間者が介在する所有権移転登記とが区別できないような仕組みだったのです。

中間者にとって、中間省略登記をすれば、登録免許税や不動産取得税という重い税金負担を回避しながら、売主Aと買主Cとの間の複数の転売取引の価格差を取得する(=「中を抜く」)ことが出来たわけです。中間者はもちろん一般の人ではなくて、不動産業者です。

また、ここで転売取引といっても、このような場合の転売は、所有者Aから不動産業者Bが不動産を仕入れ、最終買主Cを探して来て、これをCに売り渡す、というような呑気なものではありません。むしろ、実体は、売主Aと買主Cが内定したところに、Bが割り込むというものです。このとき、A・B間の売買取引の代金と、B・C間の売買取引の代金は同時に決済されます。つまり、Bは、自分では取引のための資金を全く準備せずに割り込んできて、Cのお金をAに流す途中で、一部を懐に入れるのです。


(2) 中間省略登記についての判例の立場
中間省略登記の可否について、判例は、中間者を含む当事者全員の合意があることを条件として是認する立場であると一般に解されています。

最判昭和40年9月21日は、「甲⼄丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきである。ただし、中間省略登記をするについて登記名義⼈および中間者の同意ある場合は別である。・・・登記名義⼈や中間者の同意がない以上、債権者代位権によって先ず中間者への移転登記を訴求し、その後中間者から現所有者への移転登記を履践しなければならないのは、物権変動の経過をそのまま登記簿に反映させようとする不動産登記法の建前に照らし当然のことであつて、中間省略登記こそが例外的な便法である。」と言っています。

これを素直に読めば、訴訟による場合でも、A→B→Cと順番に移転登記を訴求するのが原則であって、中間省略登記は、登記名義⼈および中間者の同意があるという場合に限って許される例外ということです。

ただ誤解してはいけませんが、この判例は、中間者の同意書があっても中間省略登記申請が許されないという不動産登記手続きの取扱いに矛盾するものではありません。登記官にはもともと不動産登記法という手続法の枠外に生ずる例外について審査する能力も権限もないのです。


(3) 不動産登記法改正と中間省略登記の禁止
平成17年、新法が施行され、登記申請の際に、登記原因を証する書類(=「登記原因証明情報」)を必ず提出しなければならないことになりました(新法第61条)。これは、中間省略登記が事実上も禁止されたことを意味します。

つまり、新法のもとでは、A→B→Cという所有権の移転があった場合には、AからBへの所有権移転を証する書類を提出してA→Bという所有権移転の登記を行ったうえで、BからCへの所有権移転を証する書類を提出してB→Cという所有権移転の登記を行うという二段階を必ず履践しなければならなくなったわけです。この場合に、AからCへの中間を省略した証明書類を使って登記申請すれば、公正証書原本不実記載等罪に該当してしまいます(刑法第157条第1項)。

予想される通り、この変更に反発したのは不動産業界でした。上記1(1)のとおり、不動産業者は、転売の中抜きによる利益を享受する立場だからです。また、中間者を登記記録に記載してしまうことにより、登録免許税と不動産取得税の負担を避けることが出来なくなってしまいます。


(4) 新・中間省略登記の登場
ところが、平成19年、法務省は、「第三者のためにする契約」(民法第537条)又は「買主の地位の譲渡」(最判昭和30年9月29日等、平成29年改正民法第539条の2参照)という法律構成によって、事実上、中間省略登記を再び容認するような見解を明らかにしました(平成19年1月12日民二52民事局第二課長通知)。この見解にもとづく登記手法は、2回(又はそれ以上)の売買取引を想定した従来型の中間省略登記とは区別して、「新・中間省略登記」と呼ばれます。

新・中間省略登記においては、上記2つのうちいずれの方法によっても、対象不動産の所有権は、売主から買主へと直接移転するとされます。中間者は第三者に対して直接効力が生ずる契約を締結するだけの役者(=「要約者」)として、あるいは物権変動前の抽象的地位(=「買主の地位」)を売主から買主に流すだけの者として扱われます。つまり、中間者は一度も不動産の所有権を取得しないので、登記する必要はないというのです。

法務省がかかる新・中間省略登記を容認するに至ったのは、当時の内閣諮問機関である規制改革・民間開放推進会議の答申(平成18年12月25日「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申」p.175 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/old/minutes/meeting/2006/10/item_1225_04.pdf )を受けたものです。ここでは、かかる取扱いの必要性について、「@不動産登記法改正前と実質的に同様の不動産登記の形態を実現し、A現場の取引費用の低減ニーズに応えるとともに、B不動産の流動化、土地の有効利用を促進する」(符号筆者)という理由が掲げられていました。

前段落の理由@(「理由」というより「目的」ですが。)を見れば明らかなように、新・中間省略登記は、実質的には中間省略登記と同じものと位置づけられています。ならば、新・中間省略登記の法律構成(=「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡」)も、詭弁にしか過ぎないでしょう。

結局、政府は、不動産業界の代弁者として、中間省略登記を復活させてしまったのです。



2 新・中間省略登記の問題
(1) 擁護派のその他の言い分について
新・中間省略登記を支持する理由として、上記1(4)中の「A現場の取引費用の低減ニーズに応えるとともに、B不動産の流動化、土地の有効利用を促進する」点について考えてみましょう。

先ず、「取引費用の低減ニーズ」というのは、換言すれば、転売取引で中間者となる不動産業者が登録免許税や不動産取得税を納めたくないということです。しかし、そもそも中間省略登記は、転売の場面で、中間者が差額を中抜きするのを目的として行われるものです。売買の当事者にとっては、不要な転売が促進されるため、費用低減どころか、損失を増やすだけです。つまり、売主と買主は、本来手にすべきであった利益を、中間者にかすめ取られてしまうのです。

中間者が税金を納めなくて良いという点も、不動産業者を過度に優遇するだけであって、国民全体にとっては損失でしかありません。

次に、中間者だけが得をするような中間省略登記の仕組みが、不動産の流通や有効活用を促進する結果になるというのも飛躍しすぎた理屈です。不動産業界を肥大化させることと、不動産の流通・利用を促進することは全く別の話です。また、不動産証券化の際に中間省略登記を用いるニーズがあると説く人がいますが、これも取ってつけたような言い訳に見えます。


(2) 取引の不透明化
売主Aと買主Cとは互いに中間者Bを取引相手としているので、互いの存在を知らない又は気づかないこともしばしばです。AとCの知らないうちに、B1、B2、B3と、複数の中間者が割り込むこともあります。さらに、Bが、中抜きだけを目的としたペーパーカンパニーということも珍しくはありません。

このような不透明な取引が、「政府公認」として堂々と行われているのです。


(3) 「地面師」について
昨今、「地面師」という単語がメディアを騒がせるようになりました。地面師とは、他人の土地を売って、その売買代金を詐取するという詐欺手口、又はそのような手口を用いる詐欺師のことです。積水ハウスやアパホテル等、不動産取引のプロですら大きな被害に遭いました。

地面師は、権利証や印鑑証明書等を偽造することによって土地の所有者に成りすますのが典型です。しかし、最近の地面師はもっと巧妙です。最近の被害事例の中には、土地の所有者に成りすますのではなしに、本物の土地所有者を取引に連れて来て、代金だけを詐取するというものすらあります( http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53739 )。取引が不透明になると、そのようなことが可能になってしまうのです。取引を被害者にとって不透明にするための道具として、新・中間省略登記は必ずといってよいほど用いられる詐欺師にとって便利な道具です。


(4) まとめ
本稿で述べたことは、不動産取引の一端にでも関わる者ならば大抵は知っている常識です。知らないのは不動産取引の当事者となる一般の(「不動産業関係者でない」という意味で)人だけです。

私は、個人的には、中間省略登記だろうが新・中間省略登記だろうが実質は同じであって、一般の人達や社会全体にとっては有害なものでしかないから、禁ずべきであるという意見です。しかし、残念ながら、私の意見は、現状を変えるほどの力を持ちません。少なくとも、本稿を読んでくださった方々には、新・中間省略登記のカラクリを理解し、上手く操られることがないようにと願います。
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posted by 司法書士 前田 at 14:17| Comment(0) | 登記業務

2017年12月23日

仮差押と債権の消滅時効中断について(最判平成10年11月24日と平成29年民法改正)

仮差押には、判例によって事実上他の時効中断事由(現行民法第147条)とは異なる特殊な効力が認められています。今回は、この効力について紹介するとともに、本年(平成29年)の民法大改正によって、それがどのように改められたのかを確認してみることにしましょう。



1 仮差押による時効の中断
(1) 消滅時効の中断とは
権利者であっても一定の長期間にわたって権利行使を怠っていれば、権利行使できなくなってしまうという規律を消滅時効の制度といいます。消滅時効制度は、権利行使を怠ってきたという事実状態から生じるいろいろな不都合を解消するために存在します。つまり、消滅時効は、権利者と義務者の利害バランスを調整したり、権利の存在又は不存在の証明困難を救済したりするために存在しているのです。

消滅時効にかかる権利の代表的なものは債権ですが、地上権や地役権等の財産権も時効によって消滅することがあります。債権の場合、債権者が債務者に対し10年(現行民法第167条)権利行使しなければ、その債権が消えてしまうわけです。

消滅時効制度があるため、債権者も、安穏としているわけにはいきません。債権者は、自分の権利が時効消滅しないようにするための防御手段を取る必要があります。この消滅時効の完成を妨げる手続を「中断」といいます。ここに云う中断は、時効の進行を単に停止させるだけでなく、リセットするという2つの法律効果を生じさせる概念です。債権の消滅時効に即して言えば、債権者が9年間放置していた債権の時効の進行を9年目に中断すれば、その債権の時効は、中断事由が生じた時点で進行を停止し、中断の事由が終了した時点から(現行民法第157条)再びリセットされた10年の時効期間を算定し直すことになります。

現行民法において、中断事由として定められているのは、次の3つです(現行民法第147条第1〜3号)。
・請求
・差押さえ、仮差押え又は仮処分
・承認

上記のうち、「請求」とは、債権者の単なる「支払え」という債務者に対する要求行為(「催告」)では足りず、訴訟提起等の裁判上での権利行使のことを指します。これに対して、「承認」は、債務者が債務を負っていると認める行為であれば広くこれに該当します。例えば、一部弁済したり支払猶予を求めたりすることも「承認」に当たり、時効が中断します。

差押えや仮差押えも含めて、これらの中断事由は、権利不行使の状態を破るという共通点があります。


(2) 仮差押による時効の中断の効果(最判平成10年11月24日)
実は、時効中断事由の中で、仮差押えによる時効中断の効果については、法文上明確ではありません。すなわち、「仮差押えをした場合に、一旦停止した被保全債権の消滅時効は、いつ再び進行し始めるのか?」という問題について、従来から争いがありました。この問題について、最判平成10年11月24日は、次のように結論づけました。

「仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である。 けだし、民法147条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであ り、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえないからである。また、民法147条が、仮差押えと裁判上の請求を別個の時効中断事由と規定し ているところからすれば、仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力がこれに吸収されて消滅するものとは解し得ない。」

これを分かりやすく言えば、債務者の不動産に対して仮差押えの登記がなされている限り、被保全債権についての債権者の「権利の行使が継続」しているのであるから、被保全債権は時効消滅することがないということです。被保全債権について行われた仮差押えの消滅時効に関する効力と、本案で同じ債権について勝訴判決が確定したことに伴う消滅時効に関する効果との間にも何の関係もないとの判断です。


(3) 判例の問題点
上記判例の理屈には致命的な問題があります。

仮差押えは、本執行の準備行為に過ぎません。そして、その申し立てのためにも、被保全債権の存在を「疎明」することで足ります。さらに、保全手続内での、債務者の防御機会も制限されています。

これらのことは、同じく中断事由である「請求」と比較して著しくバランスを欠いています。「請求」として本案訴訟を提起する場合には、原告たる債権者は債権の存在を「証明」しなければなりません。もちろん裁判上の請求に対する被告たる債務者の防御の機会は保障されています。さらに、訴状の送達によって停止した債権の消滅時効は、判決の確定によって、再び進行を開始します(現行民法第157条第2項)。

そもそも、保全手続きとは、債務者に気づかれないうちに取り急ぎ執行対象財産を確保しておこうという密行性と不確定性を特徴とする手続なのです。ところが、上記判例は、「仮」に過ぎない仮差押えによって、永遠に時効消滅しない債権を作ってしまったとも解されるのです。

実際、上記判例の後、仮差押えを濫用する事例がしばしば出現するようになりました。つまり、債権者は、本執行の可能性が皆無と言えるような場合にも、債務者の不動産に仮差押してさえいれば安泰だと考えるようになったわけです。このような濫用事例においては、債権者は、債務者に対して本案の訴訟を提起することすらないのが普通です。債権者は、仮差押えの手続だけ申し立てて、仮差押登記をつけっぱなしに放置したまま、本当に「債務者」であるか証明されてもいない相手の側から、いつになるか分からないような遠い将来に任意の支払いを申し出て来るまで、気長に待ってさえいればよいのです。

私は、債権者が権利のうえに眠ることを許してしまうような判例の理論は、時効制度の趣旨にも保全制度の趣旨にも反していると考えます。


2 時効に関する民法の改正
(1) 概念整理:「中断」から「完成猶予」「更新」へ
「中断」には、時効の進行を停止させるという効果と、時効期間をゼロから起算し直すという効果とが不可分に伴うとされています。しかし、従来から、前者の効果のみを持つ「停止」(現行民法第158〜161条)という概念があったし、「催告」(現行民法第153条)の効果も前者に近いものと考えることもできます。つまり、「中断」は、概念的に十分整理されているとは言えないわけです。時効中断事由として、「請求」、「差押え」、「仮差押え」、「承認」等が同列に規定されてしまっていることも、混乱を招く原因でした。

そこで、平成29年改正法においては、「中断」及び「停止」という概念の代わりに、時効の進行を停止させる効果を「完成猶予」として、時効期間をゼロから起算し直すという効果を「更新」として整理し直しました。

この概念整理に伴って、改正法は、従来時効の中断・停止事由として一緒くたに規定されていたものを、完成猶予効と更新効の両方を持つ事由(裁判上の請求、強制執行等。改正民法第147条、148条)、完成猶予効のみを持つ事由(仮差押え、催告、協議合意、後見人等不在、夫婦間の権利、相続財産に関する権利、天災等の場合。改正民法第149〜151条、158〜161条)、及び更新効のみを持つ事由(承認。改正民法第152条)とに分けて規定しました。


(2) 仮差押の完成猶予効
改正民法第149条は、仮差押え等の事由が生じた場合、「その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない。」と規定しています。つまり、改正法のもとでは、仮差押えを行っても、6箇月という短期間のうちに本案の裁判を提起したりしない限り、もともとの時効期間(リセットされない)が経過すれば、消滅時効が完成してしまうわけです。

この改正は、保全手続きの不確定性という性質に適合したものです。また、この改正により、上記1(2)の最高裁の判決は判例としての意味を喪失します。


(3) その他、時効に関する改正点
上記の他にも、時効に関しては、消滅時効期間の統一が行われました(改正民法第166〜169条)。また、現代社会において既に社会的役割を失っている短期の消滅時効(現行民法170〜174条、商法第522条)に関する規定は全て削除されました。
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今回改正された民法は、平成32年4月1日に施行される予定です。同改正には、時効に関連する他にも、興味深い論点がたくさんありますが、それらについては、また別稿で紹介したいと思います。
posted by 司法書士 前田 at 11:12| Comment(0) | 金銭トラブル

2017年10月01日

コースターブレーキの整備(クラッチ滑りの原因は?)後編

2017年9月初めにtern link uno (シングルスピードの小径車)のクラッチ不調を解決するためにコースターブレーキを分解洗浄して、しばらく運用を続けながら様子を見ていました。しかし、漕ぎ出しにクラッチが「ニュルッ」と滑る感触がどうにも気持ち悪くて仕方ありません。
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(室内での自転車いじり。汚れないように気を使う。)

そこで、根本的な解決を図るべく、クラッチ部品(クラッチコーン)を交換してみることにしました。
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(古いクラッチ単体で見れば、それほど問題があるようには見えないが・・。)

コースターブレーキを再度分解して、問題となっているクラッチコーン(上の画像右)を取り出してみました。新品のクラッチコーン(画像左)と比較してみると、確かにハブシェルをクラッチ(結合)する部分が磨耗しているのが分かります。とはいえ、溝もまだ残っており、それほど酷い磨耗でもないように見えます。クラッチコーン内部のスプリングには問題ないようです。

クラッチを交換したついでに、チェーンリング・クランクとチェーンを厚歯用のものに交換してみました。チェーンリングは、52丁から48丁に歯数を減らし、街中での運用により適した仕様としました。
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(厚歯は耐久性向上のため。歯数減少は街中での扱いやすさのため。)

早速、交換したクラッチの調子を確認するために、表六甲線の入り口である六甲ケーブル下駅までの約2km強の登坂テストを行いました。動力の伝達効率が格段に向上したことを実感しました。
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(自転車は絶好調、乗り手はもう限界。)

タグ:自転車整備
posted by 司法書士 前田 at 10:08| Comment(0) | 自転車